デジタル通貨が”なめらかに”ひらく、 コミュニティ運営のプルラリティ(多元性)
こんにちは、ディーカレットDCPのハナエです。
前回に引き続き、デジタル技術を駆使した「日本の新しいローカルコミュニティ」をデザインするNext Commons Labの林篤志さんにお話を伺っていきます。
新しいコミュニティ運営にブロックチェーンが必要不可欠!
でも、実際、何にどうやって役立つんだろう?
新潟県旧山古志村のNFT活用事例を紹介しながら、ブロックチェーンが変えていく価値観・お金の流れ・コミュニティ運営のあり方を分かりやすく解説してもらいました。
旧山古志村の「デジタル住民票」
ハナエ:林さんは前回のお話で、「ブロックチェーンは地方の新しいガバナンスに不可欠」とおっしゃっていましたね。そもそも、ブロックチェーンを活用するメリットって何なんでしょうか?
林 篤志(以下、林):ブロックチェーンの良いところは、自分たちで境界を設定したり、既存の境界を越えられることにあると思います。
ハナエ:境界を自分たちで設定できると、どんな良いことがあるんですか?
林:自分たちでフレームワークをつくれるので、新しい社会を設計しやすいです。例えば私が伴走している地域の一つに、新潟県旧山古志村があります。現在は長岡市に合併され、一地域として存続しています。人口は800人。いわゆる限界集落です。
山古志村の人たちは、自分たちで地域の未来を何とかしたいと思っています。しかし、現状は長岡市政の傘下にあり、予算も市議会を経て分配された額しか使えない。そこで彼らは、そういう既存の枠組みではない「新たな枠組み」をつくって、自分たちに必要なリソースを集めようという発想に至ったわけです。
ハナエ:従来の自治体運営とは違った枠組みがあれば、旧山古志村の人たちがより積極的かつ自由にコミュニティ運営の仕組みを考えていけるということですか?
林:その通りです。そこで役に立つのがブロックチェーンです。これによって、旧山古志村の人たちは、自分たちと同じようにコミュニティの存続を目指す仲間を集めることができる。具体的には、村の特産である錦鯉のデジタルアートが付いたNFTを「デジタル住民票」というかたちでパブリックチェーン上に発行して、それを買ってくれた人々を「デジタル村民」として山古志DAO*1 という仮想共同体でボーダレスに受け入れるという取り組みをしています。
一方で、リアル村民には無償でデジタル住民票を提供し、それぞれのリソースを分かち合いながらリアルとデジタルの接点になるようなコミュニティとして運営しています。
林:われわれの想像以上の盛り上がりを見せて、現在、デジタル住民の数は1060人に達して、リアル村民を上回っています。
地方の自治をプルラリティにひらく
時田一広(以下、時田):エストニアのような感じですね。海外にも旧山古志村と同様の事例がありますよ。
林:そうですね。こうしてイーサリアムで集まった資金は、山古志“デジタル”村の共通のバジェット・資本として運用されます。その使途はプロポーザル(起案)され、チャットサービスの「Discord」などで議論しながら投票によって決定されていきます。投票の時もNFTがガバナンストークンとして機能します。
実はリアル村民に最初からデジタル住民票を提供していたわけではありませんでした。以前、Discordでリアル村民にデジタル住民票を無償で付与していよいか?という提案がコミュニティメンバーから出され、全会一致で承認されました。
ハナエ:確かに、従来の境界が取り払われて、より広く多くの人を巻き込んだ地方自治が可能になりますね!
林:従来の地方創生や課題解決というのは、自分たちのフレームワークの中でしか考えられてこなかった。しかし、ブロックチェーンというものを実装することによって、新たなフレームワークを自分たちで自由に設計することができるようになりました。さらにパブリックブロックチェーン上にさまざまなDapps*2 が生まれ、10年前では自分たちでつくらなければいけなかったようなシステムを簡単に利用することができます。新しい社会をデザインする側の視点からすると、すごくやりやすい時代になっていると感じます。
また一方で、このトークンというレイヤーに話を移すと「多元的な価値をどう扱うか」というテーマがあります。今まではPL(損益計算書)思考で、キャッシュがどれだけ儲かるかという価値観が支配的でした。ですから、金融資産ではない山林にはソーラーパネルを設置しようという発想になる。
しかし、トークンによって価値を多元的に扱えるようになると、例えば「環境価値トークン」というかたちで無形のアセットもBS(貸借対照表)で資産としてカウントできるようになります。つまり、社会に必要な価値をトークン化して流通させることで、金融資産か否かというそれまでの単一的な価値観を、“プルラリティ”へと開いていくことができるわけです。AIが爆速で成長する現代においてはなおさら、このプルラリティ=多元性・複数性へと開かれた社会をデザインしていくことが重要だと思います。
スマートコントラクトで意思決定をなめらかに
林:僕は今、長野県の御代田町に住んでいて、自治区の班長をやっているんです。コミュニティの新参は1年目に班長をやるという決まりがあって、まぁ、それ自体は中央集権的な仕組みなんですけどね(笑)。で、何が言いたいかというと、班長って「集金」をしないといけないんですよ。各家庭を訪ね歩いて、区費を集めないといけない。今アナログ円でやっているこの作業を、デジタル通貨でもっとなめらかにできないかなと思うんです。
時田:予算の計画を立てて、全体の承認を得て、現金を持ち出して使い、それを年に一度の総会で収支報告をして…。アナログの運営はちょっと「遅い」ですよね。
林:みんなを招集して、パーミッションを得ないといけませんからね。
時田:しかしデジタル通貨であれば、もしある人が「神社の境内が壊れているから修理したい」とプロポーザルして承認されれば、その人の手元に費用が即座に振り込まれるようにできる。スマートコントラクトでそういうことが可能になるわけですね。デジタル通貨は、こういった民主的なプロセスに向いているんです。
林:アナログでやっていると集金されたお金は区の口座にあって見えませんが、スマートコントラクトの場合は透明性が担保されます。そこも大きな違いですよね。
デジタル通貨で“なめらかに” お金や価値がめぐるような社会に
林:時田さんに質問なのですが、将来的にデジタル通貨は「お金に色を付ける」ってことができるようになるんでしょうか? 例えば、ある自治体で流通しているデジタル通貨があったとして、トランザクションのたびに何パーセントか配る、あるいはソーシャルセクターに寄付をするとか——。
要するに分配の仕組みを、政治家や議員に任せるのではなく、ある程度自動化することによって、ちゃんと富が循環するような構造づくりができるのではないかと考えています。
時田:機能的に、デジタル通貨がそういうことに向いているのは確かです。ある地域でちょっとした買い物をした際でも、そのコミュニティにお金が支払われるような仕組み。そんな仕組みにデジタル通貨は役立ちます。徴税と再分配を効率的に行えるというのは、デジタル通貨の特徴だと思いますね。
林:それをスマートコントラクトと連動すれば、意思決定と資金執行がよりスムーズになりますから、コミュニティ運営がかなり円滑に進みますよね。しかし、運営や送金をなめらかにするためには、トランザクションの回数をすごく細やかに上げていかなければいけない。
時田:今はトランザクションを起こさない方がいいという固定概念がありますよね。
林:それは発送が逆で、 なめらかにサービスを提供するにはトランザクションを多く起こせることがデジタル通貨や分散型技術の最大のメリットなわけです。
あとは眠っているタンス貯金とか、銀行に入りっぱなしの数千万の預金を、利確せずに寝かせておく「ステーキング」を一定程度することで利幅分を地域の持続性に寄与する仕組みがあると良いと思います。もちろん、それに対するリターンもある。そうやって、“なめらかに”お金や価値がめぐるような世界にしたいですよね。
時田:デジタル通貨は使途を限定することもできるので、ステーキングされたおばあちゃんのタンス貯金が予期せぬことに使用されることはありません。そうやってコントロールできるのもデジタル通貨の良いところです。
ハナエ:スマートで素敵な未来が見えてきて、なんだかワクワクしますね!次回はデジタル通貨が可能にする新しい暮らしのあり方をより具体的に考えていきたいと思います。