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ブロックチェーンは「思想」 分散化と透明性がつくる社会のミライ

こんにちは。
「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
 
今回のクロストークのお相手は、社会活動家の武井浩三さんです。
2007年に不動産テック企業「ダイヤモンドメディア」を創業し、不動産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進されました。
 
そんな武井さんはホラクラシー経営、ティール組織とも例えられる「自然経営(じねんけいえい)」という独自の経営スタイルを確立しました。
 
DXを推進する最先端デジタル技術であるブロックチェーンと自然経営には共通点があるんです。
それは「分散化」と「透明性」。
 
そんな武井さんの広く深い視野を学びながら、お金の未来を一緒に考えていきましょう!


はじまりの「倒産」

時田一広(以下、時田):武井さんは「上司部下なし、給料は自分で決める、社長と役員は毎年選挙」など、かなりドラスティックな組織経営に取り組まれていますが、なぜこのような考えにたどり着いたのですか?
 
武井浩三(以下、武井):実は初めて起業した会社を1年で倒産させてしまったのがそれまでの価値観が180度変わった出来事で、今の経営理念に辿り着くきっかけでした。
 
僕らの世代はデフレ真っ只中で青年期を過ごしたからなのか、「一旗あげたい、成功したい」と考える人が多かった気がします。僕も一発当ててやろうと思い、アメリカ留学から帰ってすぐにアパレル関係のWebメディアを起業しました。2006年、会社法が改正されて1円から起業できるようになったまさにその年の起業でした。

社会活動家・社会システムデザイナーの武井浩三さん(右)と、ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広

武井:しかし、立ち上げたはいいものの1年間の売り上げが数十万しかなくて…。今の事業では会社として成立しないことがわかったので、少しでもお金が残っているうちに別のことをやろうと考えました。
 
それを製造業をやっている父に相談したんです。そしたらめちゃくちゃ叱られましたね。「お前を信じて事業に参加してくれた仲間がいて、お客さんもいる。人を巻き込んで始めた以上、そこには社会的責任がある。それはお前の命より重いんだ」と。その言葉でようやく腹がくくれたんです。要するに、僕はビビってその責任を放棄したいだけだったんです。
 
その後、半年ほど悪あがきをして、最終的に事業を買い取ってくれる企業が見つかりました。借金が1000万ほどありましたが、なんとか返せた。でも、一緒に起業してくれた仲間の人生をめちゃくちゃにして、事業が社会に本当の価値を提供できたかもわからず、しこりが残る結果に終わりました。
 
そこで、一度立ち止まって真剣に考えてみようと思ったんです。本当の社会性って何なのか、経済活動をするっていったいどういうことなのか。自分でイチから学び始めました。その時、その後の自分の方向性の指針になる3冊の本に出会いました。

・ゲイリー・ハメル著 『経営の未来: マネジメントをイノベーションせよ』
・リカルド・セムラー著 『奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ』
・天外伺朗著 『非常識経営の夜明け 燃える「フロー」型組織が奇跡を生む 』

この3冊には共通点があります。まず、経済的利益の最大化を目標にしていないところ。その代わりに「人間がいかに幸福に生きるかを追求すること」や「地球環境や地域経済と調和した経営」の大切さ、つまり経営の本質がさまざまな視点から書かれていました。自分の目指したい世界はこんな世界だと思わせてくれた。そして2007年、新たに不動産テック企業「ダイヤモンドメディア」を立ち上げたんです。

いい会社の条件、自然経営の壁

ハナエ:2回目の起業では、どんな会社を目指したんですか?
 
武井:仲間にまず最初に話したのは「僕はみんなで幸せになりたい。だから、創業者や役員に権力が集まらない組織をつくろうと思う。権力を民主化して、平等と公平を実現したい」ということでした。もちろん、完全に平等というわけではなく、役割分担や健全な報酬の差はあっていいんですが、権力には差をつけたくなかったんです。
 
その結果「上司部下をつくらない」「給料は社員がそれぞれ自分で決める」「命令してはいけない」など、組織のあり方がドラスティックに変わっていきました。僕たちは自然の摂理や宇宙の原則からぶれることはしたくないという想いで、自然を経営の参考にしていることから「自然経営(じねんけいえい)」と呼び始めました。
 
今でこそ「ホラクラシー経営」や「ティール組織」といった自律的でフラットな組織運営が出てきていますが、当時は前例がなかったので、「経営をなめてるのか?」と怒られることも多々ありました。でも、「こっちの方が会社にも社会にも絶対にいい」という揺るぎない確信がありました。それは今現在の活動にも活かされています。

武井:しかし、「いい会社組織をつくりたい」「世の中にとって本当に価値ある何かを提供したい」と思って活動するとき、いつも壁になったのが法律でした。例えば、労働基準法。これはおよそ80年前に作られた法律で、そのベースになったのは1911年に公布された工場法という法律でした。
 
どちらも「資本家 vs 労働者」という対立構造が前提としてあって、労働者を劣悪な労働環境から守るのが目的です。でも、その前提条件が現代には必ずしも当てはまらない。少なくとも、僕たちの組織にその対立構造はありません。
 
時田:以前の常識からすれば、労働者は資本家が所有するもので、お金は所有の手段だったわけですからね。

武井:労働基準法の他には、会社法や税制関係の諸法規がそうですね。そもそもの話、社長が会社を私物化した方が節税になるのが今の税制です。役員報酬を減らして、車や家を「経費」として買った方が払う税金が減るわけですから。だから、会社の私物化が進む。僕はそれがいいことだとは思っていません。
 
会社が「社会の公器」であるならば、それは全ての人にとって公正なものであるべきだからです。ただ、そうやって異を唱えると法人税が上がるんですよね(笑)。今の税制は、いい会社をつくろうとする流れをアクセラレートするようにはできてない。
 
時田:グレーゾーンがたくさんありますよね。そのあたりは不透明にされがちです。
 
武井:まさに、トレーサビリティの話なんですよ。健全性と情報の透明性が正比例するのは明白です。僕がブロックチェーンに興味を持ったのは、それが情報の透明性に関する思想だったからです。
 
ダイヤモンドメディア(不動産ITサービス)では僕が退任するまで、毎年、役員選挙をしたり、情報開示を徹底させたり、誰でも意思決定できる仕組みをつくったりしていました。そうした取り組みをしていくなかでブロックチェーンの考え方に出会って、「自分の理念と全く一緒だ」と驚いたんです。

武井:例えば、パブリックのチェック機能によって不当な情報改ざんを防ぐということについてブロックチェーンは、オンチェーンでみんなが同じ情報を同時に持つことで改ざんができないようにします
 
僕も社内でのやり取りはできるだけ複数人でおこなって、やり取りの結果を「関係者の記憶に刻む」ということを実践していました。それは恣意的な情報改ざんを防ぐ目的があったのですが、ブロックチェーンはそれをテクノロジーで達成している。もっと言えば、“分散化”という思想に非常に共感したんです。これはすごいことだと思って。
 
時田:おっしゃる通り、ブロックチェーンは「分散化という思想の社会実装」でもあります。

武井:ブロックチェーンの本質はIT革命以上のインパクトを人間社会にもたらすと思ってるんですよ。ブロックチェーンは「信用革命」と呼ばれる、産業革命とIT革命に続く大きな革命です。
 
何がいちばん衝撃的かといえば、信用を担保するのに「国家が必要なくなる」ということなんです。極論言えば、国家という仕組みに終わりを告げるのがブロックチェーンだと。これは不可逆的な技術革新だと言えます。

問題の山に、新しい価値が眠っている

時田:ところで、武井さんはなぜ不動産業界に進出されたんですか?
 
武井:きっかけは本当に偶然なのですが、関わるうちに面白い業界だなと思ったんです。中小企業を主体に13万社がつくる40兆円規模のマーケットなのに、ITが全然インフラ化していない。2023年の今でも普通にFAXが現役で稼働してますから(笑)。だからこそ、この業界のDXには価値があると思ったんです。
 
この産業の根本的な課題はいくつかあります。まず挙げられるのは情報の非対称性です。つまり、いい情報ほど世に出回らない。他にも、国や自治体が不動産のマスターデータを持っていないこと。不動産の登記が任意であること。その結果、所有者不明の土地が九州の面積と同じぐらいあるんです。

ハナエ:課題が山積みなんですね。
 
武井:不動産を私有財産として扱うことにも限界を感じますね。欧米では不動産はコミュニティが共有財として管理することが多いです。一方、日本は不動産が金融商品化されたばかりに、周囲の景観が損なわれています
 
時田:おっしゃる通りで、古い町屋が並ぶ地域に急に大きなマンションが立つことが増えてきていますよね。投資としてはマンションを建てた方が合理的なのでしょうけど、美しい景観という社会全体の利益は失われているのではと感じます。

武井:まさに「合成の誤謬」ですね。マクロとミクロの利害の不一致。あるいは資本主義の暴走とも言えます。法定通貨の価値だけで不動産が査定されることで、さまざまな弊害が生じている。地域が急激に富裕化して地元住人との所得格差が大きくなる「ジェントリフィケーション」の問題なんかがそうですが、いったい誰のための都市開発なのか。
 
そもそも新築住宅の供給量に規制をかけていないのは日本だけなんです。空き家問題は要するに供給過剰なわけですが、それでも供給が止まらないのは「お金の仕組み」の問題が関わっているということに気づきました
 
今、日本にある1600兆円くらいのマネーストックのうち、20パーセントは個人の借り入れです。さらに、そのうちのほとんどが住宅ローンなんですよ。政府はマネーストックを維持しようとして規制をかけませんが、それで得をするのは一部のグローバリストだけです。
 
全ての産業が貨幣システム=法定通貨制度のうえに載っているわけですが、この貨幣制度自体が実はサステナブルではないんです。
 
ハナエ:今の貨幣制度がサステナブルではない?気になります!次回は、お金の未来とサステナビリティにまつわる話を、武井さんと一緒にもっと深掘りしていきたいと思います。

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