私の「終わり」から未来を考える? アートが拓くデジタル通貨のビジョン
こんにちは。
「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
前回に引き続き、クロストークのお相手はキュレーターの塚田有那さんです。
塚田さんがキュレーションしたユニークな展覧会をめぐってトークがはずみます。
デジタル化が進んだ未来で、自分が死んだら何が起こるのか...!?
デジタル資産はどうなるの?私のデジタルツインは必要?
あなたにもきっと関係がある、未来の話をしましょう。
共通のビジョンを見せる
塚田有那(以下、塚田):フィンテック研究で著名な斉藤賢爾さん(早稲田大学大学院教授)は、以前インタビューさせていただいた時、研究の先にある世界観を「スタートレックの世界」と表現されていました。スタートレックの世界って、お金の概念が無いんですよね。
斉藤さんは幼い頃にスタートレックを見て、インターネットなどのデジタルインフラが整った後の「お金すら必要なくなった世界」に興味を持ったそうです。そして、それはどうやったら可能になるんだろうという疑問から、インターネットとお金の未来に関する研究の道に進まれたと。
塚田:おもしろいのは、フィンテック研究者の着想源が「スタートレックの世界観」だということですね。そうした思考をドライブするビジョンを提示するのは、アートやデザインの役目でもあります。未来をつくっていくために、みんなでSF的な世界を想像してみるというのは有効かもしれませんね。
前回もお話しましたが、物語やビジョンが共有されていないことで新しいテクノロジーへの反発が生まれてしまうのだとしたら、その物語やビジョンをつくるところから、みんなで始めないといけない。アーティストと呼ばれる人々が得意とするのは、そういうビジョンの叩き台を示すことですから、今後彼らの存在はもっと必要とされてもいいと思うんですよね。
時田一広(以下、時田):われわれテクノロジーを提案する側に足りないアイデアを持っているのがアーティストですよね。それこそスタートレックのような、みんながイメージしやすいビジョンを提示できたら、新しいテクノロジーも社会に浸透しやすいんだろうなと思いますね。仕組みやスペックの話をしがちですが、大切なのはそこではないんですよね。
テクノロジーに揺れ動く「人の感情」に敏感であれ
塚田:テクノロジーの普及を考えるならば、重要なのは「感情」でしょうね。つまり、人々がそのテクノロジーについてどう感じるか。利便性や効率性もインセンティブですが、やはり生活者の気持ちがついてくることがもっとも大切だと思います。
電子マネーの普及で、お金に対する生活者の感覚も変わってきていると思うんです。そういう感情の機微を見逃さなければ、デジタル通貨を普及させる道筋やタイミングも見極められるかもしれませんね。
ハナエ:塚田さんがキュレーションされた「END展 死から問うあなたの人生の物語」は、デジタル化の今後を想像させる興味深い展覧会でしたね!私たちの体が終わりを迎えた後、インターネット上に残った私たちの「存在」はどうなってしまうのか...。
塚田:私たちの営みの多くはインターネット上で展開しているわけですが、それによって私たちの「死後のありよう」や「死にまつわる物語」も少しずつ変わっていくはずです。例えば、私たちの死後、デジタルデータとして存在する資産はどう相続・分配されるのか。肉体的死の後、インターネット上の自分の痕跡を残したいのか、消したいのか——。
前者の問題については、ブロックチェーンを使って任意の組織に寄付ができるようになるなど、従来選択肢に無かったようなチョイスが可能になるでしょう。つまり、デジタルテクノロジーの進化によって、自分の死後というものも、生きている間と同じくさまざまな可能性に開かれているのです。その可能性に気づいた人々が、新しい仕組みやデザインを生み出していくのでしょうね。
時田:なるほど。これまでは故人の遺産は遺族が手続きをしなけばどうにもできませんでしたが、デジタル通貨であれば資産の保有者本人が生前に贈与先を決定できますね。
あなたは未来をどう考えますか?
塚田:この展覧会は、情報技術が進展した先の未来を考えるプロジェクトから始まりました。今、私たちはごく短いタイムスケールのなかでしか、未来を考えることができなくなっています。例えば「2040年の未来像」と言われても、ピンとこない人は多いのではないでしょうか。しかし、そもそも私たちは1000年前の世界を知っているわけだから、50年先、100年先を想像することは本来できないことではないんです。
とはいえ、急に50年後を考えてと言われても、なんだからモヤがかかってしまったように具体的なイメージが出てこない。そして、どこか他人事で、自分の問題と思えなくなってしまう。だったら、老若男女誰にでも訪れる自分の「終わり」から考えてみようか、という逆転の発想からEND展は生まれました。自分が死んだ後どうなるのか、という誰にとっても関係する問いから、未来を考えてみようということですね。
塚田:そのなかでも、例えば故人のデジタルツインを作り出すことなど、技術的にはすぐにでも実現可能な「死をめぐる事柄」はたくさんあります。しかし、それは必ずしも倫理的に許容されることばかりではありません。テクノロジーがつくる未来を想像するということは、私たちの倫理観のアップデートは可能かという問いと向き合うことでもあります。その先に未来をいかにデザインしていけるかが見えてくるのだと思います。
塚田:私がこの考えを、あえて展覧会という形式で実現したのには理由があります。それは、一人ひとりにテクノロジーの未来について考えてほしかったからです。個人が作品と向き合い、主体的に考えることができる展覧会という場だからこそ「あなた自身は未来をどう考えますか」という問いが意味を持つと思ったんです。
時田:テクノロジーは、特にここ20年のあいだ、飛躍的に進化しています。だからこそ、一人ひとりが主体的に、テクノロジーが可能にする「未来の物語」を想像していくことが重要な意味を持ってくるんですね。
塚田:そうですね。「このテクノロジーが今、何を可能にするのか」という点も普及のためのインセンティブではあるんですが、もっと大切なのは「このテクノロジーがどんな未来をつくっていけるのか」ということです。そして、そのビジョンは一人ひとりの個別具体的な想像から生まれてきます。みんなでデジタル通貨がつくる未来を想像することも、アートやデザインの力を借りることで可能になるかもしれませんね。
時田:いいヒントをいただきました。塚田さん、ありがとうございました。
- 編集後記 -
いつも最後までお読みいただきありがとうございます!
Vol1で塚田さんがおっしゃっていた、一部のアーティストの方々はブロックチェーンの仕組み「それ自体」を作品化して、ブロックチェーンに対する社会の認識をアップデートさせるような試みをしているというのは非常に興味深く、これから目が離せませんね・・!
そして今年も早いことに残り約1ヶ月ですね。急にとても寒くなり、秋から冬にかけての準備期間が少ないように感じました☃❄️
今年は、ディーカレットDCPはホワイトペーパーの発表や、商用化の発表など重要なイベントがありました。引き続き、皆さまの目に留まれるように頑張ってまいりますので、宜しくお願いします!