NFTバブルの終焉から2年。クリエイターDAOの現在進行形
こんにちは。ディーカレットDCPの「DE BEYOND」編集部です。
2021年から2022年にかけて、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)の熱狂的ブームが起きました。「OpenSea」をはじめとするNFTマーケットプレイスには、投機を目的とした多くのユーザが参画。とりわけデジタルアート作品は人気を集め、アメリカのミュージシャンが100万ドル以上の価格で購入したグラフィティのNFTはメディアでも話題になりました。
ただ、その後はビットコイン暴落などの影響もあってブームが収束。現在、NFT市場の売上はピーク時と比べて3分の1程度まで減っており、2022年までのNFTをめぐる動きは一般的には行き過ぎた投機、バブルだったと考えられています。
でも、本来のNFTはただの投機の対象ではありません。
映画、音楽、アートといったクリエイティブ領域では、創作物をNFT化することで、所有権のシェアなどこれまでになかった取引ができるようになりますし、スマートコントラクトによってクリエイターには正当な利益が還元されます。さらに、さまざまな価値をデジタル化したNFTは、クリエイターが資金を調達するための手段にもなり得ます。
今回はそうしたNFTの特性を活かしたクリエイターDAOについて紹介したいと思います。
クリエイターDAOとは?
クリエイターDAOは、クリエイティブ領域でブロックチェーン技術を活用したDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)の総称です。
楽曲の所有権をNFTとして分割し、アーティストと支援者との間で収益をシェアするファン参加型の音楽プラットフォームや、NFTを発行して出資を募り、出資者に作品づくりにも参加してもらう映画製作コミュニティなど、そのかたちは多種多様。NFTの購入者にキャラクタービジネス(グッズ販売、二次創作など)の権利を認めるキャラクターDAOもクリエイターDAOの一つです。
以前の記事でご紹介したDAppsと同様、こうしたクリエイターDAOには中央集権的な管理者がいません。ブロックチェーン技術を活用し、クリエイターとファン(トークン保有者)の意思決定によって運営されるクリエイターDAOは、特定の企業や出資者に依存しない、文字通りクリエイターファーストの経済圏になると期待されています。具体的に何がどう変わるのか見ていきましょう。
知的財産権がコミットされる
まず何より大きいのは、クリエイターの権利が永続的に保証されること。クリエイターDAOでトークン化された創作物の知的財産権は、ブロックチェーン上に改ざん不可能なデータとして記録されます。
販売・流通の過程で創作物がクリエイターの手から離れても、いつ誰が生み出した作品なのかは常に明確なので、第三者が著作権を偽って不正な利益をあげたりすることはできません。また、作品が二次流通、三次流通した際も、クリエイターはスマートコントラクトによって知的財産権に基づく報酬を受け取れます。
私たちが開発を進めるDCJPYネットワーク(Amic sign:アミック・サイン)でも同様の仕組みを構想しています。クリエイターが作品を制作したら、NFTにコントラクトを埋め込むことでトレーサビリティが確保され、販売されるたびにクリエイターが定めた報酬を受け取れる自律的で公正な取引がもたらされます。
また、これらをデジタル上でも法定通貨で取引ができるようになるのが大きなポイントになります。
スポンサーに頼らず資金を調達できる
クリエイターDAOでは作品そのものはもちろんのこと、キャラクター原案、ラフデザイン、撮影素材といった、製作の過程で生まれた二次的な創作物もトークン化して販売することが可能。クリエイターはスポンサーに頼ることなく、自ら資金を調達できます。
例えば、後ほどクリエイターDAOの事例として取り上げる「SUPER SAPIENSS」は、映画の製作現場で用いられる絵コンテをデジタル化しており、トークンの購入者(プロジェクト出資者)はその閲覧権を付与され、電子コミックとして見ることができます。ファンから直接資金を集め、従来の製作委員会方式(複数社のスポンサーが出資する方式)から脱却する試みとして大きな注目を集めています。
本当に創りたいものを創れる
スポンサーに依存しないということは、クリエイターにとっての足かせがなくなるということ。
例えば前述の製作委員会方式の映画の場合、作品の内容にスポンサーが干渉したり、クリエイター側が興行成績を意識し過ぎるあまりアイデアを活かしきれなかったりといったケースがあるようですが、クリエイター自身が資金を調達できれば、そうしたことは起こりません。本当に創りたいものをかたちにできるのも、クリエイターDAOがもたらす大きな利点です。
作品を自由に展開できる
さらに、クリエイター自身が資金を集めてかたちにした創作物は、クリエイター自らの裁量で展開させていくことができます。例えば楽曲コンテンツをリリースするタイミングや配信方式、視聴料金は、レコード会社などの意向にとらわれることなくクリエイター自身がすべて自由に決められますし、映像作品の配給やメタバースの映画館での上映、映画祭へ出品などについても同様です。
おのずとクリエイターにとってのビジネスチャンスは広がり、作品を軸として創作の糧を得られるようになるはずです。
クリエイターDAO3選
1. SUPER SAPIENSS
映画監督の堤幸彦さん、本広克行さん、佐藤裕市さんが中心となり、2022年に発足したプロジェクトです。ファンと共に映画をつくる「共創型エンターテインメント」をコンセプトに、トークンを発行・販売しています。
トークンの購入者は購入した数量に応じ、絵コンテの電子コミック閲覧、製作プロジェクトへの投票権といった特典を受け取ることが可能。これまでの製作委員会方式にとらわれない、日本初のエンタメ系DAOとして注目されています。
2. LIFE LOG BOX
俳優の別所哲也さんが代表取締役を務めるビジュアルボイスとデロイト トーマツコンサルティング、AWSジャパンによる動画クリエイター支援プラットフォームです。
ビジュアルボイスが1999年から運営してきた米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」と連携し、分散型ストレージによる動画コンテンツの管理、クリエイターに利益を還元するためのコンテンツのNFT化といった活動を行っています。
女優の黒木瞳さんや映画監督の安藤桃子さんもクリエイターとして登録しており、2023年6月の記者会見の模様が多くのメディアで取り上げられました。
3. Royal
こちらはアーティストの支援と収益のシェアという2つの観点から注目されているクリエイターDAOです。アーティストは自らの楽曲の所有権をNFTとして分割し、任意のロイヤリティを付けて発行・販売することが可能。ファンはそのNFTを購入することで、お気に入りのアーティストを直接支援しつつ、ストリーミング配信で発生した収益の一部をロイヤリティとして受け取れます。
また、NFTによってはアーティストのチャットへの参加権、ライブチケットの抽選購入権といった特典も用意されています。