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預金型デジタル通貨は必然のカタチ?JPモルガンが開発を進めるデポジットトークンとは?

こんにちは。ディーカレットDCPの「DE BEYOND」編集部です。

2023年9月、米ニューヨークに本社を置くJPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(以下、JPモルガン)が、国際送金の迅速化に向けてデポジットトークンの実用化を検討しているというニュースがありました。

金融業界におけるデポジット(英:Deposit)とは預金のこと。つまり、デポジットトークンは銀行の預金をトークン化したデジタルコインです。現時点でサービスや技術のディテールは明らかにされていないものの、基本的な部分では私たちが2024年に商用化するデジタル通貨DCJPY(仮称)と同じ仕組みだと考えられます。

ニュースの発信元であるブルームバーグによると、デポジットトークンを運用するインフラの大半は既に開発済み。アメリカの規制当局の承認を得られれば、JPモルガンはその後1年足らずで法人向けにサービスを提供できる可能性があるそうです。

アメリカ最大手の銀行グループが、なぜ預金型デジタル通貨であるデポジットトークンの実用化に向けて動き出しているのか。これまでの経緯を振り返りながら紐解いていきたいと思います。


金融のデジタルイノベーションをリードするJPモルガン

”銀行業のライセンスを持つテクノロジー企業”。JPモルガンの会長兼CEOのジェイミー・ダイモン氏が自社をそう評するように、JPモルガンは金融業界のデジタルイノベーションを常にリードしてきました。テクノロジーへの投資額は年間1兆円以上(2023年度は約2兆1400億円の見込み) 。なかでも力を入れているのが、ブロックチェーン技術の活用です。

JPモルガンは2020年に銀行主導型のブロックチェーン・プラットフォーム「Onyx(オニキス)」を立ち上げると、Onyx上で運用するコインシステム(デジタル通貨)の第一弾として、JPMコインをローンチ。これは米ドルと1:1でペッグするステーブルコインの一種であり、JPモルガンに口座を持つ機関投資家同士がグローバルな決済に用いることが可能です。2023年6月にはユーロ建ての決済にも対応し、現在の取引額は1日あたり約1500億円にのぼると言われています。

また、JPモルガンは各国の関係機関との連携も進めており、2022年にはシンガポール金融管理局(MAS)が主導するプロジェクト・ガーディアン*1 の一環として、試験的にデポジットトークンを発行しました。

*1 プロジェクト・ガーディアン:ブロックチェーンを活用し、分散型金融(DeFi)のインフラ開発を目指すプロジェクト。

こうした ブロックチェーン活用の取り組みの延長線上にあるのが、9月に報道されたデポジットトークン実用化への動きだと考えられます。そもそもデポジットトークンは、JPモルガンがこれまで開発・運用を進めてきたJPMコインとは異なる性質を持つデジタル通貨です。

また、民間銀行(商業銀行)の預金をブロックチェーン上で処理する点で、民間事業者が法定通貨を担保に発行するステーブルコインやCBDC(中央銀行デジタル通貨)とも異なる方式です。

なぜ今、デポジットトークンなのでしょうか?

預金型という「必然」

まず大きな理由として考えられるのが、預金型デジタル通貨の拡張性と発展性です。前述のとおり、現在JPモルガンが運用しているJPMコインはあくまで機関投資家向けのステーブルコインであり、利用できるのはJPモルガングループの金融機関に口座を持つ顧客同士の決済においてのみ。現時点で機関投資家以外の企業や個人が取引に用いることはできません。

これに対しデポジットトークンは、他行の顧客にも送金でき、セキュリティトークン(ST)やNFT(非代替性トークン)など、ブロックチェーン上のトークンとの取引・決済に適していると説明しています。今後加速すると予想されるさまざまなデジタル資産の取引、さらにはスマートコントラクトなどの自動取引が組み込まれた給与賃金の支払いにも対応できると思われます。

報道にもあったような国際送金のツールとして用いて銀行が直接接続されるようになれば、送金の際に、SWIFT中継銀行手数料(コルレス手数料)を支払う必要もなくなり、決済の低コスト化と送金時間の短縮化が進むことが期待できます。

さらに複数の金融機関でデポジットトークンの対応がされれば、メインバンクが異なる企業やビジネスオーナーが、預金という扱いのままブロックチェーン上でシームレスに取引・決済できます。デポジットトークンによる決済はデジタル空間の利用に留まらず、デジタルと連携したリアルな経済のマーケットへも拡がっていくでしょう。

あわせて預金型という安全性も理由の一つと考えられます。海外で発行されているドルなどのステーブルコインには、米ドルやユーロを担保にした法定通貨連動型、アルゴリズムによって価値の安定を図る無担保型があります。2022年5月には無担保型にあたるUST(テラUSD)が暴落し、信用不安が広がった結果、法定通貨連動型のUSDT(テザー)まで米ドルとディペッグ(価格乖離)してしまうという事態が起きました。

一方で日本国内のステーブルコインは、2023年6月に施行された改正資金決済法によって担保となる資産の国内保全が義務付けられたため、このような事態は発生しにくいと考えられますが、それ以前の大前提として、デポジットトークンはデジタル化された銀行の預金債権、法定通貨そのものです。仕組み上、ディペッグそのものが起こり得ません。

加えて、預金型であるということは、その管理を銀行が行うということ。KYC(本人確認手続き)、AML(マネーロンダリング防止対策)など、銀行が長年にわたって培ってきたノウハウを活用できます。また、会計上も現金とまったく同じ扱いとなり、預金保険も適用されます。

世界の金融市場をリードするJPモルガンがブロックチェーンというデジタル技術を活用し、さらに広い領域でイノベーションを加速させていくために、長年培ってきた銀行ノウハウを活用した預金型デジタル通貨、デポジットトークンに取り組むのは、必然的な流れだと考えられるのではないでしょうか。

DEPOSIT TOKENS A foundation for stable digital money:https://www.google.com/url?q=https://www.jpmorgan.com/onyx/documents/deposit-tokens.pdf&sa=D&source=docs&ust=1703128438581480&usg=AOvVaw05yZo11wFbfO2zOZHmVhKg

スイス銀行協会(SBA)の動き

デポジットトークンに注目しているのはJPモルガンだけではありません。
約260の銀行や証券会社が加盟するスイス銀行協会(SBA)もデポジットトークンの議論・研究を進めています。2023年3月には現時点での成果をまとめた『The Deposit Token New money for digital Switzerland(デポジットトークン デジタルスイスのための新しいお金)』というホワイトペーパーを発行しました。

The Deposit Token New money for digital Switzerland:https://www.swissbanking.ch/_Resources/Persistent/9/4/1/1/941178de59b98030206fc15ac8c99012f65df30b/SBA_The_Deposit_Token_EN_2023.pdf

このホワイトペーパーのなかでSBAは、既存のステーブルコインのボラティリティ(価格変動性)に言及しつつ(参照:The Deposit Token New money for digital Switzerland P7)、ブロックチェーンに基づくデポジットトークンは取引のリスクを軽減し、新しいビジネス分野を切り拓く可能性があるデジタル通貨だと位置付けています(参照:同P4)。

デジタルトランスフォーメーション(DX)が社会に浸透するなか、金融・ビジネスのイノベーションの基盤となるのは潜在的に不安定なステーブルコインより、プログラマビリティを備えた法定通貨の純粋なデジタルバージョン(=デポジットトークン)だというわけです。

さらにこのホワイトペーパーで興味深いのは、デポジットトークンを実現するための方式として、以下3つのバリエーションを挙げている点です(参照:同P10)。

【1】各銀行が標準化された技術基盤のもと、それぞれ独自に発行する「標準型トークン」
【2】各銀行が特別目的事業体(SPV)を共同所有し、そこで発行する単一型の「共同トークン」
【3】各銀行が技術基盤も含めて独自に発行・運営する「カラートークン」

SBAはこれら3つについて安定性や交換性、クライアント保護など7つの観点から検証した結果、2つ目の共同トークンが最も有望だとしています(参照:同P11)。

この共同トークンはひと言でいえば預金型、かつコンソーシアム型のデジタル通貨です。SPVと共通ネットワークの違いこそあれ、複数の民間銀行が集まり、預金として発行するデジタル通貨という点で、私たちが現在まで開発を進めてきたDCJPYネットワークと方向性を共にするものだと考えられます。

今回取り上げたJPモルガン、スイス銀行協会の動きを見てもわかるように、次世代の金融・ビジネスの基盤として、預金型のデジタル通貨は広い範囲で活用できる期待が寄せられているのは間違いありません。

ディーカレットDCPでは引き続きDCJPYネットワークの開発、商用展開を進めるとともに、DE BEYONDでは、最新の動向をウォッチ、レポートしていきたいと思います。

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