シェアリングエコノミーとデジタル通貨が開拓するフロンティア
可視化される「見えなかった価値」
石山アンジュ(以下、石山):シェアリングエコノミーの仕組み自体は、使い方次第で良くも悪くも機能します。つまり、より安く他者の労力を使いたいという目的でシェアリングエコノミーを運営・利用することもできてしまう。なぜなら、価格を決める主体が企業ではないからです。しかし、私が視察をしてきたなかで、逆に良いところもたくさん見てきました。
石山:例えば、80代のおばあちゃんがAirbnbで貸し出している宿泊先では、おばあちゃん心を込めて掃除して、すごく素敵な朝食が提供されていました。宿泊者はそれに感激して、感謝の気持ちとしてチップを置いていく。結局、そのチップとして支払われた金額はビジネスホテルの宿泊料を上回るものになっていました。
ここでは物件の良さというよりは、Airbnbがスーパーホストと定義する予想をはるかに超えた最上級のおもてなしをする人自身に付加価値が付いているわけです。つまり、人と人との信頼関係によって価格が決まってくる。
ハナエ:シェアリングエコノミーが良い方向に働くと、そんな取引もあり得るんですね!シェアリングエコノミーでは、今までお金では計れなかった部分——ここでいう「おばあちゃんの真心」のようなものの価値が認められやすくなっているということでしょうか?
石山:そうですね。昨今のサービスの授受は「等価交換」が基本ですが、一方でシェアリングエコノミーは「見えない心遣いへの感謝料」をプラスで乗せやすい仕組みだと思います。
ハナエ:なるほど。「見えない付加価値を可視化する」という点では、デジタル通貨も貢献できることが多そうですね!
時田一広(以下、時田):そうですね。現状は取引と決済、評価は連動していないため、何の価値に対してお金が支払われたのが分かりづらいです。しかし、デジタル通貨には物事のやり取りを追跡できるトレーサビリティがブロックチェーンに備わっているため、行動履歴が証明しやすいわけです。
時田:例えば先ほどの「おばあちゃんの心のこもった朝ごはん」の価値も記録として見えるようになります。デジタル通貨で取引や決済から評価までがつながることによって、どういった価値に対して払ったかが明確になるわけです。ですから、今まで見えなかった価値=新たな価値を可視化することに一役買うのは間違いないでしょう。
ハナエ:デジタル通貨プラットフォームにおいても、人とのつながりやホスピタリティは大切にしていきたいところですね。デジタル通貨のトレーサビリティでこれまで見えなかった「人の想い」などとも調和していけたら素晴らしいですね!
実はそんなに甘くない? 地方でシェアリングエコノミーをつくるには
ハナエ:シェアリングエコノミーとデジタル通貨は、地方の課題解決にも活躍しそうですよね。
石山:はい。実際に「シェアリングシティ」という構想も進められていて、地方の課題をシェアリングが解決してくれる可能性は大いにあります。しかし、シェアリングビジネスをする企業にとって、地方は必ずしも魅力的な市場ではありません。人がまばらでマッチングが起こりにくい地方ではシェアリングが成立しにくく、したがって営業コストがかさんでしまうからです。
その一方で、政府や地方自治体がシェアリングを活用することに注目しており、実際に政府の成長戦略にもシェアリングシティの推進が位置付けられています。人口減少によって公共の財源が大幅に減り、公共サービスを維持していくことが難しくなるなかで、公助を共助で補完する仕組みとして活躍しえると考えています。
例えば買い物や交通に苦労されている高齢者が地方にはたくさんいらっしゃいますが、莫大な予算をかけてコミュニティバスを運営するよりも、地域の人同士が車で送り合う仕組みがあった方が、持続可能ですよね。
企業が参入しづらい地方でシェアリングエコノミーを形成していくためには、自治体と民間が手を組み、公共事業としてシェアリングの仕組みを整えていくのが良いと思います。
私たちシェアリングエコノミー協会は、民間の垣根を超えて一人ひとりが「シェア」することでサステナブルな街づくりを実現しようとしている自治体「シェアリングシティ」を支援する取り組みを進めています。
ハナエ:これまでにどのような成果がありましたか?
石山:例えば、二拠点生活にかかる滞在や移動のコストをシェアで解決しながら関係人口を増やす取り組みや、自治体の公用車をカーシェアにする取り組み、地域の雇用政策の一環として民泊ホストを育てるなど、さまざまな課題解決に役立ててきました。過去5年のあいだに、こうした成果は全国で132件まで増えてきました。
ハナエ:素晴らしい取り組みですね!一方、デジタル通貨は地方創生にどう活かされているのでしょう?
時田:地域通貨の導入を前向きに検討している地方自治体は多いですね。概念実証(PoC)に参加する自治体も増えています。例えば、会津若松市や気仙沼市では何度もPoCが重ねられていて、行政からの給付金の支払いや受け取ったデジタル通貨を地元の商店で使用するなど、より具体的な実証実験に落とし込むことができています。
未来に向けた開拓、次なるフロンティアは?
石山:私が今後開拓していきたいのは日本の生協(日本生活協同組合連合会:CO・OP)です。そもそも生協の発想自体がシェア的ですよね。
しかし、今は「品物が安く買えるスーパー」のような印象があるかもしれません。その原因は、協同組合という仕組みのまま組織が全国規模に大きく拡大したのに、デジタル上で意思決定できる仕組みが時代に追いついていないのではと思います。
しかるべき意思決定の仕組みをデジタルネットワーク上に構築できれば、生協の可能性はもっと多様なかたちで広がるのではないかと考えています。
時田:デジタル通貨の仕組みも、そこと相性が良いかもしれませんね。お金の使い方や使われ方も共有できるし、どんな人が組合に加入してきたかも分かります。あるいは、先ほどお話があった「気持ちを贈る」という点でも、デジタル通貨は生協にとって有用なツールになるかもしれません。
時田:企業が消費者のニーズを取り込んでBtoCビジネスとして拡充を図るだけでは本当に必要な人が求めるニーズを取りこぼしてしまうこともあります。そこで、「人の想いや気持ち」を送れるようなコミュニケーションの役割も担うようになれば、デジタル通貨は社会に大きく貢献するでしょう。
石山:昨今、CtoCの個人間取引は社会インフラになりつつあり、私はそこにポテンシャルを感じています。個人間取引の広がりは「人の思いや気持ち」をより可視化する社会につながっていく可能性を秘めています。小さな「助けて」という声とそれを救う手段を持つ企業をつないでいくことで、さまざまな問題が解決されていくはずです。
日本はこれからますます人口減少が加速します。社会の持続可能性が問われるなかで、「市民間の助け合い=共助」の仕組みとしてシェアリングエコノミーがサステナブルな社会に貢献できるインフラになればいいなと思っています。
石山:そのためには、デジタル通貨のようなデジタル技術やデジタルプラットフォームが欠かせません。まだ日本では資本主義ドリブンなシェアリングプラットフォームが大勢ですが、今後は組合型・非営利型・メタバース的なクリエイティブエコノミー型など、多様なシェアリングエコノミーが生まれていくと思います。そこに、デジタル通貨という技術がそこを補っていくような仕組みになれば良いなと思います。
時田:CtoCの大切さを痛感させられるお話でした。CとCをつなぐことで、本当の意味で社会から必要とされるサービスになるんですね。デジタル通貨もまたそのようなプラットフォームとして社会に貢献していきたいと思います。
- 編集後記 -
ここまでお読みいただきありがとうございます!
いつもご訪問いただきとても嬉しいです。
今回は、シェアリングエコノミーの世界が広がったのではないでしょうか?
“感謝や想いを届ける”シェアリングエコノミー。
私たちもデジタル通貨で「想い」や「見えない価値」を届けたいとブログで何度もお伝えしてきましたが、Airbnbのおばあちゃんが一人でやっている宿のお話は、まさにそれを体現していると思いました。
泊まりに来るお客様は単なるきれいな宿泊施設や美味しいご飯にお金を払っているわけではなく、一人ひとりと向き合い、愛情をもって食事やお掃除をするおばあちゃんのホスピタリティに心動かされ、付加価値を感じてチップ渡しています。
この話を聞いて、愛情やホスピタリティという価値にお金を渡せる仕組みをつくりたいと思いました。
いつだって、今の世の中や社会をより良くしたい、あるいは誰かを幸せにしたい、誰かの役に立ちたいという一人ひとりの想いのうえにビジネスが成り立っていくべきだと私は思います。
それはどんなにAIやデジタルトランスフォーメーション(DX)が進化しても、ここに関しては変わらない“人”だからこそ生み出せる価値です。
お金は大事な価値ですが、お金軸だけではなく自分の想いや行動が軸でお金が動けば、もっと豊かになるのではないでしょうか…。