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デジタル通貨界の“ファーストペンギン”になるには!?

こんにちは、ディーカレットDCPのハナエです。
前回は、元日本銀行決済機構局長で、現在、当社主催の「デジタル通貨フォーラム」の座長を務める山岡浩巳さんに中央銀行と民間銀行のそれぞれの役割や、デジタル通貨を発行した場合どうなっていくのかについて詳しく深ぼっていただきました。
 
現行の中央銀行と民間銀行が共存しているように、デジタル通貨になったとしても基本的な役割は変わらずに補完し合っていくということがよく分かりました。
 
今回は、実際にデジタル通貨を発行する際のセキュリティ面や、デジタル通貨普及のカギなどをお伺いします。
 
前回までの記事 ▷
vol.3-1:2022年度版 デジタル通貨の世界的潮流
vol.3-2:中央銀行・民間銀行デジタル通貨は共存できる?

データガバナンスとセキュリティ

ハナエ:デジタル情報は便利である反面、情報が盗まれる危険性と隣り合わせの関係だと思いますが、セキュリティはどのように担保される想定ですか?
 
山岡浩巳(以下、山岡):これは非常に難しい問題で、特に中央銀行デジタル通貨(CBDC)においてはデリケートです。もしCBDCが国民全員が決済に利用する「一般利用型」で発行された場合、日々の細かい消費行動が全て中央銀行に集約される可能性があります。

フューチャー株式会社取締役グループCSOでデジタル通貨フォーラム座長の山岡浩巳さん

そこまで中央銀行が介入していいのかという問題と、民間で活かされたであろう情報を中央銀行が独り占めしていいのかというデータ独占の問題があるわけです。それらを考えていくとCBDCをつくるうえでデータガバナンスというのはものすごく重要な論点で、各国がCBDCの検討に時間がかかっている一因でもあります。
 
ハナエ:公的機関であるため、なおさら複雑でセンシティブなわけですね。

ディーカレットDCPのハナエこと東花絵

山岡:程度の差はありますが、もちろん同じ問題は民間にもあります。データを使うことはそのデータをきちんと管理する責任と裏腹なので、データガバナンスとデータセキュリティ、それぞれ体制を整えていかなければいけません。
 
ハナエ:どのように整えていくのですか?
 
山岡:まずはルールづくりです。最初は誰がどこまでアクセス可能かなど、情報のアクセス制限を設けます。
 
もう一つは匿名加工技術のルールづくりです。例えば、ある情報を格納する時は匿名化をかけて個人の名前と切り離して保管することで個人が特定できないようにするなどです。

このように、技術とガバナンスの併用により、決済インフラの運営を通じて集まった情報から個人のプライバシーが特定されないようにすることが必須です。

デジタル通貨は、ビジネスチャンスを生む有益なツール

ハナエ:情報の取り扱いを厳格に定める必要があるわけですね。
 
山岡:とりわけ決済となると、かなり強いディシプリンが必要でしょう。強い信頼が求められる社会インフラであるほど、社会的な責任も負うからです。
 
しかし、データというのは今後ますます重要になってきます。米中のビッグテックが次々と決済インフラに参入していることにも表れているように、デジタル決済は、データの集積と活用に向けた有効な手段となり得ます。
 
ハナエ:大きなビジネスチャンスを生み出す可能性があるわけですね。
 
山岡:有益な情報やデータは経済発展のためにも公平に活用されるべきだと思います。そのうえで、デジタル通貨はこれからの時代においてビジネスの主役を担う、非常に有益なツールになり得るわけです。

デジタル通貨普及のカギは?

ハナエ:デジタル通貨普及の一番のカギは何でしょうか?
 
山岡:デジタル通貨業界ではじめの一歩を踏み出す“ファーストペンギン”にとっては、まずは目に見える成果を出すことが重要であると思います。

とりわけ日本では、まだ世に出ていないものを、自分から積極的に試してみようという人は多くない。だから、実際にデジタル通貨を使ってみてこんなに便利になった、良くなったという、概念実証(PoC)にとどまらない実例があると、ガラッと変わっていくと思います。
 
ハナエ:PoCにとどまらない実例というのは具体的にはどういうことですか?
 
山岡:通常、いきなり新サービスを消費者が使い始めることは難しいので、有益性などを検証するためにPoCと呼ばれる実験を行います。それによって、例えば域内消費が活性化されるだろうとか、高齢者の役に立つだろうといった検証を行っていくわけです。
 
しかし、PoCはあくまで研究開発費の枠で行う試験環境での実験であり、生のビジネスと比べればあくまでトライアルです。したがって、企業の方々が次々とこの分野に参入する環境をつくっていくうえでは、リアルなビジネスに乗せた実例を一つでも創り出すことが、普及のきっかけになると思います。

ファーストペンギンになるためには?

ハナエ:ファーストペンギンになろうとしてるディーカレットDCPに対して、アドバイスをいただけますか?
 
山岡:この取り組みが人々の生活の向上や経済の発展に貢献するのだという「旗を立て続けていく」活動がとても重要だと思います。日本は文化的に、まず周りを見てから動こうという傾向が強く、新しい取り組みを進めていくには「理由付け」が求められやすいのです。
 
また、既存の金融インフラがすでに相当便利で安全にできている一方、そのコストは一般に認知されにくいため、人々が新しいものに乗り換えようというインセンティブが働きにくいのです。そのため、デジタル通貨の有用性を積極的に情宣していく活動が求められます。
 
ハナエ:道のりはまだ遠いですが、一つずつ着実にこなしていきたいと思います。

山岡:乗り越えるべきことは課題が多いと思います。しかし、ディーカレットDCPの仕組みは王道を歩んでおり、決済インフラのイノベーションを進めていくものだと思います。
 
デジタル通貨フォーラムは、その取り組みが始まった2020年の段階から、「ブロックチェーン技術を使いながら、価値は安定しているデジタル通貨が求められる」と言い続けてきました。このような見解は、広く支持されるようになってきています。

参考記事 ▷ ホントにわかるブロックチェーン1 ブロックチェーンとは?

2022年の金融市場では、もともと価値の不安定な暗号資産や、価値安定化スキームが十分でないステーブルコインの価値急落が顕著でした。このなかで、ブロックチェーンや分散台帳技術を取り入れつつも、価値は安定している決済手段が、世界的にも求められています。
 
日本のリーディングカンパニー100社が真摯にディスカッションし、叡智を集結させて導き出した民間デジタル通貨の考え得る最適解が今のかたちです。「新技術を取り入れつつ価値の安定した決済手段」という考え方は、メインストリームを行っていると言えます。

ハナエ:参加メンバーの皆さまのお力を借りることで、少しずつかたちにすることができております。
 
山岡:そのうえで、デジタル通貨が実現できる価値、例えば地球温暖化対応といった社会課題の克服や地域活性化などの価値を明確に示していく。そういった活動を繰り広げることで、日本におけるデジタル通貨のファーストペンギンとなり、ひいては未来の金融インフラの中核的な役割を担っていけるだろうと思います。
 
ハナエ:ありがとうございました。日本金融の歴史的変遷を直近で見られてきた山岡さんにそう言っていただけるのはとても心強く思います。ファーストペンギンになれるよう、頑張ってまいります。


山岡浩巳(フューチャー株式会社取締役グループCSO/デジタル通貨フォーラム座長)|IMF日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員、日本銀行金融市場局長、同決済機構局長などを経て現職。現在、東京都チーフ国際金融フェローなども務める。

- 編集後記 -

ここまでお読み頂きありがとうございます!
山岡さんのお話はいかがでしたでしょうか?
CBDCについてとても分かりやすくご説明いただき、私自身、改めて大変勉強になりました。

インタビューの最後に山岡さんが仰っていた「旗を立て続けていく活動」が、本当に大事なことであるなと感じています。

以前、とあるセミナーに参加した際も、主催の企業経営者の方が、「周りの人に批判されたり、そんなこと無理だろうと言われても、絶対にこの先大事なのはこれなんだ!」と自分の目標とプロダクトを信じ発信し続けたと仰っていました。
その方は旗を振り続けた結果、社会にとって重要なことを成し遂げて、いくつものの大きなプロジェクトに取り組まれています。

私はその苦労時代と社会に新たなニーズが生まれるまでの変遷を、一言一句逃さないようメモを必死に取りながら聞いていたのを思い出しました。これまた、私たちの今と重なる部分もありとても感銘を受けたのです。

まだ世にないデジタル通貨ですが、何回壁にぶつかって挫けても、幾度となく向かい続けたいと思いました。

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