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RWAで変わる不動産トークンエコノミーの拡大。「Japan Web3 Week」セミナーレポートPart.2

こんにちは。ディーカレットDCPの「DE BEYOND」編集部です。

今回は先日開催された「Japan Web3 Week」から、西村依希子さんをゲストにお招きしたトークセッションの模様をお届けします。

2016年に仮想通貨ビジネス勉強会(現日本暗号資産ビジネス協会)の立ち上げに参画された西村さんは、ブロックチェーン分野のキーパーソン的存在です。

現在は株式会社オープンハウスグループの社長室エバンジェリスト兼ブランドコミュニケーション部長としてご活躍されながら、不動産建設データ活用推進協会の理事、日本ブロックチェーン協会のアドバイザーを務め、数々のブロックチェーンプロジェクトを推進されています。

そんな西村さんは、RWA*1 が不動産業界にもたらすインパクトをどう考えていらっしゃるのでしょうか?RWAと預金型トークンの関係をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?ディーカレットDCP事業統括の時田一広が伺いました。

*1RWA:Real World Asset:不動産や自動車、株式といった現実世界の資産。これらをブロックチェーン上で取引できるアセットとしてデジタル化したのがRWAトークン


“いいとこ取り”の預金型トークン

時田一広(以下、時田):本日はよろしくお願いします。私たちは今年7月のサービスインに向けて、「Amic Sign」という預金型トークンの開発を進めています。

“Amic”はデジタルな資産である「アセット」と、その取引に用いる「マネー」、ユーザの身元を保証する「ID」、自動取引を可能にする「コントラクト」という4つの要素(主要な機能)の頭文字です。

時田:この4つを組み合わせることにより、環境取引、サプライチェーンといったさまざま分野で、銀行預金と同じ扱いになるデジタル通貨を使って取引できるようになります。西村さんはこのトークン化預金について、どういった印象をお持ちですか?

西村依希子(以下、西村):以前は企業が暗号資産を扱っていると、銀行が会社の口座すら開設してくれないような状況でした。そこから法整備が進み、暗号資産の取引も口座の開設時にはきちんとKYC(本人確認手続き)をする、規制をあらかじめ確認するといったかたちで行うようになりました。


株式会社オープンハウスグループの社長室エバンジェリスト兼ブランドコミュニケーション部長の西村依希子さん(左)と、ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広

一方、ブロックチェーンには、タイプスタンプが押せる、取引データを改ざんできない、透明性が保たれるといったブロックチェーンならではの特性があります。

ディーカレットDCPさんのサービスは、銀行業という金融の確固たる枠組みのなかで、ブロックチェーンの特性を活かしているサービスだと思います。それぞれ見事にいいとこ取りをすることで安心安全な取引を実現しているので、これはちょっとズルいなと(笑)。

時田:ありがとうございます。日本ではほとんどの人が銀行口座を持っているので、Web3の世界にシームレスに入っていくには、銀行預金をトークン化するのが有効な方法だと思っています。

西村:そうですよね。例えばビットコインと聞くと「怪しい…」と感じる方もいますが、銀行預金ならこれまで通りの感覚で運用できるので、すごく安全でハードルが低くなるのではないかと思います。

RWAが不動産業界にもたらすインパクト

時田:続いて本日のテーマであるRWAについてお聞かせください。RWAは昨年あたりから注目を集め、現実世界とWeb3の世界をつなぐアセットとして期待されています。

不動産業界にとっても非常にインパクトがあるかと思いますが、オープンハウスさんは事業展開のなかでRWAをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?

西村: RWAと言うとすごく新しいものに感じられるかもしれませんが、実は何てことのない、不動産、車といった以前から普通に存在していた資産なんですよね。

そのRWAとブロックチェーンを組み合わせて何かを生み出そうとするのなら、やはり事業として成り立たせなければいけません。私たちはよく「Why Blockchain?」と言うのですが、もともとあったものになぜブロックチェーンを使うのかというところがポイントになると思います。

その点で先ほどもお話したブロックチェーンの特性のうち、とりわけ重要なのがスマートコントラクトです。契約がプログラムとして書き込まれ、参加者が合意すれば自動的に実行されるというのは、すごく画期的で重要なモデルだと思います。

このスマートコントラクトを活用することで、例えば不動産の賃料を自動的に決済できますし、コネクテッドカーなどの分野でも、利用料を支払わなかったら車を止めるといったことができます。支払いが契約込みで自動的に実行されるということは、大きなイノベーションだと思います。

時田:スマートコントラクトを使えば、不動産の家賃がオーナーの元へ自動的に入金されますし、分配、振込といった手作業が大幅に削減されますよね。

このあたりはDX(デジタルトランスフォーメーション)にも関連すると思います。業務改革という点での預金型トークンの役割についてはいかがでしょうか?

西村:これまでの取引は、ほとんど人間の信義則をもとに行われてきました。それがプログラム化されることで、正確かつシンプルになると思います。人を介さず、高い手数料を取られることもなく、自動的にプログラムが走るという仕組みはDXとつながり、いろいろなことが便利で明確になるのではないでしょうか。

例えば不動産の権利は書類ベースのやり取りなので、不動産を担保にお金を借りようとすると、大きなコミュニケーションコストがかかってしまいます。

法規制などクリアしなければならない課題はあるものの、その不動産の権利をNFTなどで表象できるようになれば、DeFi(分散型金融)のマーケットで世界中の投資家から直接お金を借りることができるようになります。

「NOT A HOTEL」と「Onion」

時田:オープンハウスグループは、今話題の「NOT A HOTEL*2 にも出資されています。この出資の狙いや将来的な展望はどういったところにあるのでしょうか?

NOT A HOTELのウェブサイトより

*2NOT A HOTEL:日本全国のホテルやヴィラをシェア購入できるサービス。2022年からメンバーシップの会員権と宿泊施設の利用権が付いたNFTを販売。

西村:「NOT A HOTEL」はシェアリングの観点からご好評をいただいています。利用権をNFTとして販売しているのでWeb3サービスとしての特色もあるのですが、先ほどの「Why Blockchain?」という視点からすると、正直まだまだ弱いかなと。

ただ実際にやってみてわかったのは、NFTならではの効果です。不動産の権利書を持ち歩いて見せびらかす人はいませんが、NFTなら権利は常にスマホの中にあり、それが移った時もきちんと記録されます。

そうした権利が表象されたNFTは、人の所有欲や収集欲を刺激するのかなと。トレーディングカードのように、どうしても集めたくなるのが人の習性だと思います。NOT A HOTELではその権利をより手軽に取引でき、かつマーケティング的要素が発生するという証明になったのではないかと思っています。

ちなみにオープンハウスが出資したのは、「NOT A HOTEL」に事業性があったからです。単純にブロックチェーンを使っているからというわけではありません。もともと採算が取れる事業性があり、そこにトークン化という要素が上手く絡み合って掛け算のようなかたちになったので出資することになりました。

時田:まず事業があり、そこにNFTが上手く貢献していると。非常にわかりやすいユースケースだと思います。一方で西村さんは、シンガポールのMVL社の子会社が進めているプロジェクトのアドバイザーも務められています。

こちらは不動産分野の「NOT A HOTEL」とは違うサービスですが、RWAの活用という意味ではさらにもう一歩踏み込んだものなのではないかと思います。どういったサービスなのかご紹介していただけますか。


西村:今開発を進めているのは、「Onion」というEVトゥクトゥク(電動三輪タクシー)の所有権をNFT化するサービスです。NFTの購入者、つまりトゥクトゥクのオーナーは、ベトナム、カンボジアといった東南アジア諸国のタクシー運転手とリース契約を結び、リース料を受け取ることができます。

今、EVトゥクトゥクは1台50万円くらいの価格で販売されています。東南アジア諸国の所得水準からすると個人で買うのは難しい金額ですし、カンボジアは利息がとても高いので、簡単にお金を借りることもできません。現地のドライバーにとってはより安い利息でトゥクトゥクを借り入れることができ、償却期間の3年を過ぎれば、自分のものになるというメリットがあります。

ただ、東南アジア諸国のタクシー料金はすごく安く、その都度銀行で振り込んでいたら、オーナーの利益が少なくなってしまうので、そこにブロックチェーン技術を活用します。越境決済やマイクロペイメントに関して強みの大きいビジネスではないかと思い、今進めているところです。

時田:私も最初に知った時、非常に興味深いユースケースだと感じました。NFTのオーナーは現地のドライバーがトゥクトゥクを使ってどう働いているのか、アプリでチェックできるんですよね?

西村:はい。ドライバーがどこを走っているのか、いくら稼いでいるのかアプリでわかります。また、さらなる収益拡大のための打ち手としてカラーリングや車体に広告を載せるサービスもオーナー制度のローンチを待って第2段階で実装する計画です。

ちなみにドライバーがリース料を支払わないと、プログラムによってトゥクトゥクを動かせない状態になります。エネルギーは1ヵ月あたり200円くらいの電池なのですが、ドライバーが電池をステーションに買いに行った際、車両データや走行データが電池を介してステーション側に渡り、ブロックチェーンに書き込まれるので、稼働年数を偽って譲渡したりすることができません。

時田:オーナーにとっては金利差のメリットも大きいですよね。

西村:そうですね。カンボジアの金利は日本よりずっと高く、今20パーセントくらいです。仮に真ん中をとって10パーセントとしても、日本人にとっては魅力的な投資商品になるかなと思います。

ちなみに今はトゥクトゥク1台につき1つのNFTを発行するかたちですが、例えばこれを100台、200台といった単位でプールにし、小口化することもできます。また、ドライバーの働きに応じてオーナーの収益が大きくなる業績連動型にすることもできますが、その場合は証券扱いになるので、トークンをNFTからST(セキュリティトークン)に替える必要がありますね。

時田:現地のドライバーからすれば、より安い金利でトゥクトゥクが手に入るし、オーナー側にも金利差による利益があると。若い人に投資を学んでもらうという効果もあるのかなと思います。

西村:そうですね。デジタルネイティブ世代を中心に「ビットコインを買おう」という人は一定数いると思いますが、ビットコインは実体として何を売り買いしているのか分かりにくいですし、お金として使えるのかという懸念もあります。

それに対してこのサービスは、ブロックチェーンを使ってはいるものの、買うのはトゥクトゥクそのものです。そこにわかりやすさがあるかなと。

また、ドライバーに頑張ってもらうためにどうすべきなのか、どうコミュニケーションをとったらいいのか、いろいろ考えることで収益が上がりますし、スケールは小さいながらも、事業の感覚やいつ投資をすべきかといった判断力が身に付きます。そうした意味では金融教育にも役立つのではないかと思っています。

時田:今聞いていても非常に楽しくなるビジネスモデルですね。私も投資してみたいと思いますし、こういうビジネスモデルがもっとたくさん出てくると、RWAやWeb3は盛り上がるはずです。

RWAを取り巻く課題と展望

時田:続いてRWAの課題と展望についてお聞かせください。「Onion」のような新しいサービスが多く出てくれば、マーケットが立ち上がってくる期待が上がりますが、一方でまだまだ課題があるかなとも思います。

例えばNFT なのかSTなのかによってサービス運営者側の負担が大きく変わります。西村さんがおっしゃったように、資産や権利の種類、収益分配の方法によってはSTにする必要があり、その場合は金融商品取引業のライセンスを取らなければなりません。こうした点についてどう考えていらっしゃいますか?

西村:今は業界の人でも弁護士の見解を聞かないとわからないくらい法整備がラフだと思います。ただ、NFTでできることとSTでできることは違うので、STに該当するのであれば、しかるべきライセンスを取るなり、ライセンスを持つ業者と組むなりしなければいけません。今はそのスキームを探しているところですね。

あと課題というところで言うと、トークンに法的な拘束力があるのか。トラブルが生じた際、トークンを持っていることが何らかの証左になるのか、裁判で勝てるのかといった点については、これから判例を待たなければいけないと思っています。

時田:最後にわれわれの預金型トークンが、RWAの取引にどう活かせるのか、どのように貢献できるのか、コメントをください。

西村:RWAの取引はすべてデジタルがマストですよね。デジタルでないと何も始まらないという部分があります。例えば海外の人に「このICカードには10万円分チャージされているから大丈夫」といっても相手は理解できません。

それがブロックチェーンに書き込まれることで誰が見てもわかる状態になりますし、契約もスマートコントラクトによって自動的に行われるので、人為的な理由で資産が消えてしまったりすることもありません。その点でまずデジタルがマストだと思います。

また、先ほどライセンスを持つ業者と組むという話がありましたが、暗号資産を扱う場合は暗号資産交換業のライセンスも必要となり、ビジネスインが遅れてしまいます。

日本の銀行業という枠組みの中で資金の移動や決済ができるトークン化預金は、そういった課題を減らしてくれるという意味でも、とても役立つと思っています。

時田:本日はありがとうございました。

西村 依希子(株式会社オープンハウスグループ 社長室/ブランドコミュニケーション部長)
2015年東証一部上場グループの金融機関で初めてBitcoinを扱う計画を発表、2016年業界団体として現在の日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)を立ち上げ、国内取引所間の連携を開始。協会運営を通じて国内外の多くの取引所、ブロックチェーンプロジェクトと親交をもち、現在、不動産建設データ活用推進協会理事、日本ブロックチェーン協会(JBA)アドバイザー、東南アジアでMaaS領域のサービスを展開するMassVehicleLedgerのアドバイザーも務める。 2021年から株式会社オープンハウスグループ社長室にて、エバンジェリストとして不動産やリアルアセットと関連したブロックチェーンの応用活用について検討中。


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