挑戦をサステナブルに。価値の交換をより本質的に。デジタル通貨のUIと未来社会
こんにちは。「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
デザインエンジニア・緒方壽人さんをゲストにお招きしたクロストークの第3回。今回は2021年に長野県に移住された緒方さんご自身の経験をふまえ、これからの社会におけるデジタル通貨の役割やそのUIのあり方を探っていきます。
1人ひとりの「やってみたい」を支えるデジタル通貨
時田:前回と前々回、Web3社会におけるデザインの役割やデジタル通貨のUI、体験価値についてお伺いしました。緒方さんはクリエイティブの力とテクノロジーが組み合わさりデジタル通貨が世の中に広まった時、どんなことが起こり得るとお考えですか?
緒方:デジタル通貨が個人のビジネスを支えるツールになればいいかなと思います。僕は2021年に長野県御代田町に移住しました。そこで東京にいた頃と大きく違うと感じたのは、サラリーマン的な働き方をしていない人たちが多いこと。自分で商売やプロジェクトを立ち上げてお金を得ている人たちとのつながりが、ものすごく増えたということです。
そうした環境にいると、自分も何かやってみたいという気になってきます。でも、現実的に何かを始めようとするとお金が必要な場面がでてきますよね。
いまはクラウドファンディングがありますが、Webサイトでの情報の出し方などを含めてコツやテクニックが必要ですし、どう始めたらいいのかわからない人もいると思います。デジタル通貨やブロックチェーンでそういったことが変わってくると面白いかなと。
時田:クラウドファンディングはわれわれもデジタル通貨のユースケースの1つとして考えています。出資してくれた人にリワードとして何らかのトークンをお渡しするのにも使えますし、いろいろなことができます。
今年4月には、俳優の別所哲也さんが主催する「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」という国際短編映画祭にWeb3パートナーとして参加しました。
別所さんが代表を務める会社に「LIFE LOG BOX」というサービスがあり、クリエイターが映画祭への応募作品を保管し、ユーザーは金を払ってそれを視聴できます。そのサービスとわれわれのデジタル通貨を組み合わせ、将来的にクリエイターを直接支援する仕組みをつくろうと。ブロックチェーンは作品の評価を記録するのにも適していますからね。
緒方:それは面白いですね。クラウドファンディングのような資金調達手段のやり方が、新しいものに変わっていくということですね。
時田:そうですね。あと出資という点では、ウイスキー樽への投資などもユースケースの1つです。1つ数百万円の商品もトークン化して分割すれば、より手軽に出資できます。
トークン化には合うものと合わないものがあって、既存の市場の枠組みのなかで考えるとスイッチングコストの問題が起きてしまったりもするのですが、根本的に発想を変えていくと、これまでと違うつくり方ができるかなと思っています。
失敗に還元する。挑戦をサステナブルなものにする
緒方:いま時田さんがおっしゃったウイスキー樽にしても、トークンとマッチするもの、ユースケースとしてうまくイメージが描けるものは、それはそれでいいと思うんです。でも、その一方でうまくいかないケースもありますよね。
挑戦すれば失敗する可能性があるわけですが、たとえば現状ではクラウドファンディングで資金を調達し、プロジェクトが失敗してしまった時、もう一度お金を集めて再チャレンジするのはなかなか難しいのかなと。
時田:それは難しいですね。
緒方:そこでブロックチェーンを使えば、単にオールオアナッシングではなく、失敗のなかに隠されたノウハウや、他の人が同じ失敗を繰り返さないようにするためのコツを共有できる仕組みができるのかなと思います。
実際にどうカタチにするかというと難しいのですが、「ここはまずかった」というところを改善し、再度挑戦するプロジェクトを立ち上げ、その成果が出た時、前に失敗した人たちにも報酬が還元される仕組みがあるといいなと。失敗も重ねていけば、いずれは報われるという形にならないかなと。
時田:それは素晴らしいですね。実際に発明する人は、その何倍、100倍もの失敗をしているということがあると思います。その積み重ねを追体験する時間がないのであれば、テクノロジーを活用する。それで成功に近づけるということですね。
緒方:それからやはり、あきらめずに続けることも大事だと思います。僕が「Metapa」をつくるためにいろいろとリサーチしていた時、SNSで流れてきた投稿に「メタバースの成功のさせ方」というようなスライドがあったんです。早速見てみると「結論、10年やれ」と書いてありました(笑)。
でもよくよく考えてみると、本質的ではあるかなと。何らかの形で10年続くと、それなりにサステナブルな何かが出てくるというか。実際、最近VRチャットのユーザー数が急に伸びていて、VRチャットがいつ始まったのかチェックしたら、ちょうど10年前でした。
時田:それは面白いですね。たしかに10年経つと、みんな使うようになるということがあるのかもしれません。インターネットもみんなが当たり前に利用するようになるまで10年くらいかかりました。急にブレイクすることもあるので、続けるのは大事ですね。
緒方:そうですね。その続けるための仕組みとして、ブロックチェーンやデジタル通貨が使えると面白いと思います。
いま、僕たちは、社会の変化するスピードが速いと思い込んでいるようなところがあるかなと感じています。実際にテクノロジーの進化は速いですし、それをキャッチアップしていくのも大事なんですが、結局人間が生きているスピード感はそれほど変わっていないわけです。そう考えると何か、続けるための仕組みがあるといいですよね。
「成功」ということに関しても、何となく広がっていく、スケールしていくというイメージを抱きがちですし、もちろん最終的にはそうなったものが残るのだと思いますが、その前にまずは続ける、続けられる仕組みがあるということが大事かなと思っています。
デジタル通貨とこれまでのお金の違い。インターフェースはどうあるべき?
時田:続いてデジタル通貨のインターフェースについてお話させてください。デジタル通貨はこれからの社会に欠かせない基本機能の1つですが、それだけで何かが大きく変わるわけではありません。社会や慣習を大きく変えていくには、サービスの力が必要です。
でも現時点では、暗号資産取引やDeFiといった投機関連以外でブロックチェーンを活用した成功事例は多くはありません。ブロックチェーン関連サービスのUIも、ブロックチェーンやWeb3の特性を反映できていないと感じています。この点、緒方さんはどうお考えですか?
緒方:デジタル通貨のインターフェースとしては、まず根本的に「価値を交換する」ということがあるかと思います。その点で今までとはまったく違うインターフェースになるかなと。
時田:価値の交換とそのトレーサビリティですね。いまはネットバンキングにしても時系列での支出はわかりますが、どんな性質のお金がどのように入り、どう推移したかまではわかりません。
その点、デジタル通貨はお金そのものにラベリングができます。たとえば副業している人や家賃収入がある人は、その収入を必要な支払いだけに充てる。塾の経営者は塾の売上で講師の給与を支払うといったことが可能です。
デジタル通貨とこれまでのお金の違いを考えると、意外とその点が大きく違うのかなと。そのラベリングを自動的にルール化できるのが特色なのかなと思います。
緒方:入ってくるお金を何に使うか自分でルールを決めて、こっちが減ったら、こっちも減らすということですね。デジタル通貨の特性によってユーザーの行動は大きく変わるけれど、いまはそのインターフェースとして、みんながイメージできるものがない状態なのかもしれませんね。
時田:それが感覚的に伝わるUIがあるとすごく生活が楽になると思います。家計簿をつけるのを面倒に感じるような人ほど助かるはずです。
価値を交換するということ
緒方:いま例に挙げられた塾の経営者や、先ほど話した地方で個人で商売をしている人と比べると、東京では労働の対価としてお金をもらうことが当たり前になりすぎているのかもしれないという気がするんです。
個人が価値を生み出したり、個人で精算したりといったことが、もっと当たり前になるといいと思います。入ってきたお金を消費するだけでなく、それを使って何かを生み出せるようになると、個人で何かを始める人が増えてくると思います。
時田:たしかにダイレクトに価値の交換ができるようになるといいですね。東京にいるとどうしても消費者としての意識が強くなってしまいますが、緒方さんのように地方に移住すると、移住者でも自分が住んでいる場所を地元として捉え、つながりを意識するようになりますか?
緒方:なりますね。僕は自分でお米をつくったり、薪を割ったりしているのですが、お米は自分がつくったもので文字通り食べていけることにまず感動しますし、食べられる以上のお米ができたら、お世話になった人にお裾分けしたりできますし、薪も割った後1年くらい乾燥させないと使えないので、移住した年にはまず知り合いから薪をもらい、3Dプリンターと物々交換しました(笑)。
地方にいるとそういうことが自然に発生するので、より本質的な価値の交換というものを感じます。
時田:おそらく価値の交換とは、本来そういうものなんでしょうね。ブロックチェーンを使えば、そうした本質的な価値の交換が物理的な距離を問わずできるようになります。そう考えるとやはり、メタバースとブロックチェーンは親和性が高いという気がします。
緒方:そうですね。そうしたデジタルなつながりもあると思います。
時田:そのつながりが、デジタル通貨やブロックチェーンによる新しい社会体験の1つになるということですね。本日はありがとうございました。