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人口減少社会でも豊かに暮らすための未来への処方箋

こんにちは、ディーカレットDCPのハナエです。
前回に引き続き、人口減少対策総合研究所理事長で『未来の年表』著者の河合雅司さんにお話を伺っていきます。

今後40年で日本社会は未曾有の劇的な変化を迎える、と河合さんは予測されています。人口減少社会でこれまでと同じような豊かさを維持するには、デジタル技術への積極活用が不可欠とも述べられています。

 そんななか、デジタル通貨には何ができるのか?

“課題先進国“である日本が直面する不都合な未来に一筋の希望を見出す、スリリングなお話に興味津々です!

前回までの記事 ▷
vol.1:人口減少社会の実態とデジタル化の可能性
vol.2:人口減少社会に必要な「信用ある基盤」とは?

人口減少社会における暮らしの変化

 河合雅司(以下、河合):今、日本は人口減少問題のトップランナーと言えます。ですから、これまでのように海外をロールモデルのようにすることはできません。ここからの20年は高齢化が深刻化し、さらにその後の20年は毎年90万人近く減っていく人口激減期に突入します。

毎年、仙台市ひとつ分くらいの人口が失われていく。さらにいうと、今後のマーケットは縮小するだけでなく高齢化もしていきますから、モノの消費量は二重の意味で減っていくことになります。日本がそのような時期に突入するなか、どのようにデジタル技術を活用していくのか。政府も、企業も、そのグランドデザインを求められていると言えますね。

時田一広(以下、時田):そもそも、人口減少すると人々の暮らしぶりはどのように変化していくのでしょうか?

河合:人口が減少したとしても電気や水道といった公共インフラは変わらず維持しなければなりません。例えそれがどんな過疎地であったとしても、そこに人が住んでいる限りライフラインを廃止することはできないのです。それは、小規模な地方自治体ほどインフラを維持するのにお金がかかるようになるということです。

人口減少対策総合研究所理事長で『未来の年表』著者の河合雅司さん(右)とディーカレットDCPのプロダクト開発責任者の時田一広

河合:一方、民間企業は、公共インフラ事業とは違い、その地域のマーケットがビジネスとして成り立たないほどまでに縮小すれば撤退あるいは廃業します。生活に不可欠な民間企業のサービスが無くなると不便になるので、便利性を求め、生活機能が集約している都市部へと移住する人が増えるでしょう。

とりわけ、移動が困難となった高齢者は生活インフラがまとまっている都市部の方が不便な地方で暮らすより楽ですよね。一方、人口の少ない地方では今後、電気代や水道代が割高になるので、企業のなかには人口が多く電気代などが地方より割安となる都市部の郊外などに工場を移転して、コストを抑えようとするところが出てくるでしょう。こうなると、人も企業も都市へと集中することとなります。

人口減少社会では、地方も地域の人口を集約化して商圏を維持していかないと生活コストが高くつくようになるだけでなく、人口流出を加速させかねないということです。

ハナエ:確かに、人々が集まり住んた方が効率がいいですよね。

時田:究極的にはそうやって集約化・効率化をしていかないと、社会コストがどんどん上がっていって立ち行かなくなってしまいますよね。

河合:そうなんです。国交省は「地域生活圏構想」を提唱しています。私は、さしあたりこれが一つの答えになるのではないかと思っています。これは要するに、10万人規模の生活圏(商圏)をつくるという考え方です。県庁所在地レベルの都市を軸として、その周辺のもう少し小さな自治体の人口集積地を結び付けて生活に必要なサービスを維持しようというアイデアです。

それぞれの市町村が独自に生活圏を築くわけではなく、複数の市町村にまたがって10万人規模の自立的な生活圏を築ければいいということです。この生活圏が維持できれば、生活に必要なほとんどのサービスは立地できると国交省は試算しています。

一ヶ所に集まり住もうということではなく、それぞれの人口集積地をデジタル技術でつないでいくということなんですね。働き手世代が減っていくのだから、遠隔医療やデジタル市役所など、自宅にいながら医療や行政のサービスを受けられるようにすることは不可欠になっていくでしょう。

戦略的に縮む10万人の「王国」

河合:私はこの地域生活圏とほぼ同じアイデアを『未来の年表』シリーズの1冊である『未来の地図帳』(講談社現代新書)で数年前に提言しております。是非読んでいただきたいのですが、拙著においては地域生活圏を「王国」と表現しました。

既存の自治体にこだわることなく、数万人から10万人くらいの商圏を維持するという考え方です。各地が「王国」を建設するには、そこに住む人々が食べていけるだけの産業を成立させることが不可欠です。国内マーケットは縮小していく一方ですので、「王国」内に立地する企業は直接海外へとモノを売っていくしかないわけです。

ハナエ:これが河合さんのおっしゃる「戦略的に縮む」ということでしょうか?

河合:これは「戦略的に縮む」という考え方の一部です。これだけではすべてを説明することにはなりません。「戦略的に縮む」とは大きく分けると企業が取り組むべき経営手法の改革と先ほどから述べてきた「王国」のような人口集約の二本柱で成り立ちます。

河合:企業の取り組みと人々の暮らし方の見直しの両方をリンクさせなければ、「戦略的に縮む」ことにはなり得ません。かつての日本は、若年層を中心に人口がどんどん増え、なおかつ国民が一定の所得水準・教育水準にあるという素晴らしく均質的な社会をつくり上げました。それがゆえに、企業は人々の生活をより豊かにする商品やサービスを生み出せば自然と売れていった。いいモノをより安く提供する経営者が名経営者だったわけです。

「薄利多売」から「厚利少売」への大転換

河合:しかし、今後の国内マーケットはこれまでのように拡大するわけではありません。経営者は自らフロンティアを開拓していかなければならないということです。マーケットが縮小するのだから従来の「薄利多売」型のビジネスモデルがうまく機能するはずがない。そこで私は「厚利少売」への必要性を唱えているわけです。

付加価値の高いモノを、その価値を理解する購買層に届けていく。その届け先は国内である必要はないということです。デジタル技術を使って、海外のどこに、自分たちの生産物を必要とする人がいるのか探さなくてはいけない。場合によっては、その少数の顧客に向けたオーダーメイド生産になるかもしれませんね。

河合:デジタル技術を駆使してニーズを拾い上げ、それに応えていく技術を磨いていけば、厚利少売は可能なはずなんです。 

現状維持から社会の再構築へ

 ハナエ:そうなってくると、大規模な生産設備や都心のオフィスも必要なくなるのでしょうか?

河合:その通りですね。むしろ、港や空港が近い地方都市が有利になってくるかもしれません。そうはいっても現状維持バイアスが強いのが日本人ですから、薄利多売の成功体験をなかなか手放そうとしないでしょうが。

でもそれでは日本は行き詰ります。新たな成功モデルをどう見せていけるかが、今後の課題です。効率性や生産性を上げながら現状を打破する積極的な施策を展開していくには、デジタル技術が不可欠です。デジタル技術を普及させる意味は大きいと思いますね。

時田:デジタル通貨プラットフォームでは事務作業をデジタルで代替し、プラットフォームに参加することでシステム投資も効率よくなります。またプラットフォーム内ではプログラムやデータも共有されますので、関係者で効率よく協力して、生産やサービス提供ができるようになります。

10万人規模の王国ができたところにこのような仕組みを取り入れることで再構築が進み、生産性が向上すると思います。

河合:重要な指摘ですね。昨今のコンパクトシティ構想なんかもそうなんですが、みんな「現状維持」を念頭においたアイデアなんですよ。コンパクトシティと「王国」とはまったく別物です。既存自治体の維持を前提としたディフェンス的なコンパクトシティではなく、オフェンスに転じていけるような発想が必要なんです。

ハナエ:なるほど。社会の維持ではなく「再構築」を念頭におくべきなのですね。

必ずやってくる未来のために、デジタル通貨ができること

河合:2000年から2020年までの20年間は、人口5万人未満の自治体で減少が進んできましたが、ここからの20年間は30万人規模の自治体でも人口減少が顕著になっていきます。マクドナルドや百貨店のような、今まで当たり前にそこにあった店舗やサービスが少しずつなくなっていく。それが県庁所在地ぐらいの人口規模の都市で起きるのです。

時田:日本の社会と経済が縮小していくというのは、ショッキングな出来事で、すんなりとは受け入れがたいものがあります。デジタル技術は人口減少社会の不備や不足を補うことができるはずですが、いまの日本社会は現状維持の意識が強く、課題にデジタル技術を活用できていないところがあります。

私たちは、そうした日本の現状を一歩先へ進めたいと考えています。私たちが推進するデジタル通貨のプラットフォームが展開されれば、現在の銀行の勘定系システムに比べて、コストは桁違いに下がります。

もっと言えば、データベース化されることで、引っ越しをした際に区役所で住所変更の手続きをしたら自動的に銀行や各必要機関に反映されるなど、銀行すら本人確認がいらなくなってくる。そうなれば劇的に業務量が減ります。

時田: デジタル通貨を10万人の王国に普及させて生産性を上げることで銀行も企業・自治体も今まで以上に地域のために働くことができるようになり、価値ある役割が果たせるような未来がやってくると思います。

河合:人口の将来推計は「予想」ではなく、過去に起きたことの未来投影です。人口減少は「必ずやってくる未来」です。それは恐ろしいように思えますが、逆に言えば、数少ない「予測可能な未来」でもあるわけです。だから備えることができる。私たちは、まずこの不都合な現実にきちんと向き合い、一度呑み込んで消化しなくてはいけません。

そのうえで、これからどうしていくべきなのか考えないといけない。実は、ここが一番大事なポイントです。デジタル技術は一定の有効性をもつまでに発展していますが、残念ながら日本社会には普及しているとは言えません。人口が減るという現実を真摯に受け止めそれを踏まえてデジタル技術を有効的に活用することができれば、この国の新しいあり方が実現されていくと信じています。

河合雅司(一般社団法人「人口減少対策総合研究所」理事長/作家・ジャーナリスト)
1963年生まれ。産経新聞社で論説委員などを務めた後、現職。現在、高知大学客員教授、大正大学客員教授などのほか、厚労省や人事院など政府の有識者会議委員を務める。これまで内閣官房、内閣府、農水省などの各会議委員も歴任した。「ファイザー医学記事賞」大賞、「ひまわり褒章」個人部門賞、「第80回文藝春秋読者賞」など受賞多数。最新刊の『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)をはじめとする『未来の年表』シリーズは累計100万部超のミリオンセラーとなる。

‐編集後記‐

今回もお読みいただき誠にありがとうございます。

最近めっきりテレビを見なくなっていた私でしたが、12月初めのある日曜日の夜、久々にテレビでも見てみようとリモコンを手に取りました。しばらくすると、「日曜日の初耳学」が始まりました。

今日は人口減少問題における日本の第一人者であり、100万部を超えるベストセラー『未来の年表』シリーズ著者の河合雅司さんです!と紹介がされ、しばらくすると「2030年に百貨店や銀行も地方から消える…!?」というワードが漏れ聞こえてきました。

私は思わず埋まっていたヨギボーから這い上がって、
「銀行が消える!?どいうことだ( ゚Д゚)!?」と耳がダンボのようになり、テレビにしがみつき見入ってしまいました。

それが、河合さんとの出会いでした…。

今までも日本の人口減少問題は聞いていたのですが、河合さんのお話は実態と処方箋を具体的かつ明瞭に説明されていたので、聞けば聞くほど惹き込まれてしまいました。

私の人生にも大事な問題であると思うと同時に、デジタル通貨ならぬデジタル技術は人口減少問題と大きくつながり得る部分があると感じました。

気づいたら、時田さんにslackで河合雅司さんとお話がしたいです!対談しましょうよ!と休暇中にも関わらずメッセージを送っていました…。

のちに実現した対談が今回の記事になります。皆さん、いかがでしたでしょうか?

PS:河合さんはとても穏やかで、ニコッと微笑まれるキュートな一面も感じられる一方で、人口減少問題について真摯に取り組む熱い姿勢をひしひしと感じました。

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