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Web3の普及タイミングはいつ?ユースケースと世の中の動きから探る

株式会社野村総合研究所でプリンシパル・アナリストとして、Web3やブロックチェーンなどの先端技術を研究する城田真琴さん。

そんな城田さんは、すでに実社会への普及が進んでいるとある画期的なWeb3サービスに期待していると話します。

また、いずれは現預金や不動産がトークンに変化し、日々の生活がより便利になる未来も見据えているとのこと。ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広とともに、Web3のユースケースや今後の展望について探っていきます。

前回までの記事 ▷ Web3とは?ブロックチェーンが切りひらく次世代のインターネット


世界初の分散型人材ネットワークサービス「Braintrust」

時田一広(以下、時田):今年4月に刊行された書籍『決定版Web3』でも、 さまざまなユースケースを紹介されていますが、なかでも城田さんが注目している事例はありますか?

城田真琴(以下、城田):個人的に気になっているのは、「Braintrust」ですね。すでにアメリカなどの実社会でなじんでいる、世界初の分散型人材ネットワークサービスです。

株式会社野村総合研究所DX基盤事業本部 兼 デジタル社会研究室プリンシパル・アナリストの城田真琴さん(右)とディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広

ハナエ:Braintrust?どのようなサービスでしょうか?

城田:イーサリアムのブロックチェーン上で構築されている、求職者と企業をマッチングさせる人材サービスです。クラウドソーシングをイメージしてもらうと分かりやすいと思います。

Braintrustが他のサービスと大きく異なるのは、紹介手数料を取る企業などの仲介者が存在しないこと。既存のクラウドソーシングで仕事を受注している個人が、サービス運営企業に取られてしまう紹介料が高額で、身入りが少ないことへの問題意識から生まれたサービスなのです。

時田:具体的には、どのようなビジネスモデルになっているのでしょうか?

城田:既存のクラウドソーシングサービスは、案件が成立するとサービス提供側に紹介料が発生します。平均20〜30パーセントほどの紹介料が受注側の契約金額から徴収されてしまうので、働き手にとってはなかなか不利な状況ですよね。

Braintrustの場合、受注側に対する紹介料の徴収が発生しないので、ユーザーは正当な報酬を受けられます。その代わりに、仕事を依頼する企業から10パーセントの手数料を取るのですが、既存のサービスと比べたら基準はかなり低くなっています。

ハナエ:10パーセントの手数料は、何に使われているのですか?

城田:「コネクター」と呼ばれる、人材と企業をマッチングさせる存在に支払う紹介料に使われます。コネクターは、仕事を依頼したい企業や求職者を紹介すると、紹介料を受け取ることができます。ちなみに、人や企業を多く呼び込むほど報酬が増える歩合制。かつ、誰でもなることができるんですよ。

ハナエ:企業の代わりにコネクターが仲介を担っているのですね。コネクターは必要な存在なのでしょうか?

城田:Braintrustにはサービスの運用を担う企業がいないため、マッチングの仕組みだけがあっても、求職者や企業を引き入れる仕組みがなければワークしません。そこで重要になるのがコネクターの存在です。コネクターが、より多くの求職者や企業を引き入れようというモチベーションのもと動いていけば、サービス内に求職者と企業が増え、Braintrustがワークしていくのです。

この際、コネクターの報酬は「BTRST」というトークンで支払われます。企業は報酬と手数料を米ドルで支払いますが、手数料はステーブルコイン「USDC」に一度変換され、DEX(分散取引所)で購入したトークンを自律分散組織である「Braintrust DAO」に送ります。

そのほか、コネクターを通してBraintrustに登録したり、紹介された仕事を完了して企業から五つ星(満点)の評価を受けた場合にはさらにトークンを受け取れます。そうすることで、純粋な報酬の授受以外にトークンの価値を上げるためにBraintrustのコミュニティを盛り上げるインセンティブがさらに働く仕組みになっています。

時田:Braintrustの利用者はどれくらいの規模になっているのでしょうか?

城田:すでに世界中から6万人以上の人材が登録しています。ユーザー(求職者)からしてみれば、紹介料を取られないのはモチベーションが上がりますよね。求人募集をかける企業側も、Braintrust経由だと非常に優秀な人材が集まると評判だそうです。まさに、双方がWin-Winになる画期的な取り組みですね。

ただ排除すればいいわけではない、「仲介」の役割とは?

城田:仲介業者がなくなることのメリットがある一方で、コネクターのような新たな紹介のかたちやインセンティブ設計は、ビジネスを活性化させるために必要になってくると思います。

時田:私も専門的な知見が必要な仲介業務は必要な役割だと思っていて。例えば、証券会社で扱っているセキュリティ・トークン(有価証券に表示される権利を、電子情報処理によりトークン化したもの)でも債権などを発行するには制度に精通した手続きが必要であり、企業がイチから体制を整えて実行するのは難しいという話を聞いたことがあります。

城田:たしかに、スマートコントラクトで簡単に置き換えられるような仲介業務はまだしも、専門性の高い分野での仲介は、まだまだ人手が必要ですね。

時田:ちなみに、DeFiなど規制の対象にならない仕組みで、「スマートコントラクト」などの技術を活用して取引が自動で行われるものは、問題視されるように思いますが、現状はどうですか?

城田:金融サービスのDeFiは、KYC(本人確認手続き)が必要ない点がメリットと言われていましたが、ウォレットアドレスが誰に紐づいているのか分からないなどのデメリットもフォーカスされてきています

最近は、KYCを踏まえながら利用できるDeFiも出始めていますが、イーサリアムの創設者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏らによって提唱されている「SBT(Soulbound Token)」がこれらの問題解決の糸口になるのではないかと期待されています。

自分の経歴や資格、所属する属性などを証明する譲渡不可能なトークンで、履歴書のように機能します。似たものにNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)がありますが、NFTは誰でも発行でき、本物かどうかは究極は分からないという問題があります

SBTも個人情報がブロックチェーンに公開され、「プライバシー」が守られないなどの課題がありますが、NFTの次とささやかれており、引き続き動向をチェックしているところです

不動産や預金などの現物資産をトークン化する動き

時田:Web3ではブロックチェーンのデータやスマートコントラクトを有効活用できるかがサービスの価値に影響してきます。

例えば、現在の不動産賃貸の取引をWeb3の世界に移行する場合、現状は毎月の家賃を不動産会社が毎月集めて、手数料などを引いた金額をオーナーごとに仕分けして送金しています。

こういった業務を、SBTなどで借りている人、貸しているオーナー、仲介の不動産会社を特定し、スマートコントラクトで家賃をオーナーに直接支払うと同時に仲介の不動産会社に手数料分を支払い、自動的に一括で行うような仕組みにができると考えています。

城田:おっしゃる通り、デジタル通貨が出てくると現在の取引をWeb3に移行することが進んでくると思います。

また金融資産の分野においても現預金や不動産などのRWA(Real World Assets:現実資産)を、うまくブロックチェーンに紐付けて活用していこうという考え方が、昨年あたりから少しずつ出てきており、今年はよりその動きが顕著になるものと思っています。

海外の機関投資家たちの話では、大量にステーブルコイン*1 を持っているけれど、DeFi市場での運用利率が低下し、使い道がない。そこで、ステーブルコインと引き換えに、ETF(上場投資信託)を通じて米国債や社債などのRWAを購入できるようにしたファンドも見られます

*1 ステーブルコイン:米ドルなど法定通貨に価格をペッグ(連動)させたり、複数の暗号資産を担保にしたりすることで取引価格が安定するよう設計された暗号資産。

また、今まで暗号資産をレンディング*2 するには、暗号資産のボラティリティの大きさゆえに借り入れる金額以上の暗号資産を担保として預ける「過剰担保」と呼ばれるような商習慣がありました。

*2 レンディング:保有している仮想通貨を取引所などの第三者に貸し付けて、利息を得る仕組み。

しかし最近では、ステーブルコインに加えてRWAなどの安定資産を担保にレンディングができるような流れがあります。

時田:どんな条件がそろったら、RWAのような金融資産がトークン化していく動きが進むと考えられますか?

城田:RWAのトークン化は、市場の金利パーセンテージが大きく影響してくると予測します。現状、DeFiのレンディング金利は下がっていきており、暗号資産の世界だけでレンディングを完結させても、さほど収益は見込めないかと。

一方で、米国の短期国債の金利が5パーセント近くになっており、ステーブルコインを活用して取引したいニーズ、あるいは逆に国債などの金融資産をトークン化して担保にし、ステーブルコインを借り入れたいといったニーズが出てきているため、いかに双方を引き合わせていくかがポイントになりそうです。

今後は価格の安定したトークンが市場に求められる

ハナエ:金融資産などの価値のトークン化が進むことが、Web3の普及に重要な役割を果たすことがわかりました。ちなみに最近「トークンエコノミー」という言葉をよく見かけますが、私たちの生活にトークンが普及することでどんな変化が起きるのでしょうか?

城田:まずトークンが普及することで、そのトークン独自の経済圏、トークンエコノミーが形成されます。トークンエコノミーの一例に、「DAO」と呼ばれる共通の目的を達成するために集まった人々で構成される分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)があります。

「DAO」は、会社のように地位の異なるメンバーで構成されるのではない、平等な組織構造が特徴です。共通の目標を達成するための意見を誰でも言えるようになっています。また、DAOでは組織の意思決定に参加できる権利を持つ「ガバナンストークン」が発行されます。ガバナンストークンは、物事を決めるための投票権の役割をなし、一人ひとりの意思決定が公平に尊重されます。

時田:日本で実用化が進んでいるDAOはどのようなものでしょうか?

城田:自治体がNFTを発行し、そのNFTの保有者がDAOに参加する権利を得て、自治体の活動に協力するといった取り組みがあります。法改正が進めば、トークンを発行するケースも出てくるでしょう。ただ、その取り組みがサステナブルかというと、少々疑問です。

ハナエ:それはなぜですか?

城田:トークンの価格の変動が激しいからです。トークンをずっと手元に持ち続けてくれる人ばかりならいいのですが、一定の価格で現金化したい人もいます。そして売りに出す人が増えると、トークンは値下がりを続け、保有者の利益がどんどん少なくなります。売買のバランスをきちんとコントロールできれば良いのですが、なかなか難しいのが現状です。

先ほどの事例に話を戻すと、NFTを渡すかわりに自治体の活動に協力するといった仕組みは、仮にその価格が下がっていった場合、値上がりに期待して参加した参加者が多いと、彼らのモチベーション維持が困難になります。果たしてサステナブルと言えるのか、というのが私の見解です。そうした参加者ばかりでなければよいのですが。

時田:価格の変動が激しいと、流動性も失われますからね。やはり、トークンの価格を安定させて、保有者がむやみに手放さないような仕組みをつくるのが、DAOやトークンエコノミーを持続するカギになると考えています。そこで私たちが進めているのは、民間銀行発行のデジタル通貨です。

私たちは、日々、法定通貨で買い物をしたり、支払いをしたりして生活をしています。弊社の進めているデジタル通貨は法定通貨と価値が同じなので、現金を支払う感覚で利用することができます。価値が変動する不安もなくさまざまなシーンで利用することができるので流動性も確保できると思うのですが、いかがですか?

城田:おっしゃる通り、だからこそ比較的価格が安定しているデジタル通貨やステーブルコインが注目されているのだと思います。価格の変動が激しい暗号資産は、どうしても投機目的になり、日常生活で使いにくいものです。

今年6月1日に改正資金決済法が施行され、日本国内でもステーブルコインの発行が可能になりました。投機目的ではなく普段使いできるようなコインやデジタル通貨が誕生することに期待したいですね。

ブロックチェーンを活用したWeb3の普及タイミング

時田:ブロックチェーンを使ったWeb3が世の中に根付くには、どれくらいの時間がかかると予測されていますか。

城田:Web3の技術やサービスが、自然と日常生活に溶け込むまでには、あと7、8年かかると予測しています。

新しい技術が登場した時の世の中の流れを説明すると、まずはユースケースを調査します。画期的なユースケースが見つかれば、今度はそれが広がっていきそうか、スケールするのかを探るのが一般的です。このような段階を経て初めて、新しい技術が世の中に広まると思っています。

すでにブロックチェーンのユースケースはいくつもあるので、今はスケーラビリティを模索している段階でしょう。ちなみに2006年頃に「Amazon Web Services(AWS)」を皮切りに誕生したクラウドも普及するまで7、8年かかっているので、同じような時間軸で世の中に広まるものと推測します。

時田:現在は多くのシステムがクラウドで管理されていますが、それも10年ぐらいはかかりましたね。

城田:そう考えると、ブロックチェーンの普及は2030年ぐらいが一つの分岐点になると見ています。

ハナエ:ブロックチェーンを活用した画期的なユースケースが、今後も増えていくことでWeb3が広まるといいですね!

ところで、城田さんは今話題のChatGPTも既に研究されているとのことですが?

城田:はい、AI技術も黎明期からずっと研究をしてきました。最近は、Web3との接点も少し見えてきたところです。

ハナエ:ChatGPTとWeb3の接点?次回、詳しくお聞かせください!

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