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デジタル通貨が経済合理性と社会的価値を結ぶ?資本主義の次に来る世界とは

こんにちは。「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。

雨が多い季節、いかがお過ごしでしょうか。
今日はそんな曇り空に一筋の光明を見いだせるような、未来のお話です。

皆さんは、資本主義の先に来る世界がどんなものか、想像したことはありますか?

「社会の価値が、経済合理性に追いつかないところまで行き着きつつある」と話すのは、アクセンチュア株式会社で金融機関向けのコンサルティングに携わる武藤惣一郎さんです。そして、この課題を解決できる可能性を秘めたものこそが、デジタル通貨なのだとか。

価値のあるものに対して、いかに市場原理が働くような仕組みをつくるのか。デジタル通貨をうまく使うことで訪れる未来について、武藤さんにお話を伺いながら解き明かしていきたいと思います!


経済合理性と社会価値のジレンマ

ハナエ:アクセンチュアといえば、言わずと知れた世界最大級のコンサルティングファームですが、武藤さんのご専門は、金融機関向けのコンサルティングだそうですね。

武藤惣一郎(以下、武藤):はい。私はアクセンチュアに18年ほど勤めていて、事業戦略やデジタルトランスフォーメーション(DX)などを中心に、システムやデジタルが絡む領域を幅広く担当しています。

現在は証券の管轄を担っていて、シンガポールや香港、オーストラリアなど、APAC(アジア太平洋)の領域のお客さまに幅広くサービスを提供させていただいています。ウェルスマネジメントのような個人の資産運用領域からトレーディングや投資銀行を含めたホールセール(法人)領域の変革にも携わっています。

アクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ キャピタルマーケット プラクティス アジア太平洋・アフリカ・ラテンアメリカ・中東地区統括 兼 日本統括 マネジング・ディレクターの武藤惣一郎さん

ハナエ:金融業界を長年見てきた武藤さんが感じる一番大きな課題は何ですか?

武藤:もちろん昨今叫ばれているデジタル化もありますが、ここ数年、経済の行き着くところとして私が考えるのが、社会的価値に経済合理性を必ずしも与えられていないということです。

本来求められるべき社会的価値観が、合理性を前提に成り立つ資本主義から少しズレていっている感覚があります。例えば、環境負荷の低い製品を作るサービスに金融システムとしてお金を回したり、投資のメリットを出したりすることがうまくできていないのが実態だと思います。

デジタル化の先にある社会的価値がある事業や商品サービスを金融機関がどのようにサポートしていくのか?これからの大きな課題だと私は考えています。

ハナエ:社会的価値が高いものにお金が回らないということでしょうか。

武藤:そうですね。とはいえ、市場のメカニズム自体を変えるのはおそらく難しいですし、非常に効率が悪い。なので、社会的価値のあるものに対していかに市場原理が働くように介入できるかが重要なのではないか、そして、そこにデジタル通貨が関与できる部分があるのではないかと私は見ています。

デジタル通貨にしかつくれない仕組み

武藤:例えばここに、通常の方法でつくった飲料水と、環境負荷低減にこだわった飲料水があるとします。今の仕組みだと、前者が100円だとしたらおそらく後者は120円と少し高くなるはずです。すると、普通は100円の飲料水が多く売れるわけです。

ですがもし、どちらも同じ値段だったとしたら?たぶん消費者は環境負荷が低い方を選ぶと思うんですよ。では、販売側がどうやって20円をディスカウントするかと考えた時、私はここにデジタル通貨の決済が使えるんじゃないかと思っています。

ハナエ:つまり、デジタル通貨で20円のインセンティブを生み出せると…?

武藤:そうです。なぜなら、実態経済で20円をディスカウントするというのは経済システム上、難しいからです。そこで、デジタル通貨で決済することで、20円分を消費者以外の何かから補填するような仕組みがつくれないだろうかと。

すると次は、この原資をどこから持ってくるかという話になりますが、現実問題として税金は難しい。となると、一番の候補になり得るのは富裕層が持つマネー、特に社会貢献要素の強いマネーなのではないかと思うんですよ。

時田一広(以下、時田):なるほど。1億円以上の資産を持つ富裕層の人口数が世界3位の国である日本はその可能性があると?

ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広(左)

武藤:しかも都市別に見れば、東京は世界2位です。しかし、富裕層のマネーを社会的価値があるものにはまだ結び付けられていません。この流れを変える媒体として、デジタル通貨が使えるのではないかと思っています。

時田:まさに、そういうところにデジタル通貨のニーズがあると思います。
脱炭素社会への取り組みで二酸化炭素に価格をつけるカーボンプライシングが排出の抑制に効果があるとされています。

私どもが事務局をしているデジタル通貨フォーラムの電力取引分科会では、再生可能エネルギーの購入時に非化石証書のような環境価値をトークン発行して電力取引と同期して移転するユースケースを検討しています。

排出権取引のように、商品の製造や流通の工程で環境負荷を低減させた分をクレジットにする取り組みがさまざまな分野に広がると良いのですが、それを待たずとも社会的価値があるものにお金を支払った富裕層に証明書のようなトークンを発行し、社会的な貢献度のインセンティブが付けられる仕組みにできたら良いと思っています。

デジタル通貨の一番の特徴は、デジタル証書(のようなもの)の受け渡しと支払いを同時に自動決済し、取引と記録を残すことができることですから。

武藤:それがデジタル通貨を使う価値だと思っています。アフリカなどで児童の強制労働で製造されたチョコレートが100円で販売されていて、フェアトレードや環境負荷を低減させたチョコレートが120円だった場合、20円をディスカウントして売るのでは、誰が損を被るのかという話になってしまう。

しかし、デジタル通貨で120円分を支払ったらその差分の20円はクレジットとしてトークンが発行され節税に活かせるなど、メリットを受け取れるようにできれば、社会に良い取り組みをした証明もできるので富裕層などが興味を持ち、広がりが期待できると思います。

お金の行方を明確にした仕組みづくりを

武藤:もう一つ、富裕層のマネーが社会的価値があるものに結び付いていないと私が感じるものに、寄付があります。都心部の富裕層の資産総額からすると、日本の寄附額は世界標準に達していないのが現状です。もちろん、西洋社会との文化的な違いもありますが、それ以上に日本は寄付した後のトレーサビリティが低すぎるからなんです。

ハナエ:寄付したお金はどこにいってしまった?って思うことはありますね。

武藤:震災支援などでも度々問題になりますが、日本ではお金を出したら終わりになりがちで、透明性がない。今の社会だと、お金は死ぬまで持ち、死んだら相続するものという流れが当たり前ですが、それを若い人たちの挑戦や地域コミュニティのためにもっと有効活用できる仕組みをつくっていく必要があると思うんです。

時田:使途を明確にした仕組みをつくるということですよね。これはよくニーズとして挙がります。寄付とは違いますが、東京都で行われた実証実験では、補助金をデジタル通貨で交付しました。事業者は使途制限により、事前に承認を得た外部委託先以外には支払うことができないのです。

さらに何に補助金が使われたのかトレーサビリティが取れるので、行政側もいちいち領収書や書類を確認する手間がなくなり、事務の効率化がはかれます。実用的であることが確認できました。

このように使途のコントロールをすることは技術的に可能ですから、寄付においても使途の指定やトレーサビリティでの透明性が確保されます。

武藤:使途が明確になっていくことで、同じ100円でも消費のされ方で社会貢献など価値が見えるようになれば、行動変容を促したりすることができるようになると思っています。

時田:現在の資本主義が成熟していく過程で生まれた社会課題ですよね。

武藤:そうだと思います。日本をみても近年、東京に一極集中して効率を上げて経済成長してきたわけです。地方を「負担」として見てしまうのか、そこに可能性を感じるのか?シンガポールのように東京だけの都市国家をつくれば成長を続けられるのか?というと、私は各地方の魅力があっての日本の魅力だと思うんです。

経済的利益と過ごしやすさや文化を互いが享受するかたちで地方とのコミットメントを強くするなど、日本全体で価値のある文化や伝統と事業やサービスを連携できる仕組みづくりをしたいなと思うんですよね。

チャレンジする人にもフェアな仕組みを

ハナエ:支援の仕組みといえば、起業する人に対する支援も重要ですよね。

武藤:リーマンショック、震災などの影響もあり日本全体がリスクを取らない守りの姿勢が強くなったことで、挑戦する人が割を食う社会になっていると感じます。融資を受けられなかったり、受けられたとしても何人かで一つの債務をそれぞれが全額負う連帯債務という形態のものだったり、何らかの弊害がある。

リスクを取って社会を変えようと本気で挑戦している人たちに対して、支援されない状況があります。世の中をフェアな仕組みに変えていく必要があると思うんです。

時田:先ほどの環境に配慮している120円の飲料水を選択する世の中にするためにも、フェアな社会にする必要がありますね。

武藤:そうです。リスクを取ったぶんのリターンや、社会的価値がある事業をやっている人が報われるインセンティブが必要です。資本主義社会では経済合理性がないと実現が難しいので、ここでも、デジタル通貨で解決できないかと期待してます。

時田:例えば、「社会に貢献するんだ」と環境負荷低減の飲料水の製造にチャレンジした人にクレジットをトークンで付与し、トークン保有者に優先して(クレジットを担保にデジタル通貨で)融資する仕組みができるといいですね。

武藤:そうですね。クレジットも、セキュリティトークンの取引所のようなマーケットを作ってしまえば流動性も上がり、将来的には値上がりも期待できます。

時田:このようなクレジットを出す仕組みづくりを、政府が強く主導してくれたらブロックチェーンの価値の理解も広がり、Web3の世界が近づきますね。

武藤:富裕層のお金以外に日本で眠っているキャッシュとして、企業の預金があります。日本は世界的に見ても内部留保が非常に高い。私は、この動いていない企業のお金を挑戦するベンチャーに回してあげるべきだと考えています。

武藤:出資という方法での投資でもいいのですが、ベンチャー企業側からすれば、作った商品やサービスを買って使ってくれるのが成長に貢献し、成功へつながるからです。サービスが売れれば売上としても計上できます。このようなかたちの投資を積極的にしてほしいです。

例えば、大企業が外部へ支出する費用の10パーセントをベンチャー枠にしたら国内のベンチャー育成速度が劇的に向上すると思います。

ハナエ:なるほど。大企業は経験の浅いスタートアップよりも実績のある大企業と取引をする傾向が強いですから、商習慣を変えてほしいですね。

時田:スタートアップの商品やサービスを買ったら、それと同等のクレジットを政府が出して、社会貢献が業績に反映されるような仕組みが作れますね。

武藤:出資を受けると、株主リターンを出さなければいけないので「上場」や「M&A」というイグジットが短期的な目標になってしまう。

しかし本来、企業は永続的であるはずです。次の産業を推進していく今、日本の大企業の資金力を新興企業に結び付けると日本全体が活性化すると思います。

社会課題に対するデジタル通貨の価値

時田:デジタル通貨はお金の使途をプログラミングで制御できたり、複数の決済を同時に完了させられたりと、今までにない便利な機能を備えていますが、これらだけでは既存のシステムから切り替える強い動機にはなりません。

当然、スイッチングコストもありますしね。ですが、カーボンクレジットをトークン発行するような無形のアセットの話になると、デジタル通貨にしかできないことです。

ハナエ:メタバースやNFTの取引にもデジタル通貨は非常に相性が良いですよね。

時田:取引対象の価値をトークンで証明することがどれだけの意義があるかを社会に浸透させる必要があると思っています。例えば、非化石証書は現状は紙です。どのような取引が行われたかのトレーサビリティは別のシステムで管理されており、また証書としての正当性のチェックも別に行われています。

トークン証明書にすることで発行されてからの取引や資金決済のトレーサビリティの情報が付きます。証書そのものを取引するだけでトレーサビリティと正当性のチェックも合わせて行われます。単に証明書をデジタル化するのではなく、関連する業務も合わせてデジタル化するため、そもそもの仕組みづくりからデザインして、インストールする感覚でやらないと価値が出ないと痛感しているところです。

時田:既存サービスの置き換えでなく、今ないものをつくることが大事ですね。

ハナエ:可視化できていなかった社会的価値のようなものが見えてくると、世界は大きく変わりそうですよね。

次回は、引き続き武藤さんにお話を伺いながら、日本のポテンシャルを深掘りしつつ、打開策を探ります。真のデジタル化とは?そしてデジタル通貨が起こす大変革とは?

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