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本当のデジタル化とは?デジタル通貨がもたらす大変革

長年にわたり金融機関向けのコンサルティングに携わってきた、アクセンチュア株式会社の武藤惣一郎さん。
 
社会の価値が経済合理性と整合性が取れなくなりつつある現代社会に、デジタル通貨がどう役立つか。前回は、そんなお話を伺いました。
 
さて今回は、「真のデジタル化」とは何なのかというお話です。「デジタル」と聞いて想像するものは人それぞれかもしれませんが、デジタルの本質を武藤さんに伺いながら考えてみたいと思います。

前回までの記事 ▷ デジタル通貨が経済合理性と社会的価値を結ぶ?資本主義の次に来る世界とは


デジタルは「黒子」。主役はそれを使用する「人」

時田一広(以下、時田):デジタルトランスフォーメーション(DX)施策といってIT投資が増えればいいという見方をする傾向もありますが、デジタル化する=システム開発ではないわけで、デジタル化の捉え方が曖昧になっていませんか?
 
武藤惣一郎(以下、武藤):そうですね。デジタル化ができることと、本当に人間が勝負すべきところを明確にしないまま、議論が進んでしまっていると感じます。「人がやる価値」とか「リアルであることの価値」があまり考えられていないと感じます。
 
人がやるサービスは、AIには代え難いものがあります。タスク処理ならAIにできますが、共感したり、感動を与えたりすることはAIにはできない。実際、アメリカでは、全てデジタル化した金融サービスはなかなか顧客に受け入れられていないという話を聞きます。

アクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ キャピタルマーケット プラクティス アジア太平洋・アフリカ・ラテンアメリカ・中東地区統括 兼 日本統括 マネジング・ディレクターの武藤惣一郎さん(右)と、ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広

ハナエ:そうなんですか、人であるべき価値も大事だと既に実証されているのですね。
 
武藤:はい、投資診断や運用のアドバイスを全てAIが行うロボアドバイザーなど、人が全く介入しないサービスは伸び悩んでいます。やはり、何でもかんでもデジタル化すればいいわけではなく、必要に応じて人が介入する、人に相談できるサービスが必要なんだと思います。特に日本は、非デジタルなものに価値を見いだしてきた国だと思っていて、私はそこをむしろ強調すべきで、デジタルは黒子的に働いていればいいと考えています。
 
デジタル通貨も、お金そのものではなく、使用されるコミュニティが主役なんです。「便利なコミュニティやシステムがあって、それを可能にしているのが実はデジタル通貨」という構図がわかりやすいし、共感を呼ぶのではないかと私は思います。
 
時田:そうですね。一方で日本人は何か一つでも機械的な問題が起こると新しい技術を嫌う傾向にありますよね。
 
ハナエ:確かに、ニュースを見て過剰反応している人も多いように思います。
 
時田:例えば中国は、金融インフラが整備される前にインターネットの時代になったので、クレジットカードの便利さの恩恵を感じる前にモバイル決済に流れました。
 
「デジタル化」というと聞くと何か難しいイメージがありますが、デジタルに強い人でも疎い人でも便利に使えて、暮らしを手助けしてくれるような仕組みであるべきだと思います。
 
武藤:今のサービスをそのままデジタルに置き換えるのではなく、デジタルがサービスの手助けになるというか。特に日本の場合は、"おもてなし”を演出したり、サービスの質を高めたりするのにデジタルの仕組みを活用するのが有効だと感じています。

デジタル化で人を正当に評価する仕組みを

時田:デジタル通貨は、誰が何に対して支払いを行ったかなどの記録が残り、相手に共有することができます。例えば、前回のお話にもあったような「この人はこういう団体に寄付をしている」などの、社会貢献度合いが相手にわかれば、その人を知る手助けになります。
 
武藤:今の日本では、深く知り合う前は形式的な会社でのポジションだとか、学歴や社歴でしか人を判断せざるを得ませんからね。本当にすごく少ない情報で単純な評価をしている。
 
時田:住宅ローン審査も、外資系で高い報酬をもらっている人よりも日本の伝統的な会社に長く在籍している標準的な報酬の人のほうが信用度が高い。これも外資系の雇用は不安定、日本の大企業の雇用は安定しているという単純な評価です。

武藤:日本は、多様な人たちを多様な視点で評価する仕組みが足りていないと感じます。今の仕組みは、昔ながらの企業に勤め、毎年一定の年収があるサラリーマン向けのものです。外資系に勤務する人や新しい事業を起こした人に対しては、トラックレコードがないから融資が難しい、となるわけです。
 
ハナエ:多様な人材の評価が正しくできるにはどのようなことが必要でしょうか?
 
武藤:どんな会社に在籍していたかではなくて、具体的にどんな仕事・経験をしてきたのか、プロジェクトリーダーの評価はどうだったのかなどがわかるようにするべきですね。つまり肩書としての職歴ではなくて、プロジェクトレコードともいうべき経験の情報がブロックチェーンを使ってトークンに記録されて、自分の信用力が見えるようになっていく。そうなると副業も推進されていくと思います。

人口減少社会を立て直すのには、デジタル通貨が不可欠

時田:「CROSS TALK」シリーズの第一回で、人口問題に取り組んでおられる元産経新聞記者の河合雅司さんが、人口推計からみて「もう人口は増えない」と仰っていました。今の日本の人口減少スピードでは5000万人規模を保てるかも難しく、北欧くらいの人口になる現実を受け止めるべきだと。

北欧は全ての国の人口を足しても2700万人程度ですが、一方で時間あたりの労働生産性は、日本よりも高いです。日本も、人口が少なくても豊かに暮らせる方へ早く舵を切るべきです。
 
武藤:そもそも江戸時代は3000万人くらいしかいなかった人口が、戦後4倍に膨れ上がって経済大国になったのが世界から見ると奇跡のように見えたかもしれません。アジア諸国にとって日本は憧れの国でした。
 
時田:その日本が今、明らかに衰退しはじめている。これを今からつくり直していくのにデジタル技術は必要不可欠なものです。どこかの国の真似ではダメで、独自にもう一歩先の世界観をつくっていく必要があると思うんです。

武藤:社会全体が「新しいものをつくろう」という方向へ向かうことが大切ですね。戦後の日本が急成長したのは、言ってしまえば上の世代や大企業が戦争で一掃されたからではないかと思います。軍も解体され、財閥も消え、目指すものがなくなってしまったんです。だからこそ、自ら創意工夫をして盛り上げて、今の大企業の原型となる技術や製品がたくさん生まれました。
 
時田:幕末もそうでした。国全体がリセットされた後はすごい急成長があったわけですね。
 
ハナエ:日本人の気質について、似たような話を別のところで聞いたことがあります。「日本人は何かを新たに生み出すフェーズでは世界から遅れがちだが、その技術を基に応用や発展するフェーズに入ると、器用さや技術力があるので突き抜けることができる」と。
 
武藤:そうなんですよ。何かをゼロからつくるのは苦手で、スタートは遅いのですが、キャッチアップ力がすごく高いんです。さらに粘り強さや辛抱強さは右に出る民族はいないと思います。
 
昭和の大量生産・大量消費型の仕組みのようにやり方が決まっていて、ひたすら物作りを改善して高度経済成長した時代は強さが際立った。一方、画一的なやり方が通じなくなり、さらには働き手も減っている現在、その揺り戻しが起こっています。このような時期には多様性が重要で、社会的に新たな価値感をつくり、ビジネスの評価を変えることがカギだと思います。

デジタル通貨が起こす大変革とは

時田:新しい社会的な価値観と変革を起こすと言っても簡単ではありません。デジタル技術やデジタル通貨の活用によって何がよくなると思いますか?
 
武藤:日本社会はある意味でき上がった仕組みがあるのでスイッチングコストが問題です。また今あるものを突然別のものに置き換えるのは難しいですよね。
 
例えば、副業はデジタル通貨のスマートコントラクトを活用して従量課金のような時間チャージ型で自動的に時間単位で支払いまでされるようにしてみるのも良いと思います。

時田:フリーランスにとっては働いた報酬がすぐに手元に入ってくるのは嬉しい。よく考えたら私たちの給料も月払いが多いです。そのせいか電気代も家賃の支払側も1カ月単位が多い。
 
もしデジタル通貨が当たり前になってリアルタイム化が普通になれば毎日、毎時間毎に報酬が入り、家賃や電気代を自動的に払う。コロナ禍で地方を周りながら生活するノマドワーカーのような人が増えましたが、デジタル通貨でフレキシブルに生活できるようになるといつでも住む家を変えられたり、働き方も自由になり経済も活性化すると思っています。
 
武藤:もともと飲食店や交通サービスは従量課金制です。デジタル通貨が普及すれば当たり前の文化になるかもしれません。
 
時田:昔は業務的に月で締めるほうが効率が良かっただけで、今の時代には合わないものになりつつあるのかもしれません。メタバースなどの仮想空間での取引にいたっては、月締めで考える必要はなくて、トランザクション毎にリアルタイム決済が当たり前です。

ハナエ:デジタル通貨で収入のタッチポイントが増えれば商習慣も大きく変わりそうですね。次回も引き続き武藤さんと一緒に、デジタルで今の日本をどう活性化していけるのかについて考えていきたいと思います。
 
経済合理性と社会課題の折り合いをいかにつけるか。なかなか進まない行政のデジタル化をいかに推進するか。デジタル通貨が今の社会にもたらす利益をさらに深堀りしていきます!

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