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1年1年の「ストーリー」が付加価値になる。日本酒造りの未来とブロックチェーン

こんにちは。「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
西堀酒造株式会社の6代目蔵元としてご活躍される西堀哲也さんをゲストにお招きしたクロストークの第2回。今回はデジタル化が進むなか、人の手仕事にはどういった意義があるのか、次世代の日本酒造りにブロックチェーンやトークンをどのように活かすことができるのか、さらに深掘りしてお話をうかがっていきます。


酒蔵DXの効果と人の手に委ねられる仕事

時田:前回は西堀さんが進められてきた酒蔵DXについてうかがいました。酒蔵のデジタル化が進んだことにより、蔵人さんたちの仕事の負担は軽減されましたか?

西堀:軽減されたと思います。単純作業をデジタルの力で代替すると精神的な疲弊が減り、人がやるべき作業に集中できるようになるのが大きいですね。たとえば、醪の温度管理などは比較的シンプルな作業なので代替可能ですし、数値化できる情報はきちんと数値化して、できるだけ属人化しないようにしています。そうすると、これまでできなかったことに手をかけられるようになりますし、モチベーションも上がります。

時田:酒蔵での仕事はかなりアナログだったのではないでしょうか?

西堀:酒蔵見学にいらっしゃった方が現場を見て「こんなにアナログだったんだ…」と驚かれることは結構多いですね。同じお酒でもビールやウイスキーの製造はどちらかというと装置産業なんですが、日本酒造りは逆に人の手に委ねられる部分が多いと思います。

時田:たしかに、大手のビール会社や蒸留酒のメーカーが日本酒に参入するケースはほとんど聞いたことがありません。人の手に委ねられる部分が多いゆえに参入のハードルが高いんですね。

西堀:そうですね。装置や設備で解決できないことが多いのが日本酒造りの難しいところですし、それを限界と言ってしまえば、たしかにそうなのかもしれません。でも、逆にそうした日本酒造りならではの特性が、ストーリーとして伝わる未来もいいかなとも思っています。

実際、私も身をもって体感しているのですが、日本酒造りはコンマ1単位での繊細な温度管理が求められますし、手間もかかります。それから、それぞれの酒蔵に積み上げてきたものがあるので、簡単には味を真似することができません。

今は酒蔵同士の技術交流などで「うちはこうやっている」とレシピや製法を公開することも多いのですが、同じようにつくっても同じお酒にはならないんです。

時田:レシピや製法を公開しても他で同じものができない、真似できないということは、どの酒蔵さんもわかっているんですね。

西堀:おっしゃるとおりです。ですから他の酒蔵の良いところを参考にしつつも、それぞれ独自の日本酒をつくって、お互いを高め合っています。

職人の聖域と「味を変えない」という慣習

時田:そうすると、これから酒蔵のデジタル化がさらに進んでも、職人さんの勘や経験則に委ねられる部分は残り続けるのでしょうか?

西堀:そうですね。杜氏や蔵人の勘と経験則によって品質が大きく左右されるのが、日本酒造りのいいところでもあれば、悪いところなのかもしれません。これまで日本酒の世界では、毎年つくるお酒の品質を均質化するのが、職人の技術だと考えられてきました。

同じ醸造酒でも、ワインの場合は醸造した年ごとに味が変わるのが当たり前とされているのですが、日本酒は毎年異なるお米の出来によって味が左右されないよう、技術でカバーしてきたんです。

時田:毎年味が変わるのを良しとするか、変えないのを良しとするか。そこがワインと日本酒の違うところなんですね。

西堀:ワインの場合、葡萄の品質によってほぼ味が決まるので、手をかけるのもどちらかというと原料の栽培の部分です。それに対して日本酒の場合、味を決める要素の大半は酒蔵の技術です。どんな製法をとるか、どう発酵させるか、どういった麹菌をどれだけ使うかによって、日本酒の味はいかようにも変わります。

ですから、毎年最初に行う普通酒クラスの仕込みでは、その年のお米の出来を確かめながら、吸水率を変えるために水の温度を調整したり、細かく判断、調整をします。そうすることで蔵の味を保ち続けるのが、これまでは「是」とされてきました。

日本酒造りの「ストーリー」とそれを伝えるデジタル技術

西堀:でも、私自身は特定の商品では毎年味が変わってもいいのかなと思っています。そのうえで毎年違う、1年限りの日本酒造りのストーリーを発信していく。そのストーリーを語るには、プロセスをきちんと記録しておかなければいけないので、それがこれから取り組んでいくべきことかなと思っています。

もちろん、「変わる」といってもワインのような原料による変化ではなく、どちらかというと人がもたらす変化です。たとえば、その年に酒蔵で働いていたメンバーの顔ぶれや、それぞれの熟練度、工夫の仕方。その結晶とも言える日本酒の味は、その年だけのものですよね。そうした歴史、ストーリーを日本酒に付加価値として乗せることができないかと考えています。

時田:今のお話をうかがい、ブロックチェーントークンにすごく合うと思いました。お酒が好きな人も、これまで飲んだ酒をすべて覚えているわけではないですよね。瓶をとっておいたり、ラベルを保管しておいたりすることはできますが、普通はそこまでしません。

そこで、その年にどんなメンバーで、どういった環境のなかでつくられた日本酒なのかという情報をトークン化すれば、スマホで常にチェックすることができます。自分がいつ、どの年のお酒を飲んだのかわかりますし、お酒が好きな人なら、そこにもう一度戻って試してみたくなるのではないでしょうか。

そんなトークンを、オンラインショップでお酒を買った人に渡してあげると喜ぶと思いますし、料理に合わせてお酒のラインナップを工夫している飲食店に参考として提供するのもいいかもしれません。

西堀:それは面白いですね。日本酒には甘口、辛口という分類がありますが、実はどちらも明確に定義付けられているわけではないんです。人によっては辛口のお酒が、他の人には甘口に感じられることがあります。それはその人自身の経験と歴史、どんな銘柄を飲んできたかによって左右されるところなので、そうした情報も含めトークン化すると、これまでとは違う、付加価値を乗せた日本酒の提供の仕方ができるのかなと思います。

時田:それはとても面白いアイデアですし、トークンを受け取る側も楽しいですね。

ー次回は西堀さんのお酒造りのアイデアの源泉や、西堀酒造さんの今後の事業展開とデジタル技術の活用方法ついてお話をうかがっていきます。