通信と金融のシナジー “バリアフリー”でデジタル決済の未来をつくる
こんにちは。「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
皆さんは、普段のちょっとしたお買い物をどんなふうに決済していますか?
現金だけでなく、交通系電子マネー決済やスマホ決済など、キャッシュレス決済が便利になってきたと感じますよね。
キャッシュレス決済も戦国時代の様相になってきた流れのなかで、通信キャリア「au」でおなじみのKDDIグループは2019年に「auフィナンシャルホールディングス」を立ち上げ、金融事業を本格的にスタートさせました。
いったい、どんなデジタル決済の未来を描いているんでしょう?代表取締役社長の勝木朋彦さんにお話を伺ってみました。
「ワンブランドでクロスユース」が顧客体験を向上させる
ハナエ:2019年に「auフィナンシャルホールディングス」を立ち上げられたとのことですが、経緯について教えていただけますか?
勝木朋彦(以下、勝木):端的に言えば、バラバラだった金融サービスを一つに統合して成長を目指そうと考えたからです。さかのぼること15年前、08年にauじぶん銀行が開業しました。その後もau損保、auフィナンシャルサービス等の開業が続き、一貫した戦略実行のスピードアップを図る必要がありました。auフィナンシャルホールディングスは、グループの司令塔というわけです。
勝木:そうした効率化は、一貫した顧客体験を提供するためにあります。銀行、証券、保険、決済、アセットマネジメントといった金融サービスが一つにまとまることは、お客さまから見て“バリアフリー”に感じられると思います。グループ化を進めたもっとも大きな理由は、業種の垣根を越えたサービスの提供にあります。
時田一広(以下、時田):金融の世界は法制度が縦割りで顧客接点もそれぞれというのが基本ですが、ユーザーからすると自分の資産は一つで給与収入や貯蓄や投資からのリターン、保険の加入、ローンや融資、支払いにおける決済などフローとアセットを管理するのにサービスが別々なのはかなり手間がかかっています。「一つの金融サービスで提供してくれたら便利なのに」と思う人も大勢いたことでしょう。
勝木:そうですね。だからこそ、同じグループの商品をワンブランドでクロスユースするほうが、お客さまに違和感なく受け入れていただけるのではないかと。
最近では、Society5.0やデジタル田園都市国家構想が掲げられ、環境などに配慮した生活やビジネスのデジタル化が進み、サステナブルな次世代社会が展望されています。KDDIグループは、あらゆるシーンに通信が溶け込む5G通信の進化を中核としていますが、それと大きなシナジーが発揮できる金融領域にも注力していく方針を定めました。
勝木:5G通信やデジタルトランスフォーメーション(DX)、データドリブンなオペレーションを活用し、あらゆる金融サービスをスマートフォンで完結させる「スマホ・セントリック」な金融事業を提供することで、幅広い世代や多様な所得層、資産層がデジタル金融の恩恵を享受できます。それはKDDIグループのビジョンの実現にも通じていますし、顧客エンゲージメントによる通信事業とのシナジー効果も高い。
すでにキャッシュレスが社会に浸透し、生活のさまざまな場面で生じる金融サービスもスマホ中心になりつつあります。ECやリアルの決済はもとより投資やローン、貯蓄など、日常の消費から長期のお金の管理までスマホのみで実現可能です。通信と金融の双方向シナジーを事業の指針にしています。
古くて新しいエンベデッドファイナンス
勝木:このように、非金融業者が自社のサービスに金融を組み込むことを「エンベデッドファイナンス」と呼びますが、その歴史は実は新しいようでわりと歴史のあるものです。元をたどると、その起源は1920年代アメリカの自動車産業にあります。
フォードが世界初の大量生産車であるT型フォードを世に送り出し全米一のシェアを誇っていた当時、それをゼネラル・モーターズ(GM)が抜くという画期的な出来事が起こりました。その大きな要因が「オートローン」だったと言われています。GMは自社でオートローンを始め、超低金利で低所得者層に融資を行いました。
ハナエ:エンベデッドファイナンスはGMが最初だったんですね。
勝木:自動車を販売する企業にとってオートローンというのは、事業の本質と不可分かつシナジーのあるサービスですから、考えてみれば自然な展開なんです。当時もさほど取り沙汰されなかったようです。
ほぼ同じ頃、日本でも住宅販売や百貨店などで割賦が浸透しはじめ、衣食住に関わるさまざまな事業に金融が組み込まれていきました。およそ100年前から今日に至るまで、一般事業法人が提供するサービスと金融の結び付きは、ごく普通にあったんですよ。
勝木:最近だと、テスラのテレマティクス保険もこの流れにあると言えるでしょう。本業と金融のシナジーが大きい企業は、それらをセットにした状態が評価されます。本体と金融事業体がグループになっているのはそのためです。
逆に、両者のシナジーが希薄化した場合は金融事業体が分離し、独立した金融機関として事業を展開していきます。KDDIは前者で、通信事業と金融のシナジーを追求することで生まれる価値を評価していただきたいと考えています。
顧客のスマートな決済を後押しする、auかんたん決済
時田:携帯事業の莫大な決済額を考えれば、金融とのエンべデッドはむしろ自然な流れと言ってもよさそうですね。買った商品の代金を月々の携帯料金と合算して支払えるauかんたん決済は、クレジットカードなしでも後払いできる決済サービスとして、早くから普及していましたね。
勝木:そうですね。au PAYのように、ECのみならずオフラインでも決済できるサービスの場合は前払いになるわけですが、そのチャージでもっとよく使われているのが通信料金との合算請求なんですよ。わざわざ専用の端末から現金をチャージしなくてもいい。実はその決済スキーム自体は、ガラケーの頃からあったんです。
ハナエ:確かに、着メロや壁紙の頃から少額の決済を通信料金と合算して払っていましたね。
勝木:そしてスマホの時代になっても、独自の決済スキームを持つGAFAMからキャリアビリングを使わせてほしいと求められました。App StoreやGoogle Playにauかんたん決済が組み込まれているのは、通信料との合算支払いがユーザーにとって非常に便利で使いやすいからでしょう。
また、キャリアビリングの利用をリアル・オフラインにも拡充しようとしたのがau WALLET、現在のau PAYでした。キャリアとしての決済サービス事業、つまり通信料との合算支払いサービスは、現在では生活のあらゆるシーンでお客さまのスマートな決済を実現しています。
どんどん伸びる業績のヒミツ
時田:19年auフィナンシャルホールディングス設立時に掲げられた「スマートマネー構想」の成果はどうですか?
勝木:それは業績にはっきりと現れてきています。19年4月の設立以来、業績は着実に拡大しています。23年3月時点で、auじぶん銀行の口座数は500万口座を突破し、auフィナンシャルサービスのクレジットカード会員は850万人を超えました。au PAYコード決済の利用額も順調に推移しています。
決済・金融取扱高は14兆円で、規模にして19年度の2倍です。連結営業利益(IFRS)も19年度58億円から22年度は360億円と6倍超になり、業績・業容は着実に拡大しています。
時田:サービスの垣根をなくして、クロスユース率を高めることは顧客体験の向上につながっているということですね。
勝木:はい、想定通りの成果が出ています。
時田:通信料をクレジットカードで決済してる方って多いじゃないですか?
勝木:そうですね。最近は、私たちが提供するau PAYクレジットカードが通信料全体の支払いに占める割合も上がってきています。
時田:その割合が上がってくると、より良い還元ができそうですね。
勝木:その通りでかつ、au PAYカードで通信料金を支払ってauじぶん銀行からクレジットカード代金を引き落とすといった方法を選ぶ方も増えています。こうした相互利用の増加に効果をあげているのが「auまとめて金利優遇」なんですよ。
このプログラムは、au PAY、au PAYカード、auカブコム証券をauじぶん銀行と連携すると普通預金の金利が年0.20%になるというものです。今の日本の金利は安いですが、年利0.20%は通常0.001%のおよそ200倍です。
時田:なるほど。グループ内の金融サービスで流れるお金が増加していることにつながっているわけですね。
勝木:目新しいことをやっているわけではありませんが、お客さま目線で見れば使いやすさやお得感があると思います。グループ化できたからこそ、こうした事業展開がスムーズに可能になりました。
ハナエ:“バリアフリー”なサービスが生活をどんどんスマートで豊かにしますね!次回は、勝木さんに「キャッシュレス決済の未来」についてお話を伺いながら、デジタル通貨の活用領域の可能性を探っていきたいと思います。