デジタルテクノロジーが可能にする「ネクストコモンズ」のつくり方
こんにちは、「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
早いことに4月に入り各所で桜が満開になりましたね。
皆さんはお花見されましたでしょうか?🌸
季節の変わり目なので体調には気をつけてお過ごしください!
ところで、皆さんは「消滅可能性都市」って聞いたことありますか?
最近では、人口減少が進んだせいで「行政サービスを維持できない!」という自治体も増えているんだとか…。
Next Commons Labの林篤志さんは、デジタル技術を駆使した「日本の新しいローカルコミュニティ」をデザインするため、さまざまな実践を続けています。
地方をフィールドにいろいろなステークホルダーを巻き込みながら、新しいガバナンスを成立させるには「ブロックチェーンが必要不可欠」だと林さんは言います。
デジタル通貨は、日本のローカルコミュニティにどう役立っていくのか。林さんと一緒に探っていきたいと思います!
Next Commons Labとは?
ハナエ:林さん、こんにちは。林さんたちNext Commons Lab(NCL)では、デジタル技術を使って日本のローカルをより良くする実践をされていますよね?今日はその取り組みについて、いろいろお話を伺いたいと思います。まず、NCLってどんな組織なんですか?
林 篤志(以下、林):NCLはソーシャルスタートアップとして6年前に創業しました。立ち上げ当時から「ポスト資本主義社会の具現化」というメッセージを掲げています。
林:日本各地に13ヶ所の拠点を持ち、メンバーのほとんどは東京ではなく、各地方に住みながら仕事をしています。
林:NCLは地方創生の文脈で取り上げてもらうことが多いのですが、それが目的ではありません。地方をフィールドに「新しい社会のかたち」を、さまざまなステークホルダーを巻き込みながらプロトタイプしていくことがNCLの目的です。私たちが指すステークホルダーというのは、従来の株主や取引関係のある企業のことだけを指すのではありません。
地域住民の方々から自治体、ソーシャルセクター、大企業、スタートアップとオールラウンドにパートナーシップを結びながら、少しずつ未来をデザインしていく。新しい社会のかたちに必要な技術とステークホルダーを組み合わせるのが、自分たちの役割だと思っています。
共通資本=コモンズのあり方をデザインする
林:経済学者の宇沢弘文さんが提唱された「社会的共通資本」という概念があります。自然資本・制度資本・インフラ資本といったものは、人間が生きていくうえで不可欠な共通資本として扱われなければいけない。
林:しかし、残念ながら現状そうはなっていないんです。資本主義社会があらゆるものをドライブしていくなかで、およそ全てのものが私有化されました。どんな田舎の山であっても、それは必ず誰かの持ち物になっています。
時田一広(以下、時田):森や林が誰かのものだと、何か不都合があるのでしょうか?
林:自然環境が誰かのものになっていると、その扱われ方は短絡的になります。つまり、より短期的に回収可能な金融的価値に還元される。したがって、金にならない林業は放棄され、代わりに山肌を削ってソーラーパネルが設置されるようになります。確かに、そこを私有している個人にとってはプラスです。しかし、言うまでもなく、これは景観破壊や大規模災害につながりますから、公共にとってはマイナスです。
本来「本当に価値があるもの」に対しては、みんなが安定的かつ持続的にアクセスできなければいけません。その活用においては、現代を生きる人間だけでなく、何世代も先の人類や他の生命のことも勘定に入れ、一切の排他性をなくした状態をつくらなくてはいけない。そのような状態にある価値・資本を「コモンズ」と呼んでいます。さまざまな課題や価値観がある現代社会のなかで「テクノロジーを駆使しながらコモンズをどう実現していくか」が私たちの視点です。
ローカルベンチャーの落とし穴
ハナエ:コモンズの実現。確かに、私たちがこれからも生きていくうえで非常に大切な視点ですね。林さんたちNCLは、そういった視点から、具体的にどのようなことをしているんですか?
林:NCLを立ち上げた当初は「ローカルベンチャー事業」というのをやっていました。地域の知られざる資源やポテンシャル、課題をミクロな視点でピックアップしていき、それを使って事業を起こすというものです。
林:事業の立ち上げのために、さまざまなスキルを持った人たち10数名に移住してもらい、数年かけてその地域に伴走してもらう。NCLはその事業づくりのお手伝いをしてきました。
時田:そうやって立ち上げた事業は、どれくらい継続されるものなんでしょうか?
林:プログラムは3年間ですが、その後も地域に残って事業を継続できる事業者は、移住者の6割くらいです。
ハナエ:結構多いんですね!
林:なんでかと言うと、この場合は通常の起業とは全く条件が違うからなんですよ。まず、ランニングコストが低い。あとは、いわゆる身の丈起業であることです。上場を目指すスタートアップのように多額の資金調達をして、それをガンガン突っ込んでいくような経営ではないんです。
ハナエ:健全というか、安定感があっていいですね!
林:そうですね。でも、そうは言いつつ、やはり資本主義社会のなかでビジネスをしていかなければいけない。小さい商圏のなかでも商売を成立させ、メシを食っていかないといけないわけです。ところが、そこに落とし穴がある。
持続可能な「ローカルコープ」という可能性
林:例えば、人口数万人の小さな商圏でクラフトビール屋を始めたとします。ここでついついやりがちなのが、設備投資をして瓶詰めができるようにし、扱ってくれるところを探して東京中のショップを売り歩いて販売するというものです。これは、もう端的に言って、地獄です。競争が苛烈な、資本がものを言う世界に飛び込んでいくということなので。
地方自治体のアンテナショップでもコモディティ化が進んでいて、商品に訴求力を持たせるのも至難の業です。良いデザインはマネされますからね。でも、そういう競争原理がはたして、地域の多様な資源や文化を守ることにつながるのか、僕はちょっと疑問です。
ハナエ:確かに…。じゃあ、地方の小さなクラフトビール屋さんはどうやってビジネスをしていけばいいんでしょうか?
林:その地域の人たちが何世代にもわたって飲み続けてくれるビールを作る、コミュニティブリューワーになる方が続くと思ってます。今のマーケットに振り回されない、自分たちの価値、地域の価値をどうやってつくっていくか。ローカルベンチャーを応援してきたなかで、根本的な課題だと思ったのはそこでした。
林:さらにここ数年、各地の自治体が「行政サービスを維持できません」と言い始めています。それは最近の顕著な傾向です。つまり、バス路線が廃止され、スーパーが撤退し、その肩代わりをしていたJA(農業協同組合)も撤退し、残るは郵便局だけという状況に陥っている自治体が増えてきたということです。僕たちは、これまでアウトソースしてきた自治のあり方を取り戻す、もしくは新しい自治のあり方をデザインしていかないといけない。
ハナエ:というと、新しい自治体をつくるということですか…?
林:さすがに新しい自治体をつくるのは難しいので、僕たちは「住民たちが主体的に参加する第二の自治システムをつくります」という言い方をしています。それを僕たちは「ローカルコープ」と呼んでいます。
林:ここでは、実際に住んでいる人たちだけでなく「デジタル住民」のような人たちも巻き込んだガバナンスをきかせていく。ここでのガバナンスは、より直接民主制に近い意思決定システムを持っています。
自分たちにいま必要なことのために、自分たちの出資を分配する。しかし、自分たちの出資だけでは賄えない部分もあるので、そういうところには交通や食に関する企業に入ってもらったり。そして、こうした新しい自治の大前提には「ブロックチェーン」があるんです。
ハナエ:ブロックチェーンは、地方の新しいガバナンスにも活きてくるんですね!次回はローカルコープとデジタル技術の活用について、詳しくお話を聞かせてください!