Web3とは?ブロックチェーンが切りひらく次世代のインターネット
こんにちは。「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
最近、ニュースやネットで「Web3」という言葉を見かけることが多くなったのではないでしょうか。このブログでも先日「Web3の仕組みを優しくお伝えします。」という解説記事を配信したところです。
そこで今回は、長年にわたりインターネットや先進技術に関わる研究をされている株式会社野村総合研究所の城田真琴さんにWeb3を解説いただきながら、Web3によりどんな世界が実現できるかを教えてもらいました。
Web3とは仲介者が存在しない分散型のインターネット
ハナエ:城田さんは、野村総合研究所でどのような研究をしているのですか?
城田真琴(以下、城田):ITアナリストとして、Web3などの先端技術と、それらの技術によって新しく登場するビジネスの動向を研究してます。最近は特に、お客様から新技術を使ったサービスやビジネスを立ち上げたいというお話をよくいただくので、新規事業の戦略を一緒に考えていくお手伝いもしています。
ハナエ:Web3についてご説明いただけますか?
城田真琴(以下、城田):Web3とは、ブロックチェーンをベースにした「分散型」のインターネットを指します。分散型とは、仲介者が存在せず、ユーザー個人で情報を管理していく新しいインターネットのあり方です。
城田:今私たちが利用しているSNSやECサイト、ネットバンクなどのサービスのほとんどは、分散型とは相反する「中央集権型」と呼ばれる構造で成り立っています。サービスを運営する企業、つまり仲介者が存在し、私たちのデータを集めて利用しながらサービスを運営する体制を取っているからです。
Web2.0のアンチテーゼとしてWeb3が生まれた
ハナエ:分散型のWeb3が、なぜ今注目されているのでしょうか?
城田:その理由は、これまでのインターネットの変遷を聞いてもらえると分かりやすいかと思います。
1990年ごろ、「Web1.0」と定義されるインターネットの黎明期が訪れます。パソコンさえあれば誰でもインターネットにアクセスし、情報を得ることができるようになりました。しかし、ホームページに書かれた情報を読むことはできても、個人が気軽に情報発信するのは専門的な技術が必要で難しい。いわゆる「リードオンリー(Read Only)」の時代と呼ばれていました。
そんな時代が、徐々に移り変わってきたのは2004年ごろ。Facebookを筆頭に、Twitter、Instagram、YouTubeなどのSNSが登場した時代を「Web2.0」と呼びます。
Web2.0のもっとも大きなインパクトは、「リード/ライト(Read/Write)」ができるようになったことです。個人が情報を読むだけではなく、SNSを通して発信もできるようになりました。また、検索エンジンやメーラーを無料で提供するGoogleも、人々の生活に根付く便利なプラットフォームとして普及しました。
ハナエ:インターネットは、本当になくてはならない存在になりましたよね。まさに今私たちが利用しているインターネットのあり方を「Web2.0」と呼ぶのですね。
城田:そうです。無料で使えるプラットフォームや、誰でも情報を発信できるSNSは、非常に便利ですよね。一方で、GAFAM[Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoft]と呼ばれるアメリカの巨大IT企業にユーザーデータが集約されてしまうような構造が顕著になってきました。この構造が、まさに先ほど話した「中央集権型」に当てはまります。
近年は、「中央集権型」であるがゆえのデメリットも多く懸念されるようになりました。
ハナエ:どんなデメリットがあるのですか?
城田:まずひとつは、データがGAFAMはじめ特定のプラットフォーマーに集中するがゆえ、適切な管理がされてないと、個人情報の濫用や漏洩が発生してしまうことです。最近でも、2021年にFacebookが、5億3000万人を超える個人情報を流出させてしまったことがニュースになりました。
また、データの所有者である個人に金銭的な見返りはなく、かたやプラットフォーマーが個人情報を元手に多額の収益を生み出しており、データビジネスの利権が集中してしまっているような構造も問題視されています。
そこで、Web2.0に台頭するプラットフォーマーに対するアンチテーゼから生まれてきたのが、Web3なのです。
ブロックチェーンを基にしたWeb3ではアプリケーションとプロトコルの価値が逆転
ハナエ:Web2.0の構造が問題視されているからこそ、Web3が今話題を呼んでいるのですね。
城田:そうです。なぜならWeb3は誰もがアクセスできる共有台帳である「ブロックチェーン」上にデータが保存されるため、プラットフォーマーによるユーザーの囲い込みが難しく、ユーザー自身がコンテンツやサービスのオーナーになれる「オウン(Own)」という特性が付加されました。これにより、インターネット上でさまざまな民主化が促進されると考えられています。
ハナエ:Web2.0とWeb3では、インターネットの構造がどう違ってくるのでしょうか?
城田:では、アメリカの学者であるジョエル・モネグロ(Joel Monegro)氏が提唱した「ファットプロトコル理論」をもとに説明しますね。Web2.0とWeb3の構造の違いを提唱したもので、Web3に携わる人たちにとっては共通認識となっている理論です。
時田一広(以下、時田):「ファットプロトコル理論」はプロトコルの価値を説明したものですね。
城田:そうです。Web2.0からWeb3に移り変わるにあたって、プロトコルとアプリケーションの価値の大きさが逆転していくことを「ファットプロトコル理論」と呼んでいます。
Web2.0では、各企業がリリースするアプリケーションとそこから生み出されるデータが市場価値をもたらしていましたが、Web3ではプロトコルがトークンを発行できるようになったため、プロトコルの価値が高まる構造に変わります。
まず、インターネットは、TCP/IPやHTTPなどの世界標準の通信プロトコル(通信における送受信の手順などを定めた規格)を基盤に成り立っています。
Web2.0では、プロトコルの上にアプリケーションが構築されています。各企業は、プロトコルレイヤーの上で動くアプリケーションの性能やUI/UXをいかに高めるかに注力し、日々競合と争っています。
また、Web2.0のアプリケーションは、一度使い始めると他のアプリケーションへ乗り換えるのが難しい構造になっています。なぜなら、各アプリケーションに集約されたデータを他に共有できない、いわゆるサイロ化した構造になっているからです。したがって、各企業がアプリケーションに優位性を持たせてユーザーを囲い込み、そのデータを独占するような状態が起きています。
対して、Web3ではブロックチェーンという共有データレイヤーにユーザーのデータが記録され、誰もがアクセスできるようになります。
ハナエ:Web2.0のように、企業がユーザーのデータを独占するのが難しくなりそうですね。
城田:その通りです。ブロックチェーンに共有のデータベースが作られるイメージを浮かべてもらえると、分かりやすいかと。
Web3ではみんなが平等にデータへアクセスできる状況になるため、まずデータを集約する役割の仲介者が必要なくなります。また、共有データをもとに、ユーザーは他のアプリケーションへの乗り換えが気軽にできるようになります。
そして企業側にも「多くのユーザーに使ってもらえるようなアプリケーションを開発しよう」といった健全な競争意識を促すことができるはずです。これまでにはない画期的なアプリケーションが誕生する可能性に期待したいですね。
時田:まさに理論の名前通り、アプリケーションと比べてプロトコルの価値がファットになるのですね。
時田:GAFAMはじめ、アプリケーションの開発と展開に力のあった企業には脅威になりますね?
城田:そうですね、そもそも発想自体が違うので、Web2.0の世界観でサービスを作ってきた人たちにとっては、根底を覆すような大きなインパクトになっているはずです。
Web3によりサービスのログインID統一なるか
時田:Web3の技術やサービスが普及すると、世の中にインパクトをもたらすことがよく分かりました。一方、現状のWeb3における課題はありますか?
例えば、Web2.0ではサービスごとにバラバラなID・パスワードを入力する必要があり、統一されていない点がユーザーにとって不便ですよね。Web3ではIDが一本化されて、ユーザー認証の在り方が変化すると聞いたことがありますがいかがでしょうか?
城田:理論上は一本化できます。Web3では、どのサービスもログイン先がブロックチェーン上の共有データにつながっています。一度自分の資産を保管するウォレットにIDをひもづければ、サービスごとに何度もIDとパスワードを入力する必要はありません。
しかし、現状そのあたりの整理はまだついていない状況です。NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)にウォレットのような機能を持たせてID代わりにする構想もあります。また一部では、GoogleやFacebookなどのプラットフォーマーが管理しているIDを他のサービスにも流用できる「SNSログイン機能」をリセットしたうえで、個人管理の分散型IDを作ろうといった動きも見られます。
このように、各所でいろいろな構想が出てきているので、何を利用するのがベストなのかの道筋は見えていません。
時田:IDの統一は大きな課題であることには変わりないようですが、マイナンバーやデジタル通貨の口座番号を紐づけるような取り組みが必要と思っています。
どうしても、新たなビジネスに結びつきそうな要素があると、陣取り合戦が始まってしまいますからね。自分たちが天下を取るから、簡単に他社には統一させないと意気込んでいる勢力もいるでしょう。また、ユーザーのなかには、プライバシーの観点でSNSログインのような統一されたサービスにデータを渡したくない方もいると思うので、道のりは長そうです。
ハナエ:課題はあるものの、Web3によりブロックチェーンの共有データベースが作られて、仲介者の必要ないサービスが台頭する可能性が広がることが分かりました。次回は、Web3のより具体的なユースケースについて伺っていきたいと思います。