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データドリブンが戦略的に変える、より良い都市や未来への投資

“サステナブルシティ”と名高いポートランド。ヒッピー文化が未だに根強く、クラフトマン気質で手仕事を大事にしている人が多いため「テック音痴」が多いとのこと。

 「テクノロジーはあくまで道具で、物事の目的や根幹ではない」と語るのはポートランド市開発局(PDC)でサステナブル都市の最前線に関わっていた山崎満広さん。

しかし、都市開発にはデータ活用をむしろ積極的に取り入れてきたそうです。日本に本格帰国してアメリカと日本の制度・文化的な違いを経験した山崎さんに、アメリカの都市開発の基盤とも言えるデータドリブンの本当の活かし方について教えていただきます!

デジタル通貨のさらなるポテンシャルも見えてくるかも!?

前回までの記事 ▷ 環境先進都市ポートランドの立役者に学ぶ、サステナブルな社会とテクノロジーの最適な関係

今の決済・与信システムの不合理さ

山崎満広(以下、山崎):ポートランドは全米有数の電気自動車(EV)普及率を誇っています。普及の初期から考えれば、ステーションでの支払いなどがどんどんデジタルに移行している感じはありますね。

最近ではアプリを使って支払いをするのですが「いや、ちょっと待てよ」と。なんで、クレジットカードをいったん経由する必要があるんだろうって疑問に思うんです。銀行にお金があるのが分かっていて、ここにデータがあって、端末があるんだから、決済は機械が勝手にやっておいてくれるといいんですけどね。

サステナブル都市計画家でMITSU YAMAZAKI LLC代表の山崎満広さん

時田一広(以下、時田):おっしゃる通りで、今の決済システムって不合理さがあるんですよね。電子マネーは銀行においてあるお金を別の方法で決済する仕組みですし、クレジットカードは店頭での決済後に加盟店への振り込みを利用者の見えない裏側で行っている。要するに、どちらも「二度手間」であり「二重の処理」を必要としているわけですね。

山崎:その解決を図る時にハードル­になるのが、金融業界の与信の問題だと思います。僕はこの業界の「信用」の仕組みが信用できない。長いあいだアメリカでマイノリティとして暮らしてきて、外国人と分かると足元を見られて金利を釣り上げられたり、人種によって対応を変える「人が決めた信用の仕組み」に振り回されてきました

でも、ブロックチェーンだったら、そんな不確かな決まりに頼らなくても、信用の有無は一発で判断されますよね。「外国人だから」とかは関係なくなる。同じような問題は日本でもありました。アメリカ在住時に得た資産があるにもかかわらず、日本で収入履歴がないという理由で住宅ローンが組めませんでした。海外でいくら資本を蓄えたとしても、日本の大企業に勤める若手サラリーマンの方が良い条件のローンが組めてしまう。それはおかしいですよね。

30年前から進まない日本のIT化

時田:そもそも、マイナンバーがあるのに「なんでコレやらなきゃいけないの?」ってことが多すぎるんですよね。本人確認で免許証を毎回出さなきゃいけないとか…。

ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広(左)

山崎:なんのためのデジタル化だか、分からないですよね。昨日、歯医者さんに行ったんですが、診察券を出さなきゃいけない。以前すでに医院側でマイナンバーカードのコピーを撮っていたのに、ですよ…。

時田:日本はまだアナログ体質が根強く残っていて、ここ30年くらい、そのあたりの仕組みに変化がないんです。

ハナエ:アメリカはその点どうなんですか?

山崎:アメリカでは、例えば銀行でソーシャルセキュリティナンバーを伝えれば、そこに紐づいている全てのデータを見ることができます

ハナエ:日本で言うマイナンバーと同じですよね?

山崎:そうです。もっと言えば、アメリカ人は最近はカードすら持ち歩きません。スマホで決済の方が早くて便利だし、それで何か問題が起これば9桁のソーシャルセキュリティナンバーの番号さえ覚えていれば銀行でも、クレジット会社でも対応できます。

時田:アメリカでソーシャルセキュリティナンバーが実装された時、日本では当初「国民識別番号」と呼ばれていたマイナンバー制度の是非がまだ議論されていました。政治家がシステムを理解できていなくて、まったく本質的でない議論がされていましたね。

山崎:日本で政策が進まない理由として、中枢のリーダーたちの視野の狭さがあります。

時田:マイナンバーも本当はもっと活用できるんですが、まだ過渡期ですね。

山崎:日本の行政の仕組みでもう一つ致命的なのは、3年前後のサイクルで訪れる人事異動の問題です。現場にノウハウやデータが継続的に蓄積されていないケースが多く、担当者が変わると振り出しに戻ってしまうこともあり、非常に属人的です。

これは、数年から数十年スパンで行う都市計画や経済開発の分野ではクリティカルな問題です。人口や雇用数の推移に対して何が増加して、何が減少しているのか、行政がちゃんとデジタル化されていると、データに基づいた具体的なアドバイスを提供できたりします。

しかし現状、その元になるデータが無い…。また、これまでのやり取りが誰でも参照できるデータベースとして残されていないため、データを請求しても「分からないので前任者に聞いて折り返します」と言われて1ヶ月以上待たされり、データが蓄積されていたとしても最新版が5年前のものだったり…。そのデータを使って分析をしても、出てきた結果は“5年遅れ”ということになってしまいます。

時田:日本におけるITリテラシーの低さは問題ですね。もちろん、現場は合理的なIT化を切実に求めていると思いますよ。日本は1990年代に一気にITが整備されましたが、それから更新がなされずに現状が滞っているのが実情ではないでしょうか。

データドリブンが導くアメリカ式の戦略的投資

山崎:アメリカだとデジタルのアセスメントツールが発達していて、市民に公開されている行政情報の量が日本に比べて圧倒的に多いんですよ。ソーシャルセキュリティーナンバーを入れると、その人がこれまでどのように収入を得て資産形成を行っているのかといった情報が全て出てきます。

そして、本人から許可を得れば、銀行や自動車販売店などもその人の信用履歴が閲覧できるのです。国勢調査の情報も、個人情報以外はほぼなんでも見られる。

ハナエ:アメリカの方が社会的なデジタル化は進んでいるんですね。

山崎:アメリカは移民大国で、さまざまな人種が混ざっているので他人への信頼がある意味で希薄です。そのなかで、できるだけ平等に管理するためにシステマチックにする必要がありました

時田:日本は島国で人種も単一的なのでお互いを信頼し合っているぶん、より属人的でマニュアル的になりやすいのですね。

山崎:なのでアメリカは国や行政だけでなく、民間企業が公開しているデータベースの量も豊富です。例えば不動産業界ではあるマンションの一室が去年いくらで売れたか、なんて情報まで出てくるんですよ。すると、不動産市場の動きがデータに基づいて予測できるので、投資のプランニングもしやすいわけですね。

もちろん、そうしたデータは民間だけでなく、行政にも活用されています。行政は不動産価格が上昇している地域のインフラを積極的に拡充したり、また逆に、価格が落ち込んでいる地域に積極的に資本投下して市街の立て直しを図ったりもする。都市開発にデータというのは不可欠なわけです。

時田:なるほど。確実性の高いデータに基づいているので、個人の資産形成も都市計画もしやすいわけですね。逆に日本だとデータに基づいた投資のプランニングはできない。

山崎:日本は住宅の価値が基本的に下がりますから、自分たちでそのキャッシュフローを埋められない限りは、それが良い投資ではないと理解したうえで家を買わないといけない。しかし、アメリカではデータベースで現在の自分の家と周辺の家の値動きを全て参照できるので、売買のタイミングや判断もそのエビデンスを基に戦略的に行えるわけです。

また、アメリカのある研究が科学的に証明した通り、住宅環境と生活の質は相関します。多少損してでも良い住環境を手に入れた方がいいと、アメリカではマイホームを購入するというのが自然な発想になるわけです。アメリカで信用力が低い層に高リスクな住宅ローンである「サブプライムローン」が広まったのも、このような背景があるわけです。

ハナエ:もしデジタル通貨が普及していたら、2008年の世界的な金融危機も防げたのでしょうか?

時田:複合的な要因で起きているので一概には言えませんが、問題の一つに本来は格付けの低いサブプライムローンを細切れにして格付けの高い証券に混ぜ、パッケージ化することで表向きには格付けが高い証券として出回ってしまったことがあります。そのため、返済不履行になったサブプライムローンの債務者が続出した途端、芋づる式にアメリカ全土に波及しました。

事を大きくした一因として、複雑な金融工学によってどの債権にサブプライムローンが含まれているのかが追えなくなってしまったことがあります。もしデジタル通貨の基盤であるブロックチェーン技術で管理していたら、あそこまでの大事件は起きなかった可能性は高いです。

ハナエ:そう考えると、デジタル通貨によって追跡・透明化できる意義も大きくなるわけですね。

信用や想いの基盤となる「交換の土台」を強くする

山崎:一方で、日本の都心だと給料と住宅価格が明らかに釣り合わず、良好な条件がそろわない限りは賃貸を選ぶ人が多いです。自分の持ち家がない人がたくさん住んでいる地域では、住民のコミュニティへの愛着心はやはり低いです。

都市計画的な観点から見ると、住民の流動性が高い地域でコミュニティをつくるのはとても難しい。そういう場合は、比較的長く住んでいる人たちに「あなたがたはここの人ですよ」といったアイデンティティを抱かせることをワークショップなどでつくり上げていきます。しかし、それは自発的なコミュニティ形成ではない、「押し付けのオーナーシップ」です。

山崎:本当の意味での地元住民が少ない都市計画の多くは、この「オーナーシップ=思い込み」を基盤にしたコミュニティづくりから入っていきます。その期間だけは盛り上がるんですが、5年か10年のうちには崩れ去ってしまう。今の日本の都市計画も、往々にしてそのように進めていかざるを得ない部分があります。

そんななかで私は、ポートランド式の住民発のコミュニティづくりを地方各地で行っています。醸成されたコミュニティは、住民の想いを交換する盤石な基盤となるわけです。これは、お金の「信用」でも同じ話ですよね。

時田:まさに、その通りですね。

山崎:信用にせよ、住民の想いにせよ、「交換の土台」が強いか弱いかっていうのは、モノの価値を考えるうえでは非常に重要なことだと思うんですよ。

時田:そういうものを測れるようになりたいですよね。デジタル通貨も、ただお金の代わりになるのではなく、使う人の生活から出てくる「想いや気持ち」を測れるようになるといい。それがデジタル通貨によって見えるようになれば、同時に「本質的なこと」が見えてくると思っています。

ハナエ:ブロックチェーンは交換の履歴が分かりますからね!想いや気持ち、誠意が見える化されたら取引の信頼性もグッと上がりますね。

でも実際に、サステナブルな都市開発にデジタル通貨が役立てることがあるのでしょうか?次回、さらに詳しくお話を伺っていきます! 

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