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環境先進都市ポートランドの立役者に学ぶ、サステナブルな社会とテクノロジーの最適な関係

「全米でいちばん住みたい街」といわれる環境先進都市・ポートランド。
循環型社会に向けた取り組みを早くから実践してきた、 “サステナブルシティ”のパイオニアのような街です。

そんな最先端の街ポートランドで活躍した一人の日本人がいます。
ポートランド市開発局(PDC)で都市計画の一翼を担っていた山崎満広さん。

 今回は、そんな山崎さんから「サステナブルな社会に必要なこと」をたくさん学んでいきたいと思います! 

 「テクノロジーだけではサステナブルは実現しない」と山崎さんは言います。
いったい何が必要なんでしょう!?

世界屈指のグリーンシティの立役者が勧める、テクノロジーの活かし方とは?

ポートランド市開発局、PDCとは?

ハナエ:ポートランドってどんな街なんですか?

山崎満広(以下、山崎):ポートランドは、アメリカ西海岸にあるオレゴン州最大の都市です。古くから港町として栄えてきました。とはいっても人口は64万人で、日本の船橋市や鹿児島市とほぼ同じ規模です。リーマン・ショック以降は、世界的に注目される「環境先進都市」として有名になりました。

サステナブル都市計画家でMITSU YAMAZAKI LLC代表の山崎満広さん

時田一広(以下、時田):山崎さんが在籍された「ポートランド市開発局(PDC)」について教えていただけますか。

山崎:PDCは、都市再生と経済開発事業を担う機関です。1958年にポートランド市民の投票によって設立されました。ポートランドがサステナブルな都市として有名になった背景には、このPDCのリーダーシップがあります。

時田:なるほど。単刀直入にお伺いしますが、都市がサステナブルに存続するためにはどうしたらいいんでしょうか?

山崎:ポートランドを例に挙げると、まずはビジョンありきで都市の政策を進めることが重要だと思います。逆に言えば、プロダクトやテクノロジーが先行するとあまりうまくいきません。それらは政策を推進する手段の一つであって、根幹ではないんです。

 ビジョンとテクノロジーの「正しい」関係

時田:プロダクトやテクノロジーが先行すると、どんなことが起きると予想されますか?

ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広(左)

山崎:それらを使える人と使えない人が現れます。例えば、IoT*1 によって家庭でのエネルギー消費量を見える化したとします。テクノロジーに理解を示しプロダクトを使いこなせる人は消費量を意識しますが、しない人は全くしない。

*1 IoT:「Internet of Things」の略語で、「モノのインターネット」と訳される。すでに一部の電化製品ではサーバーやクラウド上で情報を交換しているように、あらゆるモノがインターネットに接続して情報コミュニケーションを行える仕組み。

産業でも同じです。ソーラーパネルや地熱を使った発電を行って温室効果ガスの削減に積極的に取り組む会社も出てくるけど、昔ながらの生産方法を変えない会社は補助金などのインセンティブがあったとしてもそんなことしません。

時田:なるほど。しかし、その点ポートランドは「ビジョンありき」だということですね。つまり、テクノロジーは後からついてきたと?

山崎:そうですね。都市交通を例にしますが、ポートランドではモータリゼーション*2 による環境汚染が早くから問題視されていました。なぜなら、1960年代当時に車社会のアメリカで自動車以外の交通手段は想像できなかったためです。

*2 モータリゼーション:自動車産業の発展とともに車の利用が大衆化し、市民生活の中に溶け込んで生活必需品となっている状態。

ところが、70年代に打ち立てた「人中心」の街のビジョンに沿って公共交通の再整備が始まり、2000年代には公共交通の積極的な利用促進のためにアプリが市民生活に導入されました。このアプリのおかげで電車やバスの場所や乗り方が分かるので「じゃあ、車はいらないな」と自動車交通を抑制するという、当時のアメリカの中ではかなり時代錯誤的な選択を取りました。

山崎:つまり、ポートランドではビジョンや目標があって、その達成に必要なプロダクトなりテクノロジーがあてがわれるといった一貫した核があります。プロダクトやテクノロジーは、いわば「政策の出口」の一つで、行政は人々がそれらを利用しやすいような制度を設計するわけです。

もっと言うと、プロダクトやテクノロジーは時代によって変化しますよね。だから、その時代の先端技術が政策を駆動してしまうと時代ごとにビジョンがブレてしまう。つまり、時代の変化に合わせて使われるプロダクトやテクノロジーも変わってくるというわけなんです。

リサイクルを「クールな文化」にしたパイオニア

 時田:ポートランドは政策に対する市民エンゲージメントが高いと言われますが、それは首尾一貫した、ブレないビジョンがあるからなんですね。なおかつ、プロダクトやテクノロジーが先行した行政施策ではうまくいかないというご指摘にも納得です。

ハナエ:より良い社会を目指す動きは、行政主導で進められることもありますが、一方で「文化の力」も大きく作用しているんじゃないかなと思います。ポートランドでもリサイクル/リユースカルチャーが盛んですよね?

山崎:実はリサイクル文化の草分けがオレゴン州なんですよ。アメリカで初めてガラス瓶や空き缶のリサイクル政策「デポジット・リファンド制度」を州法で定めたのが始まりで、それが文化としてアメリカ中に広がっていったんです。それまで空き瓶や缶はホームレスの人たちが地道に拾って集めて、ある程度まとまった量ごとに定価で交換したりするもので、リサイクルはどちかと言うと“アンクール”なものでした。

 しかし、空き瓶を分別して捨てると10セント(約10円前後)相当のチケットがもらえる仕組みが導入されてから潮目が変わったんです。瓶1本が10セントになるなら、と誰もが瓶をきちんと扱うようになり、それがリサイクルの促進につながっていった。仕組みによって、アンクールなものを“クール”な文化に変えていったんです。

ハナエ:今では日本でもリサイクルチケットの発券機を見かけるようになりましたが、その流れをつくったのはオレゴンだったんですね。

環境先端都市ポートランドに「テック音痴」が多い理由

山崎:もともとポートランドはヒッピー発祥の地であるサンフランシスコに近いこともあり、ヒッピー文化の影響が根強いです。「マザーネイチャーを汚さない」という意識が高く、自然保護や資源の節約、地産地消に積極的な人たちが多いです。

そのため、自然を愛し、便利さよりも地球のためになるサステナブルなアクションを選択します。車よりも徒歩か自転車・公共機関をできるだけ使い、家や物は自分で修復する。少し高値でも地元の野菜や企業の製品を買います。

このような土壌があったため、瓶や缶から始まったリサイクル/リユース文化は、今では住宅に古材やビンテージ家具を使ったり、古着をうまく着こなすことも同様にクールなことだと捉えられるほど定着しています。ポートランドではそういう文化が、かれこれ60年くらい醸成されているんですよ。

ハナエ:セカンドハンドがクールな文化として定着しているって素敵ですね!

山崎:面白いことに、サステナブルのためにテクノロジーを使わず、昔に戻っているところもあるんですよね。モノを大切に使い続ける、古き良き生活や精神に回帰している感じがある。実はポートランドって「テック音痴」が多いんですよ(笑)。

ハナエ:え、そうなんですか!?意外です。でも、たしかポートランドってテック産業が主要産業の一つですよね?

山崎:確かに、インテルなどグローバルなテックカンパニーの一部はポートランドに集まっています。だから、ポートランドは最新テクノロジーを取り込んでいると思う方もいますが、実際ポートランドの人たちはクラフトマン気質で“手作り”が好きだったりします。

自由で新しいことを求める人は多いですが、先進的なテクノロジーが大好きなのは少数派で、多くの人たちはヒッピー的なマインドを持って生活していますね。車は乗らない、スマホは最低限みたいな生活。

でも、そのテクノロジーが社会や地球に良いのであれば、積極的に使うよっていうのがポートランドの人の気質なんです。だから、電気自動車(EV)には積極的に乗る。ポートランドはアメリカでも電気自動車の保有率が高いのはそのためです。そういう人たちがポートランドのサステナブルを引っ張っていっている。

テクノロジーで幸せはつくれない

ハナエ:電気自動車も流行っているからというよりは、“それが地球に優しいから乗る”という感じですか?

山崎:そうですね。なんなら“地球に優しいことを流行らせたいから乗る”みたいな人もいます。街や地球のために価値あることならするよ、と。ただ、みんなお金に余裕があるわけじゃないから、電気自動車に買い換えるのは難しい。だから多くの人は、物を長く大切に使ったりして、できるだけ慎ましやかに生活する。それもまたサステナブルな社会につながる一つの方法ですから。

ハナエ:そう聞くと、本来サステナブルな社会を実現するツールは無数にあって、テクノロジーはその一つにすぎないんだなと改めて気付かされますね。

山崎:そうですね。最近、「ウェルビーイング」ってよく言うじゃないですか。あれは要するに「人の幸せとは何か」をもう一度よく考えようよってことですよね。テクノロジーだけでは、幸せをつくれないんですよ。幸せをつくるのは人間だから。

山崎:でも、幸せになるためのツールとしてテクノロジーを使うのは良いことだと、僕は思っているんですよ。テクノロジーはあくまで道具だから、物事の目的や根幹にテクノロジーが位置づけられると違和感がありますよね。まずは人の幸せ、社会の幸福とは何かを見定め、テクノロジーを使ってそのビジョンを具体化していくのが筋だと思います。

ハナエ:テクノロジードリブンな風潮があるなかで、私たちは未来のためにテクノロジーをどう活かしていくのがいいのでしょうか。

山崎:テクノロジーをどう活用するかが重要です。その一つが、テクノロジーによって得られる膨大なデータの活用です。アメリカは一般市民に公開されているパブリックなデータベースの数が多く、それらのデータをあらゆる分野で戦略的に活かしています。都市づくりもしかりで、それは日本とは大きく異なるんですよ。

ハナエ:そうなんですか?では次回は、アメリカと日本が実際にどう違うのかについて伺いながら、未来社会に活かすテクノロジーのヒントを引き続き探っていきたいと思います。

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