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人口減少社会に必要な「信用ある基盤」とは?

こんにちは、ディーカレットDCPのハナエです。
今回も引き続き、デジタル通貨が人口減少社会にどう貢献できるか深掘りしていきます。

「人がどんどん少なくなる社会では、ビッグデータを活用した効率良いサービス提供が必要」。
そうおっしゃるのは、人口減少対策総合研究所理事長で『未来の年表』著者の河合雅司さん。

でも、ビッグデータの活用には課題も多いのだとか…。一体どうすれば?
ムズかしい問題だけど大丈夫!その「答え」はとても明快でした。

前回までの記事 ▷ 人口減少社会の実態とデジタル化の可能性

人口減少社会のポイントは「余計なことに人手を割かない」

時田一広(以下、時田):デジタル通貨の最大の特徴は「自分でお金に機能を付けることができる」という点にあります。例えば、今日は天気がいいからジュースの値段を少し上げようとか、夜は電車の利用客が少ないからその時間帯は運賃を下げて宣伝をして集客を上げようとか、そういった「機能」をお金にプログラミングによって付けることができます。

河合雅司(以下、河合):なるほど。お金の移動だけでなく、状況に応じて値段を変動させたり、個別の機能を付けられたりすることがデジタル通貨の一つの特徴だということですね。

人口減少対策総合研究所理事長で『未来の年表』著者の河合雅司さん(右)とディーカレットDCPのプロダクト開発責任者の時田一広

時田:おっしゃる通りです。また別の例として、銀行を経由して公共料金を支払う場合についてもお話ししましょう。ここでのお金の動かし方・動かす機能は、サービス提供者である銀行によってあらかじめ設定されています。

 引き落としの時期は決まっていますし、どのように支払うかも提供された基盤に応じて決められています。逆にデジタル通貨では、利用者側がお金の動かし方をプログラミングすることができます。いつ・どこに・いくら・どのような条件でお金を支払うかは利用者が決められるわけですね。

▷ 参考記事:デジタル通貨で私たちの生活の何が便利になる?

 デジタル通貨のニーズが高いのは、企業間の取引です。世を挙げてDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、企業をまたぐと急にアナログになるんです。営業は対面・電話・メール、この過程は自動化されていません。そして見積書・発注書・納品書・検収書・請求書をやり取りして支払いする。

 これがすべてアナログで行われています。当然、各過程でデータが作成されますから、そこで間違いも起こりやすい。取引先が数千社あれば、毎月かなりの数で支払いのミスが起きます。日本中の企業は毎月そのリカバリーに追われているわけですね。

時田:ディーカレットDCPは、企業の間に「デジタル通貨のプラットフォーム」を提供して業務を自動化したいと考えています。下図のように、ミスを起こしていた人力部分がデジタル通貨に置き換わることで、発注のタイミングでこの先の納品・検収・請求の条件などを決めておけば、コントラクトを実行するだけで自動的に取引が進みます

時田:そうすることで、これまでアナログで行われていた作業のほとんどが必要なくなりますし、ミスもなくなる。“月末〆の翌月払い”という商習慣も必要なくなり、即時払われたお金はすぐに別のところに流れるようになります。企業間の取引に共通のデータとプログラムがあれば、それを利用することでかなり効率的に取引を進められるようにできるわけです。

▷ 参考記事:デジタル通貨の機能的価値とは?

河合:これまでアナログで行っていた部分に、人員を割かなくて済むわけですか。人口減少社会で働き手世代が減っていくことを考えると、重要なポイントですね。

難解なデジタル技術をどう普及させるか、答えは「信用」

ハナエ:前回のお話で、社会のデジタル化にお年寄りはついていけるのか、という議論がありました。デジタル通貨を企業だけでなく、お年寄りにも使いやすく、意味のあるものにしていくためにはどうしたらいいんでしょうか?

河合:デジタル技術そのものが複雑で難解になってきていますから、それ自体を理解するのは今後いっそう難しくなってくると思うんですよ。お年寄りの場合は加齢にともなって大なり小なり認知機能が低下しますので、難解な新技術を理解して使いこなすのは至難の業です。

では、お年寄りがデジタル技術の恩恵を受けるにはどうしたらいいのかと言えば、その答えは「信用ある人が代行する」ことです。加えて、その「信用ある人」足らしめるチェック機能を社会が構築することです。要するに「デジタル通貨のことは“この人”に任せておけば大丈夫」という存在を社会に実現することによって、仮にサービスの仕組みを理解できなくとも、多くの人がその恩恵に預かることができるということです。

時田:成年後見人による不正行為なども、デジタル通貨で未然に防ぐことができます。先ほどお話ししたように、デジタル通貨だと“お金に機能を付けること”ができます。つまり、このお金はこういう用途に使用してくださいと指定することができる。ですから、お年寄りが財産を不当に使い込まれることを防げるわけです。

保護と管理のバランス、個人情報のこれから

 河合:人口減少社会において「働き手が減っていく」という状況はもう変えようがありません。ですから、省力化の意味でもデジタル技術の活用が求められてきます。そうでなければ、これから立ち行かないからです。先ほどの信用の話も、つまるところ、ここにつながってきます。

 国民が高齢化してきて、新しいことへのチャレンジよりも、従来通り自分が理解できて責任が取れるものへの信任のほうが重視される傾向があります。現状維持バイアスが働いて、本来変えないといけないことを変えられずにいる。

これこそが高齢社会がもたらす大きな弊害なんですね。便利か不便かよりも、安全か否かで物事を判断するわけです。高齢者は一度大きな失敗をすると、時間をかけて取り返すということができないからです。

河合:ですから、その恐怖心を払拭するだけの「信用力」を担保できるかどうかに掛かってきますね。これが新しい技術の普及の成否をうらなうポイントになってくると思います。もっとストレートに言うならば「よく分からないけど、お上に任せておけば大丈夫」という信頼感を「お上」ではない存在にどれだけ持たせられるか、ということです。

「信頼のおける存在」にみんなが乗っかることができるようにしないと、個人情報保護や不正な使用を阻止するために慎重な多段階チェックをしなければならなくなり、社会がさらに窮屈になってしまいますから。デジタル化と個人情報保護のバランスは良く考えないといけませんね。

これは警察庁の幹部から伺った話ですが、大規模災害が起きたとき、現状では自力避難が困難な人がどこに何人いるのかが分からないわけです。昨今は個人情報を過剰に保護するきらいが強いですが、高齢社会のリアルを考えるともう少し柔軟に取り扱える方向に振れてもいいんじゃないでしょうか。保護と柔軟運用の線引きをもう一度し直さなくてはいけない時期に来ていると思いますね。

時田:本当にそうですよね。例えば、引っ越しをしたとして、役所に住所変更を届け出たとします。そしてそれと同様の手続きを郵便局や銀行なんかにもしないといけない。しかも、自分で銀行の窓口に行っても本人確認させられる。 すべて紐付いていれば一度の手続きで済みます。

時田:デジタル化の現状は中途半端で、個人情報保護に注意を払いながら、そのくせネットショッピングのために何度となく住所やクレジットカード番号を打ち込んだりしているわけです。こういった不要な手間をデジタル技術で解決したいと思っています。

ビッグデータを活用した効率的なサービス提供

河合:これからの社会の劇的な変化に備えて、ある程度、社会のなかに「共通基盤」をつくるべきだと思います。日本の実情にあったデジタル化をもっと考えていかないといけません。

これだけ進歩した社会であっても、オンタイムでどこに、どんな人が、どれくらいいるかは分からないわけですよね。あるいは、結婚している人の数だって分からない。日々提出される結婚届と離婚届を集計して、さらに数ヶ月かけてチェックした情報しか私たちは知りようがないわけです。

ハナエ:相互連携したデータベースなどないわけですね。

河合:そうなんです。デジタル技術の活用を突き詰めていくならば、ビッグデータを有効に利用できる基盤をつくらなくてはいけません。例えば、ある小さな自治体で、1日のうち何時くらいに、どんな人たちが、どこに集まるということが分かれば、そこに効率的に住民サービスを提供することができます。

 本来、そういうことは可能なはずなんですよね。むろん、これはビジネスにも同じことが言えます。ビッグデータを活用できれば、マーケットの規模がこれまでと同じでも、商機の数はまるで違ってくるはずです。

 ただ、現状は「数」のデータは社会で共有できても「属性」のデータを公開することには消極的です。年齢・性別・住所などの個人情報を集めるとなると「それは何の目的で集めているんだ」と尋ねられる。モラルに反してしまうんですね。

しかし、マーケットが縮小していくわが国でこれまで同様の豊かさを得ようと思うと、「信用力」に裏打ちされた状況下でのIDの一元管理も許容されていく必要があるでしょう。

ハナエ:IDと付随する情報を個々人がコントロールしていく方式が主流になるという考え方もありますが、人口が減っていくなかで、これまでと同じくらい住みやすい社会を維持しようとすると、従来の倫理観を少しずつ変えていかないといけない。なるほど。悩ましいですね。

人口減少社会でも豊かに暮らすために、私たちはデジタル技術を活用してどんなことを進めていくべきなんでしょうか?引き続き、お伺いしていきたいと思います。

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