GMOあおぞらネット銀行 sunabar コミュニティイベント「ディーカレットDCPと語る、民間デジタル通貨の変遷」セミナーレポート
2023年11月16日(木)、渋谷フクラスにてGMOあおぞらネット銀行主催のコミュニティイベント「ディーカレットDCPと語る、民間デジタル通貨の変遷」が開催されました。
ディーカレットDCPからはCTO・プロダクト本部長の清水健一が登壇し、デジタル通貨DCJPY(仮称)のビジョンやテクノロジー、これまでの歩みについて語りました。当日の模様をお届けします!
金融・ビジネスの一体化で何がどう変わる?
小野沢宏晋(以下、小野沢):弊社(GMOあおぞらネット銀行)はディーカレットDCPさんとパートナーシップを結び、デジタル通貨で環境価値を取引・決済するサービスを2024年7月からスタートします。
先月10月にはプレスリリースを配信し、大手メディアにも大々的に取り上げられました。民間デジタル通貨への期待と注目度の高さを改めて実感しています。
そうしたなか、今日は民間デジタル通貨DCJPYと、その運用基盤であるDCJPYネットワークについて、ディーカレットDCPの清水さんと一緒にさらに深掘りしていければと思います。清水さん、よろしくお願いします。
清水健一(以下、清水):どうぞよろしくお願いします。まずは私たちがDCJPYでどんな課題を解決し、どういった世界を実現しようしているのか。プロダクトビジョンからご紹介させてください。
今さまざまな分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むなか、金融・ビジネスの一体化と、異業種間の連携が強く求められています。ひと言でいえば、このニーズに応えるのがDCJPYネットワークです。
DCJPYネットワークは金融とビジネスを統合し、新たなビジネスチャンスを創出する基盤になります。このネットワークにより、私たちの生活や価値観そのものが大きく変化していくはずです。
まず、誰もが自由にビジネスを行える、公正公平な社会が実現します。やや大げさに聞こえるかもしれませんが、現状は新しいスモールビジネスを始めようとすると資金調達が難航することも多く、具現化するのは簡単ではありません。これは、信用問題やテクノロジーの課題によって、目に見えない新しい価値が表現しにくいからです。
それをデジタル技術でどう解決するのかは後ほどまた詳しく話しますが、DCJPYネットワークによって金融とビジネスが一体化すると、お金の流れを意識することなくビジネスアイデアを実行に移せる環境が整います。
清水:また、異業種間の連携が進み、経済全体が活性化します。今日会場に来られている方のなかにはエンジニアの方も多いのでわかるかと思いますが、世の中には似たようなサービスがたくさんあって、それぞれ似たようなシステムがつくられていますよね。それらを相互接続して一体化するのは非常に大切ですし、それができるのがDCJPYネットワークの強みです。
さらに文化的には資源、時間といったアナログ的な要素がデジタル中心にシフトし、新たな価値観・文化が生まれていくでしょう。やや駆け足にはなりましたが、これがDCJPYネットワークのプロダクトビジョンと世界観です。
世界観を実現する仕組み~AMICと2つのゾーン~
清水:この世界観を実現するための技術的なアプローチとして、私たちは4つのコア要素を用意しています。それぞれの頭文字をとって「AMIC」と名付けました。
まず、最初の「A」はアセット。NFT(非代替性トークン)やST(セキュリティトークン)など、デジタル化された価値を表現する機能です。DCJPYネットワークではブロックチェーン技術を活用し、価値そのものをアセットとして安全かつ永続的に管理できるようになっています。
2つ目の「M」はマネーで、民間銀行の預金と連動するデジタル通貨です。支払手段としての機能だけでなく、後ほどご紹介するコントラクトと連携します。通貨そのものにビジネスロジックや取引ルールを組み込むことによって、新たな価値を生み出すことができます。
続いての「I」はアイデンティティで、KYC(本人確認手続き)に基づき民間銀行から発行される識別子です。アセット、マネーと紐付き、取引の安全性をコミットします。
最後の「C」はコントラクトで、マネーとアセットの取引条件を定義するプログラムです。こちらもブロックチェーン技術により、透明性が高く柔軟な取引を実現します。
清水:DCJPYネットワークの開発にあたっては、これら4つのコア要素をお互いに連携させ、組み合わせることで、デジタルな新しい経済圏を形成できるよう設計しました。
さらにDCJPYネットワークは、このAMICを中心に、ビジネスゾーン、フィナンシャルゾーンという2つのゾーンで構成されています。2つのゾーンそれぞれで異なる事業者、複数の銀行がつながり、さらにIBC(ブロックチェーン間通信)によってゾーン同士が相互連携します。これによって最初にお話したビジネス・金融の一体化と、異業種間の連携が可能になるというわけです。
分散型アーキテクチャの理由
小野沢:ありがとうございました。2024年のサービス開始に向けて、これまでわれわれもいろいろディスカッションさせていただきました。そうしたなか、いま清水さんがおっしゃったビジネスゾーンとフィナンシャルゾーンの連携、物とお金の流れを結び付けることの価値はすごく大きいと思っています。
一方、今後多くのプレーヤーがDCJPYネットワークに参画してくると、アーキテクチャの整備も非常に重要になるのかなと。矢上さんはどう思います?
矢上聡洋(以下、矢上):そうですね。私もアーキテクトとして開発に携わってきたなかで、本当にきちんと設計しておかないと普通に動かない(笑)…というのが世の常だと感じています。実際、DCJPYネットワークはどんなアーキテクチャコードで設計されているのですか?
清水:全体としては分散型のアプローチですね。勘定系システムの歴史、エンジニアリングの歴史を振り返ると、分散化・集中化というのは繰り返し議論されてきたテーマなのですが、私たちのサービスはあくまで民間が発行するデジタル通貨のネットワークサービスです。
民間主導でやるからにはコンソーシアム的な、民間の合同、集合といった考え方をしなければなりません。ユーザの皆さんがビジネスアイデアを持ち寄り、いかに自分たちのビジネスのベースラインをつくれるかが大切です。ですので、おのずと分散型のアプローチになりました。
矢上:エンジニアの視点からこのアーキテクチャを見ると、一般的なエンタープライズアーキテクチャに近い、普遍的なところがありますよね?
清水:そうですね。そのなかで特徴を挙げるとすれば、モジュラー構成にしている点です。モジュラー構成のなかの一つのレイヤーとしてDLT(分散型台帳技術)、つまりブロックチェーンを取り入れています。
また、ユーザがサービスを利用するにあたって、既存のシステムや業務フローを大きく変えなくても済むよう、BPM(Business Process Management)というレイヤーも用意しています。
デジタル通貨の運用に不可欠な機能は共通のパッケージとして提供しつつ、BPMで個社の業務フローやルールに合わせてカスタマイズしていけるというのが、このアーキテクチャの目的、全体像と言えるかもしれません。
決済指図型のデジタル通貨ができるまで
小野沢:ここまでビジョンとテクノロジーについて伺ってきましたが、デジタル通貨をサービスとして実装するには金融規制への対応など、法的な整理も欠かせないかと思います。そのあたりはどのように進めてきたのですか?
清水:弊社は2020年にデジタル通貨フォーラムを発足させました。そこで座長を務められる山岡浩巳さん(フューチャー株式会社取締役/元⽇本銀⾏決済機構局⻑)をはじめ、多くの方からアドバイス、アイデアをいただきながら議論と研究を重ねてきました。
まず、デジタル通貨の位置付けとしては、法定通貨と同じ「支払い手段(交換機能)」、「価値の保存」、「価値の尺度」という3つの機能を併せ持ち、かつデジタルに価値を記録したものと定義しています。
そのデジタル通貨を民間が発行するには、前払い型(チャージ型)などいくつかの方式があるのですが、生活に根ざした決済インフラとしての発展性、法的環境を考えると、やはり預金を直接の裏付けとする銀行型というのが最適な選択肢でした。
小野沢:ビジネスで使われるデジタル通貨の汎用性や発展性を担保したうえで、現行法のもとサービス化するとなると、銀行型が最適解だったと。
清水:そうですね。そのうえでお金とデジタル証書を分けて発行する方式などさらに試行錯誤を重ね、最終的に決済指図をトークン化する今のかたちに至りました。
やや細かい金融の話にはなりますが、DCJPYネットワークで利用者がデジタル通貨を発行すると、いったん自行勘定で振り替えられます。それを原資として同額のデジタル通貨が発行され、預金債権として保存されます。
それをビジネスゾーンで利用できるようにするのが、トークン化された決済指図です。決済指図によってビジネスゾーンとフィナンシャルゾーンのデジタル通貨残高が同期し、ユーザは金融機関やお金の流れを意識することなく、デジタル通貨を使って取引決済ができます。
CBDCとの関係は?
小野沢:最後はCBDC(中央銀行デジタル通貨)についてお聞かせください。DCJPYとCBDCはどのような関係になっていくと考えていますか?
清水:デジタル通貨フォーラムで「日銀がデジタル通貨を発行するのなら、民間がやる意味はあるのか?」「CBDCを待った方がいいのではないか?」と問われることも多いのですが、十分意味はありますし、DCJPYとCBDCは共存していくと思います。
欧米ではRLN(The Regulated Liability Network)というネットワークに多くの金融機関が集まり、CBDCについて先駆的な議論を進めています。その議論のなかで一つかたちになりつつあるのがDLTを活用し、これまでの中央銀行の仕組みとは別に、CBDCの共通的なプラットフォームをつくるという考え方です。
複数の民間銀行がそのプラットフォームへ接続し、そのなかで勘定を相殺すれば、今ある中央銀行の仕組みや役割を一気に変えることなく、スムーズに拡張しながらCBDCを運用していけます。
この仕組みが実現されれば、日本でも今の日銀の勘定システムとは別のところにCBDCを取り扱う環境ができるはずです。そこにDCJPYネットワークを接続すればDCJPYとの連動性を高められますし、それは先ほどお話したIBCで十分可能なことだと思っています。
小野沢:民間デジタル通貨、CBDCともに通貨の仕組みをなぞっているので、根っこの部分の考え方は両者の似ていますよね。中央銀行が発行するCBDCに民間の力が加わることで、さまざまなユースケースに対応できる柔軟性が出てくると思います。本日はありがとうございました。
清水:こちらこそありがとうございました。