新しいライフスタイルの実現に向けて、デジタル通貨ができること
こんにちは、ディーカレットDCPのハナエです。
今回も、デジタル技術を駆使した「日本の新しいローカルコミュニティ」をデザインするネクストコモンズラボの林篤志さんにお話を伺っていきます。
前回はブロックチェーンが変えていく価値観・お金の流れ・コミュニティ運営のあり方を分かりやすく解説してもらいました。
今回はさらに、デジタル通貨が可能にする「共助」や新しい暮らしのあり方についてお話を伺っていきます。
デジタル通貨が真価を発揮するためには——
林さんの鋭いご指摘に、時田さんも思わずうなる!?
「共助+テクノロジー」が社会を支えていく時代
ハナエ:これから私たちの暮らしってどう変わっていくんでしょうか?
林 篤志(以下、林):これまで日本がつくり上げてきた社会の構造はそろそろ立ち行かなくなると思います。なぜなら、今の社会システムは人口が増えていくという前提のもとに設計されているからです。人口が減少していく今後、巨大なインフラを維持するコストは賄いきれません。さらに昨今は、自助も公助もシュリンクしています。
ハナエ:「老後に備えて3000万円貯金してください」と国は言ってますけど…。
林:そもそも自助は無理があるでしょう。家族の単位がかなり小さくなっているからです。核家族化で構成員の数も少なくなっていますし、生涯未婚率も上がっています。昔のような大家族なら自助は当たり前にできていましたが、今は状況が違いますよね。
そして公助もまた絶望的です。人口減少にともなう財源不足がこれからもっと深刻化していきますから。今以上の行政サービスは期待できないと思います。
ハナエ:人口減少期に突入した日本は、社会の仕組み自体を見直さざるを得ないということですね…。
林:そう思います。新しい社会をどうつくっていくかが喫緊の課題になるなか、ぽっかり空いた自助と公助の間の機能を埋め合わせするために「共助+テクノロジー」の組み合わせが必要不可欠なわけです。
自助・公助を補い合う「共助+テクノロジー」のライフスタイル
ハナエ:「共助+テクノロジー」が広がると、どう変化していくのですか?
林:まず、ライフスタイルが大きく変わります。例えば、田舎に移住したベンチャー企業の社長がいるとします。彼は9時から16時までは、いわばバトルモードで、スタートアップのリーダーとして仕事をする。しかし、朝8時ごろは地元の小学生や園児の送迎バスの運転手をやり、16時以降は学童保育の見守りをします。そして休みの日は、地域のお年寄りの買い物の手伝いをしたりする時もある。
ハナエ:なんだか、複数の人生を同時に生きているような…!
林:より多元的な世界になっていきます。今までは分業・専業が当たり前でした。スクールバスの運転手はリタイアした高齢男性の仕事、買い物難民のおばあちゃんの手助けは長男の嫁の仕事、学童の運営は行政が税金で…というように。でも、それだとあまりに非効率なんですよね。ことここに及んではみんなが「超最適解」をつくるほかない。
つまり、みんなが細切れの役割を果たし、その仕事に対するインセンティブや報酬を細かく得ていけるような仕組みをつくるということです。そして、それを可能にするのがデジタル通貨のようなブロックチェーン技術だと思います。
デジタル通貨が真価を発揮するには…
林:コミュニティに必要な多くの役割に対して、バジェットを細かくリアルタイムで再分配するシステムを設計するのにデジタル通貨などの技術はとても有効になると思います。逆に言えば、僕たちの生き方やライフスタイルまで一緒に設計していかないと、デジタル通貨の真価は見えてこないんじゃないかと思いますね。
時田一広(以下、時田):さすが、鋭いご指摘ですね...!おっしゃる通りなんです。デジタル通貨って新しい技術なので既存の仕組みに押し込もうとするとうまくいかない部分もあるんですよ。それもそのはずで、既存の経済活動はすでに成り立っているわけだから、そこにデジタル通貨を導入するインセンティブは低い。
しかし、例えば「共助+テクノロジー」を前提にした新しい文化が生まれようとする時、デジタル通貨はスッと入ることができると思います。既存のビジネスに重きを置くか、新しい文化をイチからつくっていくか、私たちもジレンマを感じているところなんですよ…。
林:Next Commons Lab(NCL)も同じようなジレンマを抱えています。既存の社会システムはいずれ立ち行かなくなるとはいえ、現状どこに資本やリソースがあるかと言えば既存社会側です。空き家はリノベすればある程度快適な空間になりますが、柱の位置は変えられない。同様に、既存の社会システムの改革には限界があります。
それならば、その空き家の横に思い通りの掘っ立て小屋を建てた方が理想の社会をつくれるんじゃないかと僕なんかは思うわけです。しかし、掘っ立て小屋を建てるにも材料やリソースがかかる。だから、空き家と掘っ立て小屋をつなぐ存在が必要なのです。
時田:よく分かります。われわれがメタバースやNFTに振り切らないのと同じですね。もちろん、そちらも見据えていますが、やはり既存の仕組みをクリプト側に移行させていくことが主眼にある。
林:既存の社会に当てはめるのではなくデジタル通貨のような新しい価値観に基づいた世界が見えた時に、企業も変わらざるを得ないし、むしろ率先して提唱していけるといいと思います。
時田:林さんたちNCLの活動も、われわれのデジタル通貨も、ある種既存の社会のひずみから生まれてきているような部分があります。世界的に立ち行かないなかで、双方のバランスをうまく取りつつ仕掛けていくことが大事だと思います。
一元的な能力主義から多元的な価値へ
林:一元的な価値に基づいた能力主義みたいなものは、今後、本当に意味をなさなくなるし、人々の価値観も大きく変わっていくと思います。なぜなら、ほぼAIがやるようになるから。
時田:これまで能力を上げることにみんな躍起になっていたので、なかなかの衝撃ですよね。
林:今って「あなたの本当にやりたいことを仕事にしましょう」という価値観が主流だと思います。でも、この価値観も歴史的に見たら相当限定的です。例えば中世では神に仕えることが最大の価値だったわけだし、日本だったら忠臣蔵のように主に仕えて、最後は主に忠誠を誓って死ぬのが価値だったりしたわけです。それくらい、人間の価値というのは時代によって転々と変わってきているなかで、自分の好きなことをやるために能力を磨きましょうというのは狭い価値観とも言えます。
これからは、多元的に人間として自分たちの仲間やコミュニティに貢献するのがカッコいいとった世界になってくると思います。そこは能力じゃないんですよ。例えば、先日、DIYで庭にウッドデッキを近所の仲間と作りましたが、断面がズレていたりする。
林:でも、それも含めて価値なんです。能力ではない愛情とかコミュニティへの貢献とか、仲間愛とかに価値が行くようになっているし、そういった細切れの貢献に対してなめらかに経済を促していくという部分で、デジタルやブロックチェーンというものがもっとシンクロしていくのではないかと思います。
時田:私たちも想いや愛といったものもお金に載せたいと思ってデジタル通貨を創っています。そういった新たな価値とデジタル技術をより結び付かせていきたいと思います。
クリプト世界に行く前の“リハビリテーション”
林:デジタル通貨は可能性に満ちていて、おもしろいですね。
時田:これからの時代には非常に役立つ仕組みだと思いますよ。
林:どこか特定の自治体やエリアで、デジタル通貨を使った「新しい価値のめぐり方」が概念実証(PoC)などで体現できるといいですよね?
時田:今回のお話を聴いて、ぜひ一緒にやりたいなと思いましたよ!
林:デジタル通貨は、法定通貨だけの世界からクリプト世界に人々を連れていくためのブリッジ役だと思うんです。あるいは、クリプト世界に行く前の“リハビリテーション”と言ってもいい。大半の人たちが既存の社会側にいるなかで、さまざまな企業とともに人々を新しい世界に連れていくのがディーカレットDCPのミッションであり、チャレンジというわけですね。架け橋となるようなプロジェクトをぜひ一緒にやりたいですね!
ハナエ:ご一緒できるのを楽しみにしています!本日はありがとうございました。
- 編集後記 -
今回も最後までお読みいただきありがとうございます!
いつもスキを押してくださり、とっても嬉しいです。
さて、ネクストコモンズラボの林さんとの対談はいかがでしたでしょうか?
「ある時、なんで社会システムは変わらないのかな?と虚無感にぶつかることがあった。そこで、変わらない巨大なシステムに力を注ぐことをやめた。当たり前と思っている今の社会も、誰かがつくり上げてきたもの。であれば、自分でも新しくつくり上げればいいんだと思って独立した」
そんな、林さんが今の活動をされるきっかけや想いをお伺いすることから対談は始まりました。
そうは思っていてもなかなか一歩を踏み出すのが難しい世の中ですが、その一歩を持ってここまで活動されているお姿にとても感銘を受けました。林さんのお話や、今まで対談してくださった方々のお話を聞いて、改めて、何か新しい価値観が私の中に生まれてきたような気がしました…。