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お金の本質は「分かち合い」と「助け合い」 新しいお金を幸せのツールにするために

前回に引き続き、社会活動家の武井浩三さんとお話ししていきます。
今回のテーマは「お金の本質」。
 
そもそも「お金」って何なんだ?
知っているようで知らないお金の原理。

武井さんは現在、非営利株式会社eumo(ユーモ)のボードメンバーとしてコミュニティ通貨のプラットフォームを運営されています。
そんな武井さんとお金の本質と課題を学び、お金のミライを考えます!

前回までの記事 ▷ ブロックチェーンは「思想」 分散化と透明性がつくる社会のミライ


いわゆる「お金」とブロックチェーンの違い

時田:法定通貨の歴史はまだ百数十年ですから、実はそんなに長くないんですよね。
 
武井:そうですね。中央銀行制度の成立はそれほど古い話ではありません。

社会活動家・社会システムデザイナーの武井浩三さん(右)と、ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広

時田:現在の仕組みは実質イングランド銀行を手本にしたものだと言えるでしょう。それが米国の連邦準備制度理事会(FRB)に実装されたことで制度として確立されましたね。
 
武井:そうですね、そもそも「お金って何だ?」と追求し始めると、法定通貨や国家の仕組み、そして国家すら支配するグローバリストたちに僕たちが支配されていることに気づきます。
 
今、4000兆円以上の国債がアメリカで発行されていますけど、なぜその価値は下がらないのかと言えば、石油と紐付いているからですよね。ドルを持たないと石油取引ができない。
 
西側諸国がつくり上げてきた中央銀行制度は、国債発行によって信用創造して、負債から金利を生み出す「債務貨幣システム」です。しかし、ブロックチェーンから生まれるお金は負債から生まれていない「パブリックマネー」と呼ばれる純資産です。つまり、お金は本来、借金から生み出す必要がない。

暗号資産の本領は投機ではない

時田:確かに、借金から金利を生み出すシステムが世の常識になっていますが、だからといって必ずしも従う必要はない。

武井:古くはキリスト教でも、イスラム教でも金利を付けた金貸しは禁止されていました。なぜかと言えば、人が人を支配する構図が生まれてしまうからなんですね。いわゆる奴隷制度は廃止されましたが、そうは言っても、ある国の中央銀行を他国の人間が支配するというのは、かたちを変えた奴隷制度とも言えます
 
例えば、フランスはいまだにアフリカ諸国のあいだでCFAフランを流通させて、その外貨準備金として毎年50兆~70兆円くらいの準備金という名の預り金を得ています。日本も国債の金利だけで毎年10兆円くらい払っているわけです。そして、そのお金はグローバリストたちに流れていく。外国の間接的な統治と言っても過言ではないわけです。

武井:ブロックチェーンはこの状況を変える希望だと思います。しかし、現状は暗号資産を扱う人たちが投機目的に扱っているだけで、その限りでは資本主義の延長になっていますよね。

100年前に学ぶ、資本主義を超えるための「お金」

武井:僕は経済の本質は「助け合い」「分かち合い」だと思っています。そのためのお金をつくりたくて、僕たちはeumo(ユーモ)という新しいお金をつくったんです。これには、いつまでに使わなければいけないという期限が付いています。

非営利株式会社eumoのウェブサイト

武井:ユーモのアイデアは、経済学者のシルビオ・ゲゼルと作家のミヒャエル・エンデらの思想と実践に着想を得ています。彼らは「エイジングマネー(減価する貨幣)」を実際に流通させました。それらは労働者通貨と呼ばれ、なおかつ「1週間ごとにスタンプを押さないと使えない」という特徴を持っていました。
 
時田:使用期限があるということですね。
 
武井:はい、期限を持たせた通貨は法定通貨の5~10倍の速度で循環します。労働者通貨が流通したオーストリアのヴェルグルは、世界恐慌後に驚異的な速さで経済復興を成し遂げたと言われています。それは「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれて讃えられましたが、通貨発行権の自由な行使に不都合を感じた国家やグローバリストの反感を買い、発行を止められてしまいました。
 
ハナエ:ユーモは使用期限の他にどんなルールで運用しているのですか?
 
武井:「等価交換をさせない」というルールを課しています。利己的に振る舞う人々に貨幣を使わせると、それは奪い合いにしかなりません。それを分かち合いに変えていくため、支払う時に贈与、つまりチップを上乗せする仕組みを実装しています。ユーモには平均12パーセントぐらいのチップが上乗せされています。
 
期限が切れた通貨はコミュニティに全額戻るようになっています。加盟店の売上の一部もコミュニティに還元されるため、まちの課題解決や地域活動に充てることができます。ユーモを使うたびに共助の財布が増えていきます。

非営利株式会社eumoのウェブサイトから引用

ハナエ:想いや共感がコミュニティの経済活動にうまく循環する仕組みになっているんですね。

お金がつくる、社会のつながり

時田:ユーモは、いつローンチされたんですか?

武井:β版の始動から2年、実証実験を含めるとスタートは3年前になります。その間、いろいろと面白いことがわかってきました。チップを上乗せすることによって顧客とお店「以上」の関係ができあがります。
 
大好きなお店だから応援したい、応援してくれるお客さんだからおまけしよう、みたいな関係性が生まれていくんです。つまり、ユーモによって社会関係資本(ソーシャルキャピタル)が育まれていくようになります。
 
ハナエ:単にお金の受け渡しだけではなく、人の想いが載ったお金が流通する仕組みがあるのは素敵ですね。
 
武井:そうですね。このソーシャルキャピタルは、法定通貨の価値基準では測れない「価値」です。ソーシャルキャピタルが多い人の方が長生きするというデータもあります。社会とのつながりを多様なかたちで持っている人の方が、より豊かで健やかに生きることができるということですね。

武井:これは僕の持論なのですが、ソーシャルキャピタルと法定通貨の流通量は反比例すると思っているんです。なぜなら、そもそも貨幣は知らない人と取引するための道具なので、親しい知人同士には必ずしも必要ではないからです。
 
「ファイナンス(finance)」の語源は「フィニッシュ(finish)」です。つまり、相手との貸し借りの関係を解消して「関係性を断絶すること」が金融だということです。しかし、共同体は「贈与と返礼」によって強く結び付いていくものです。
 
日本でも、結婚式の内祝いなんかは「半返し」が基本ですよね。同額のものを一度に返さないのは、贈り主との関係を終わらせないためです。そういう考えが風習に反映されているんですよ。ですが、古くから育まれてきた持ちつ持たれつの関係性は、貨幣経済の暴走で毀損されていますけどね。

お金は分かち合うもの

時田:ところで、ユーモはどこで使われているんですか?
 
武井:現在、ユーモのコミュニティ通貨は15種類あって、それぞれ発行者が違います。北は北海道ニセコから南は九州熊本まで。その他にも都市型地域通貨というものを世田谷区で発行していたりします。
 
時田:なるほど。発行体はユーモだけど、発行元は各コミュニティなんですね。
 
武井:はい。発行はどんなコミュニティでも簡単にできます。しかし、ユーモという共通通貨(ベース通貨)から各コミュニティ通貨を購入はできますが、ベース通貨に払い戻しや​通貨同士の交換はできないようにしています。いわば一方通行です。

非営利株式会社eumoのウェブサイトから引用

武井:チェーン店やフランチャイズなどの資本主義経済の実態においては、いくら地方の雇用創出と言っても、利益は都市部に吸い取られます。このお金の流れを逆転させないと、地方都市の経済は存続できません。地域通貨の本質は、コミュニティの中でお金を流通させることだけではなく、コミュニティの外から中にお金を流入させることなんです。
 
ユーモを持った人がその地域に行ってくれること、つまり地域の関係人口を増やすことが、サステイナビリティにとって非常に重要なことなんですよ。
 
ハナエ:「お金を分かち合う」って大切な考え方ですよね。ただ、みんなその大切さはわかるんだけど、そう振る舞うことはとても難しい…。「格差をなくし、持続可能な社会をつくる」と言うのは簡単ですが、実際、そのための仕組みを社会に実装していくには課題がたくさんありますよね。
 
次回は、お金の話をもっともっと深めていきましょう!ここ数百年にわたる経済=お金の課題を武井さんにレクチャーしてもらいつつ、「新しいお金」に必要なことは何か考えていきたいと思います。

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