DCJPYで銀行はどう変わる?大きな影響をもたらす2つの方式とは?
こんにちは。
ディーカレットDCPのDE BEYOND編集部です。
前回は元金融庁長官の遠藤俊英さんをお招きし、「デジタル通貨DCJPY(仮称)」(以下、DCJPY)の役割や、DCJPYネットワークが企業や社会に与えるインパクトについてお聞きしました。
一方でDCJPYネットワークは、勘定系システムを基盤とした現在の銀行業務のスリム化など、金融業界にも多くのメリットをもたらすサービスです。
DCJPYが金融業界に与える影響について、DCJPYの仕組みを踏まえながら、引き続き遠藤さんにお伺いしていきたいと思います。
メガバンクを中心とした金融業界への影響は?
——ディーカレットDCPはDCJPYネットワークのサービス開始に向けて、DCJPYを発行する民間銀行との協議を進めてきました。そうしたなかで前向きに導入スケジュールをご提示いただいた銀行がある一方、具体的な協議・調整などについてはまだまだこれからだと感じる部分もあります。遠藤さんはDCJPYが銀行と金融業界にもたらす影響を、どのように考えていらっしゃいますか?
遠藤俊英(以下、遠藤):私も長年金融の世界に携わってきましたが、金融というのはある種の約束事であり、目に見えるカタチのないサービスです。そのため議論や交渉事が多く、意思決定に時間がかかりやすいという側面があるかもしれません。
また、サービスやプロダクトがコモディティ化(一般化)しやすいのも、金融業界の特性の一つだと思います。他の業種の場合、ある企業が革新的なサービスやプロダクトを世に送り出し、それが顧客に支持されると、後発組が追い付くのは簡単ではありません。一方、日本の金融業界では伝統的に大手の信用が大きいこともあって、例えばネット銀行が始めたサービスを大手の金融機関が真似すると、みんな大手の方へ流れていってしまうんですね。大手を中心に、意思決定のあり方やお客さんの反応が他の業種とは若干異なるので、DCJPYのような前例のないサービスの導入は、最初のうちはなかなかスムーズに決断できない部分があるのかもしれません。ただ、ここ数年のテクノロジーの進化、ブロックチェーンをはじめとしたデジタル化の進展は目覚ましく、メガバンクなど大手の金融機関も、これまで築いてきたポジションのうえにあぐらをかいているとなかなか生き残れない時代になってきました。DCJPYがサービスを開始して、顧客から支持され、DCJPYネットワークを活用したビジネスの成功事例が生まれれば、大手の金融機関としても当然無視はできず、そこに参画していかなければなりません。
ですので、まず大切なのはDCJPYネットワークというサービスを着実に世に送り出すこと。前回(https://note.decurret-dcp.com/n/n7e1f11c0869f)お話したように、まずは小さなネットワークからスモールスタートし、利便性・革新性をきちんと示していくことが大切だと思います。
もちろんスモールスタートといっても、銀行がただDCJPYを発行するだけでは意味がありません。銀行が発行したDCJPYを民間の事業者が受け取り、取引に使って少しずつネットワークが広がる。その小さいネットワークの成功を見た大手の銀行が「自分たちもやらないと」と参画し、より大きなネットワークでDCJPYが交換されるようになっていくというのが、望ましい流れだと考えています。
マルチバンクの優位性と預金のデジタル化
——ありがとうございます。ビジネスゾーンとフィナンシャルゾーンの二層構造をはじめ、DCJPYネットワークには独自の方式や機能が数多く取り入れられています。それらのなかで、銀行や企業にとりわけ大きなインパクトをもたらすのは何だとお考えでしょうか?
遠藤:まず、複数の民間銀行が共通のネットワーク基盤を利用するマルチバンク方式というのは、非常に大きいと思います。先ほどネットワークが大切という話をしましたが、デジタル通貨を発行する銀行が一つに限られ、その銀行をメインバンクとする企業やビジネスオーナー同士でしか取引できないのであれば、ネットワークは極めて小さいものになってしまいます。
それがマルチバンクになることによって利便性が増し、企業と人の有機的なつながりが生まれて、銀行と企業を含めたネットワークが加速度的に増えていきます。商圏やコミュニティをつなぐというDCJPYの目的・ビジョンを実現していくうえでも、マルチバンク方式は大きな役割を担うでしょう。
また、ステーブルコインとは異なる、法定通貨の銀行預金をそのままデジタル化するという方式も非常に重要です。
ステーブルコインは法定通貨の価値と連動しますが、法定通貨そのものではありません。例えば企業がST(セキュリティトークン)で資金を調達し、それを投資に使いたいという場合、ステーブルコインだとわざわざデジタル資産を解約し、銀行に出金するなどして法定通貨に替えなければなりません。一方で預金型のDCJPYならば、同じ銀行の預金としてそのまま投資に活用できます。
DCJPYが広まることによって、STは低コストかつ簡便な資金調達手段という本来の役割を取り戻し、中小企業やベンチャーも積極的に活用できるようになるはずです。デジタル通貨と法定通貨が直接結び付いているというのは、前回お話した実社会とデジタル空間をつなげるという点でも、DCJPYならではの非常に優れた特徴だと思います。
——ありがとうございました!