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社会に「やさしさ」を取り戻す 新たな価値創造をサポートするデジタル通貨の可能性

前回に引き続き、auフィナンシャルホールディングス代表取締役の勝木朋彦さんとお話ししていきます。
 
デジタル通貨の有望領域として、クラウドファンディングやクラウドレンディングといったCtoCでお金を貸す仕組みがあるというお話でした。さらに、そのような少額融資が社会貢献につながる可能性を秘めているとのこと。
 
人の暮らしと社会の変化を見据える勝木さんと一緒に、デジタル通貨が拓くより良い未来について、さらに深掘りしていきます!


デジタル通貨が拓く、ソーシャルレンディングとドネーションの未来

ハナエ:前回、「ソーシャルレンディング」が社会貢献につながっているというお話でしたが?
 
勝木朋彦(以下、勝木):ソーシャルレンディングは、個人間で一般の金融機関では扱わない少額の融資額を貸し付けられるため、さまざまな方たちにチャンスが広がると思います。

auフィナンシャルホールディングス代表取締役社長の勝木朋彦さん

勝木:参考になるのは、バングラディシュで設立されたグラミン銀行によるマイクロファイナンスの事例です。彼らは所得が低くて銀行からお金を借りられない女性に5人1組の互助グループをつくってもらい、信頼関係に基づいた連帯保証によるグループ貸付をしています。少額融資を資金源としてビジネスを始めることで、貧困から抜け出し、経済的自立を果たすことができる。
 
そしてこれを非営利ではなく、銀行業として金利を取り、利益を得ているわけです。銀行スタッフは融資先の互助グループを週1回訪問し、返済と通帳記入のやり取り、返済スケジュールの確認を行います。このような運用管理をデジタル化した仕組みもあり得そうですよね。
 
ハナエ:経済的に困っている人を支援するサービスにも、デジタル通貨は役立ちそうですね。
 
勝木:他にもドネーション(寄付)でデジタル通貨が使われる可能性はあると考えています。デジタル通貨を使うメリットは「取引が公開され、お金の流れが透明になること」「支援が必要な人にお金が届くまでの時間が短縮されること」「振込手数料や事務コストが削減され、その分被支援者が受け取る金額が増えること」などが挙げられます。
 
2019年に首里城が火災で焼失した事故がありましたが、寄付の受け付けが終了した22年3月末時点で55億円が集まったといいます。寄付の方法は、銀行振込と納付通知書の2パターンでしたが、銀行振り込みの場合は、一部の銀行を除き振込手数料がかかる。寄付金の使用状況を知りたくても、情報へのアクセシビリティは低いと言えるでしょう。そんな課題もデジタル通貨で解決できるかもしれませんね。

メタバースと新しい社会的価値をつなぐ

時田:ところで、KDDIグループは「新しいデジタル領域の取り組み」を始められましたね。

勝木:23年3月7日、KDDIはリアルとバーチャルを軽やかに行き来する新しい世代に寄り添い、誰もがクリエイターになり得る世界に向けたメタバース・Web3サービス「αU (アルファユー)」の始動を発表しました。
 
メタバースでエンタメ体験や友人との会話を楽しめる「αU metaverse」、360度自由視点の高精細な音楽ライブを楽しめる「αU live」、デジタルアート作品などの購入ができる「αU market」、暗号資産を管理できる「αU wallet」、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αU place」といった多彩なサービスを提供する予定です。
 
例えば、先のドネーションとαUを組み合わせても面白いかもしれません。日本には古くから神社仏閣への寄進者の名前を玉垣に刻んで顕彰するという文化があります。

現時点では、首里城への寄付者の名前がどこかに刻まれるというようなことはなさそうですが、αUの世界で首里城復興寄付を受け付けることができたら、αUの中のバーチャル首里城の瓦に自分の名前を刻むことが可能になるかもしれない。寄付も日本国内だけではなく、世界中から集めることができ、再建着手の時間も早められるかもしれませんね。

ハナエ:重要文化財に自分の名前が書き込まれるというデジタルならではの体験ができると、寄付する楽しみも増しますね!

デジタル通貨は顧客利得性や利便性を向上させる

時田:デジタル通貨はauの既存サービスや未来のサービスとどう連携できる可能性がありそうですか?例えば、毎月の通信料やau PAYの支払いをデジタル通貨で行うと、何がどう変わるのか。あるいは、企業間取引のかたちはどう変わっていくと思われますか?
 
勝木:現状通信料は、複数のプロセスを経てお客さまに請求される仕組みになっています。しかし、デジタル通貨で行うことができれば、毎月10日の引き落としのタイミングを大幅に早めることができ、それにかかわる会社間の業務が大幅に削減できると思います。さらに、その分浮いたリソースを別の必要な分野へシフトできる。
 
au PAYも同様に、プロセスの効率化と短縮化が可能でしょう。他にも事務ミスの削減、請求業務にかかわるリソース削減による別業務へのシフト、請求日前後に問い合わせが集中するコールセンター業務負荷の軽減など、解決される課題はたくさんあると思います。
 
事業効率を最大化することで、よりお得で便利な金融・決済サービスをお客さまに提供していくことが可能になり、顧客利得性や利便性を上げる決済ツールになると思います。

デジタル通貨は「人のやさしさ」を表現する仕組みになれるか?

勝木:今までの資本主義は経済成長一本槍で、それが環境破壊や格差など、さまざまな歪みを生んできました。しかし、ここに来て、そうしたマイナス影響を是正する動きに価値が生まれるという逆転現象が起きていますそこにデジタル通貨が普及するきっかけがあるように思いますね。

時田:デジタル通貨が新しい社会的価値の創出をバックアップする仕組みをつくれたら、それがインセンティブになり、普及が加速するという流れがつくれるかもしれません。
 
勝木:今の経済システムだけで支えきれない人々を助けるような、あるいは日本人が昔から培ってきた互助の精神をもう一度取り戻すような方向性に、デジタル通貨をうまく使えると良いパーセプションが生まれると思います。
 
「新しいお金の回し方」と呼べる仕組みをデジタル通貨がつくっていけるかどうか。既存の金融システムの亜種ではなく、新しい金融システムをつくり出していくことがデジタル通貨の役目であり、課題になるでしょうね。
 
ハナエ:デジタル通貨で、社会価値を後押しできるような新しいお金の流れを生み出す仕組みをつくっていきたいと思います。ありがとうございました。

勝木朋彦(auフィナンシャルホールディングス株式会社 代表取締役社長)
1989年第二電電株式会社(現KDDI株式会社)入社。2007年より金融事業に携わり、2019年auフィナンシャルホールディングス代表取締役社長に就任。auじぶん銀行ほかグループ8社体制により、デジタルベースの次世代金融ビジネス創出を目指す。 

- 編集後記 -

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
そして、勝木社長含め協力してくださったauフィナンシャルホールディングスの皆さま、ありがとうございました!

実は、私は稲盛和夫さんのファンで本を何冊も愛読しています。経営者として、人としても稲盛さんが素晴らしいのは言わずと知れたことですよね。
稲盛さんのお言葉や考え方に触れると、日々、仕事をこなしていくなかで自分が見失っていた大事な心がまえであったり、「人生」というものについて改めて気づかされることが多く、とても活力が生まれるのです。

勝木さんは、第二電電に入社された際に稲盛さんから実際に教訓を受けていらっしゃたとのこと。とても羨ましいです…。でも、そんな稲盛さん精神を受け継いている勝木さんだからこそ、優しいお人柄と情熱、そして今の経営力が引き継がれているのだと感じました。

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