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共存・進化していくDCJPYとCBDC。その先に見える経済のカタチとは?


こんにちは。

ディーカレットDCPのDE BEYOND編集部です。

今年は、6月に施行された改正資金決済法によって日本国内でステーブルコインの発行ができるようになり、7月には日本銀行による第1回「CBDCフォーラム」が開催されました。それぞれメディアで大きく取り上げられるなど、デジタル通貨への社会的関心が急速に高まっています。

そうしたなか、民間銀行発行のデジタル通貨である「デジタル通貨DCJPY(仮称)」(以下、DCJPY)はどのような役割を担い、社会にどういったインパクトをもたらしていくのでしょうか?
日本銀行で金融市場局長や決済機構局長を歴任し、現在はデジタル通貨フォーラムの座長を務める山岡浩巳さんに詳しくお話を伺いました。


100を超える企業や団体が集まったデジタル通貨フォーラム


——本日はよろしくお願いします。まずはデジタル通貨フォーラムについてお聞かせください。山岡さんが座長を務めるデジタル通貨フォーラムは2020年12月の発足以降、100を超える企業や自治体、銀行と一緒にDCJPYの実証実験などさまざまな活動を行ってきました。この活動の意義を山岡さんはどう考えていらっしゃいますか?

山岡浩巳(以下、山岡):まず、企業や金融機関、地方自治体など、広範な業界や分野をリードする方々と「オールジャパン」で通貨システムへの理解を共有するとともに、その将来に向けた議論を深められたことは、大変有意義だったと思います。


フューチャー株式会社取締役グループCSOでデジタル通貨フォーラム座長の山岡浩巳さん



通貨システムは、これまでも過去のシステムの長所を継受しながら、技術進歩に取り入れる形で高度化を遂げてきた経緯があります。
したがって、通貨システムをさらに現代社会に発展させていくには、テクノロジーのさらなる進歩が前提となるわけですが、その前にまず、通貨システムが経済にとってなぜ重要なのか、そのコアな要素は何なのかを理解し、認識を共有しておく必要があります。
デジタル通貨フォーラムは、新しい技術の把握に加え、通貨システムの根本的な意義や機能の理解を深める場としても、大変有意義な場になっています。

通貨システムは、利用する人々や企業がいてこそ意味があります。もともとのニーズが乏しい中で机上の空論のうえにインフラをつくっても、使われないものになっては意味がありません。
この点、日々、現実のビジネスとしてに通貨システムを使っている企業や銀行の方々と、実務のニーズに根ざした議論や研究を進められたことには大きかったですね。フォーラムの活動を通じて、デジタル通貨が経済の発展に寄与していくための条件に関する認識が共有され、今後の通貨システム発展の土壌ができたと感じています。

イノベーションの主役はあくまで民間


——ありがとうございます。DCJPYは民間銀行が発行するデジタル通貨ですが、今年7月には第1回目の「CBDCフォーラム」が開催されるなど、中央銀行デジタル通貨(CBDC)も注目を集めています。山岡さんは、CBDCとDCJPYはどういった関係にあると考えていますか?改めて教えてください。

山岡:いま現在中央銀行と民間銀行が共存しているのと同じように、仮にCBDCが発行される場合でも、CBDCと民間銀行発行のDCJPYは必ず共存していくと思います。
近代以降の約200年にわたって、通貨システムは常に国と民間の協力によってつくられてきました。これは本当に不思議で、面白いことです。世界に数多くの国々がある中で、各国それぞれの中に一つの中央銀行と複数の民間銀行があり、民間事業者の活動によって通貨システムと経済が発展していくという仕組みは、ほぼどの国でも同じです。なぜそうなったかといえば、やはりこの仕組みが効率的であり、メリットが大きかったからだと思います。


 
そう考えると、民間のデジタル通貨フォーラムがある一方で、法定通貨にデジタル技術を活用するためのフォーラムが立ち上がるのは当然のことですし、これまでの通貨システムがそうだったように、これからの通貨システムも、両者の協力のもとで発展・進化していくだろうと思います。

CBDCには紙の銀行券などの現金をデジタル化するリテール型と、中央銀行預金に新しいデジタル技術を応用するホールセール型の二つが考えられています。日本においてCBDCが発行されるのか、また、発行される場合にはこのどちらの形態となるのかはこれから当局が判断することですが、これまでの歴史が示すように、どのような形態のCBDCが発行されても、民間企業や決済事業者の協力なしに定着することは難しいでしょう。

先ほどお話したように、通貨インフラにおいても、イノベーションの主役は民間でした。国や公的機関が信用のアンカーを提供し、そのうえで民間の事業者がイノベーションを進め、経済発展に貢献していくというシステムがこれまで約200年にわたって続いてきました。ブロックチェーンをはじめとする新しいデジタル技術が生まれても、このようなメカニズムは変わらないでしょうし、変える必要もないと思います。


 一方でステーブルコインとDCJPYの関係性についてはいかがでしょうか?


山岡:ステーブルコインが出てきたこと自体は必然であったと思います。ブロックチェーンを使った暗号資産はもともとビットコインから始まりましたが、ビットコインは結局、投機の対象にしかなりませんでした。価値の変動が大きすぎて、支払決済手段としては使えなかったからです。

「支払決済」という通貨本来の役割を考えた時に、「価値の安定」やこれへの信頼は決定的に重要であり、この中で、法定通貨と連動するステーブルコインが生まれてきたことは当然であると思います。また、資金決済法の改正に際し、この法律上の「ステーブルコイン」を安全な資産に裏付けられた法定通貨建てのものに限定し、これを発行できるようにした金融庁の判断も、理に適ったものだと考えています。


DCJPYは、今回の法改正以前から「円建てであり、安全資産を裏付けとし、さらに新しい技術を取り込める支払決済手段」という考え方をフルに取り入れていました。そのうえで、民間銀行がデジタル通貨を発行するという、実質的には預金を裏付けとする方式を検討し、デジタル通貨フォーラムで多くの企業や銀行に協力をいただきながら、ステーブルコインに先駆けて、DCJPYの設計や準備を進めてきました。

日本円および銀行預金と同じ信用力を持つDCJPYは、ステーブルコインの長所を取り入れつつ、KYC(Know Your Customer:金融機関における本人確認手続き)に基づく本人認証など、これまで銀行が積み重ねてきたリスク管理のノウハウも活かせるよう設計されたデジタル通貨です。CBDCはもちろんのこと、改正資金決済法に基づくステーブルコインとも十分共存できるものだと思います。 

——ありがとうございました。次回はDCJPYが社会に与えるインパクトについて、引き続き山岡さんにお伺いしていきます。

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