世界のデジタル通貨事情、日本のポテンシャルと課題
「暗号資産」「CBDC」では周回遅れ
ハナエ:世界から見て、日本のデジタル化やデジタル通貨はどのぐらい進んでいるのですか?
時田:まず、「暗号資産」の分野では日本は遅れています。なぜなら、2018年に暗号資産の取引所であるコインチェックがハッキングされ、580億円相当の暗号資産が盗まれました。その結果、いろいろな制度上の規制が強化され、すっかり勢いを失いました。
ハナエ:私の周りでも、あのタイミングでいったん手を引いた人は多かったです。
時田:それに対して、法定通貨をデジタル化する「デジタル通貨」には2種類あり、一つが中央銀行が発行する「中央銀行デジタル通貨(CBDC)*1」で、もう一つが民間銀行の預金を裏付けに発行する「民間銀行デジタル通貨」です。
CBDCに関してはカリブ諸島のバハマやカンボジアなどの小さい国で発行が始まり、先進国のなかでは中国がデジタル人民元の実証実験を進めるなどもっとも先行しています。
一方、欧米や日本の中央銀行はまだ実証実験の最初の段階です。CBDCにはさまざまな課題があり、例えば、EUでは、一人当たり40万円ぐらいの取引制限をかけるといった話も出てきています。これは、民間より信用力の強い中央銀行に預貯金が流出してしまう可能性があるためです。
民間主導のデジタル通貨ではリード
ハナエ:ディーカレットDCPは最初から民間銀行発行で進めていますね。
時田:そうです。このことはホワイトペーパーを出した際に金融庁や日銀とも会話をしたりして着実に開発を進めています。
時田:またディーカレットDCPが主体で取りまとめている、各産業をリードする約100企業が参加する「デジタル通貨フォーラム*2」も、民間主導のデジタル通貨の取り組みでは日本で一番大きいです。海外を見渡しても、同類のものは今のところありません。
ハナエ:キャッシュレスでは日本は世界から遅れているとずっと言われてきましたが、民間発行のデジタル通貨では進んでいるわけですね!
実は、キャッシュレス先進国だった日本
時田:ただ、まだ油断は禁物です。なぜかと言うと、日本は元々キャッシュレスの取り組みは早かったんです。Suicaってずいぶん前からあるでしょう?
ハナエ:確かに、物心ついた頃にはもうありました!
時田:あのプラスチックカードにお金が入る仕組みを、2001年に実装させることができたのはかなり画期的なことだったんです。東京の自動改札って世界の中でもものすごい通行量で、東京駅だけで1日に億単位のお金が入ってきます。
それが、あんな薄くて手のひらサイズのカードに収めることができるようになった。そんな仕組みは世界中探しても、日本以外どこにもなかったわけです。しかし日本では、Suicaなど交通系ICカードはだいぶ普及しましたが、キャッシュレスそのものが社会全体には根付かなかった。
ハナエ:現金信奉者が多いからですか?
時田:現金優位の支払い方法が主流なことは大きいです。例えば、自動販売機や券売機など、日本って現金が便利に使えるようにできています。むしろキャッシュレスに対応する方がお金がかかったりして。
逆に中国のように盗難や偽札などの危険があり、安全な現金流通システムが整っていなかったところの方が一足飛びにキャッシュレスが普及しました。日本は現金の流通網がしっかりと整備されていたからこそ、キャッシュレスへ移行できなかったのです。
社会全体のデジタル化が課題
ハナエ:デジタル化された方が店舗側はお金の処理や保管の手間が減り、だいぶ楽になりますよね?
時田:その通りです。なぜなら、現金管理コストってものすごく高いからです。しかし、上の世代のデジタル化が課題であることは否めません。中小企業の取引はいまだにFAXがたくさん使われています。
つまり、お金だけデジタルになっても相対となる取引や業務がデジタル化されないとデジタル通貨を使う効果がないわけです。デジタル通貨の普及を妨げる一因は、デジタル化が社会に浸透しないことです。
そのため、ディーカレットDCPではデジタル通貨の開発だけでなく、相対となるビジネスロジックや支払いを便利にしていくためのプラットフォームづくりを両輪でやっているわけです。
ハナエ:では次回は、デジタル通貨を浸透させるにあたり、ディーカレットDCPがどういった役割を担っていくのか?時田さんがそもそもデジタル通貨をつくるに至ったきっかけや経緯とともにお聞かせください。
(注)記事内の事例は特定の会社を指しているわけではなく、あくまで一般的な想定事例です。