エンタメ×Web3で届ける感動体験。東京ドームの新プロジェクト「enXross」
こんにちは。「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。
国内最大級の多目的スタジアムとして、年間約4,000万人(※)の来場者を集める東京ドーム。ライブやスポーツ観戦で訪れたことのある方も多いのではないでしょうか。その東京ドームが2023年12月、新プロジェクト「enXross(エンクロス)」をスタートさせました。(※2019年度)
コンセプトはWeb3技術によって新たな経済圏を生み出し、感動体験をアップデートすること。プロジェクトの裏側にはどういった背景や想いがあるのか、株式会社東京ドーム新規事業室の赤木翔さんにお話を伺いました。
変化を楽しむ会社へ。着目したのはテクノロジー
ハナエ:本日はよろしくお願いします。まずは「enXross」について、プロジェクトがスタートした背景やきっかけから教えていただけますか?
赤木 翔(以下、赤木):まず大きな理由として「受け身」の姿勢を変えたかったというのがあります。以前は当社が特別な営業をしなくても、東京ドームシティは、常に賑わいを見せていました。
そのため、とにかく現状の賑わいを維持していこうという雰囲気があったのですが、それが一変したのが2020年。コロナ禍によりほとんどのイベントが中止に追い込まれ、東京ドームシティの運営は雲行きが怪しくなりました。
つまり、東京ドームを中心に据えたビジネスモデルがあまりに強すぎたゆえに、大きな変化に対応できなかったんですね。そこで、このままではいけないと。変化を楽しみ、変化をキャッチアップしていく会社にしていかなくてはいけないと考えました。
そう考えると今の時代、大きな変化をもたらすのは、やはりテクノロジーです。変化に対応し、さらにお客様に新たな感動体験を提供するためにも、東京ドームをエンタメ、スポーツの聖地からテクノロジーへの聖地へと進化させていきたい。そんな想いが「enXross」というプロジェクトのきっかけですね。
「聖地」の条件と3つのテクノロジー
ハナエ:今「聖地」というキーワードが出ましたが、赤木さんの考えるエンタメやスポーツの「聖地」は、具体的にどういった場所ですか?
赤木:大きく4つの条件があると思います。1つはイベントが頻繁に開催されること。2つ目は多くの人が集まる場所であること。3つ目はスターが生まれること。4つ目は歴史を刻んでいることです。この4つは、野球を見てみるとわかりやすいかもしれません。
東京ドームの前身である後楽園スタジアムが完成したのは1937年。以降、プロ野球や六大学野球の試合が開催されるたびに多くの観客が集まり、そうしたなかで長嶋茂雄さん、王貞治さん、といった国民的スターが生まれました。
赤木:また、2000年代以降はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の舞台となり、イチローさんや大谷翔平選手の活躍が日本中を沸かせました。
前身の後楽園スタジアム時代を含め、80年以上にわたり多くの人に感動や興奮を与え、スターを育み、歴史を紡いできたのが東京ドームです。そういった意味において東京ドームはエンタメ、スポーツの「聖地」なのだと思います。
ハナエ:その東京ドームをテクノロジーの聖地へと進化させていくのが今回の「enXross」というプロジェクトですが、具体的にどういった技術に注目されていますか?
赤木:エンタメやスポーツに大きな影響をもたらすテクノロジーは、ブロックチェーン、AI、XR(クロスリアリティ)の3つだと考えています。2024年はそのうちの1つであるXRとエンタメの融合をテーマに、「enXross 2nd」というイベントを7月4日に開催します。
円谷プロがIPスポンサーに加わった「enXross 2nd」。シリコンバレーからの参加者も
ハナエ:具体的にどんなイベントなのか教えてください。
赤木:「enXross 2nd」では、「enXross HACKATHON(エンクロス・ハッカソン)」と、「enXross EXHIBITION(エンクロス・エキシビション)」という2つのイベントが同時開催されます。
「enXross HACKATHON」は、デザイナーやXRエンジニアがプロダクトを競い合う開発イベントです。今回は当社と親交の深いNiantic, Inc.(ナイアンティック社)*1 や円谷プロダクションおよびメタフィールド株式会社にIPスポンサーとして加わっていただきました。
「XRを活用した東京ドームシティの体験をアップデートするプロダクト」というテーマのもと、ハッカソンの参加者は円谷プロから貸与されたウルトラマンなどの3Dデータを使って創作することができます。
一方の「enXross EXHIBITION」では、企業ブースや体験型コンテンツの展示、ゲストスピーカーによるパネルディスカッションなどが行われます。
ハナエ:ウルトラマンシリーズの3Dデータを使えるというのはすごいですね。
赤木:本来ならIPを保有した会社に入社して、作品の制作に携わらなければ触れることのできないデータなので、なかなかない機会だと思います。6月17日が応募の締め切りだったのですが、非常に多くの方からご応募いただき、締め切り直前のオンラインコミュニティはお祭り騒ぎのようでした(笑)。
ウルトラマンと東京ドームを掛け合わせた面白い作品が多かったですし、シリコンバレーのエンジニアからの応募もあったようです。
やはり普段使えないデータを使えるというのはクリエイターにとって大きなモチベーションになりますし、日本のIPは海外でもとても人気があるので、IPスポンサーを募る方式は今後も続けていきたいと思っています。
ハナエ:貴重なデータとアイデアを組み合わせた、ワールドワイドなハッカソンになるということですね。楽しみにしています。
2007年の入社から新規事業を担当するまで
ハナエ:ここからは赤木さんご自身の経歴を振り返っていただきつつ、「enXross」のような新規プロジェクトに至るまでの経緯をお聞かせいただければと思います。赤木さんは入社当初から新規事業を担当されていたのですか?
赤木:いえ。2007年に入社してから2~3年の間はコンサートグッズなどの販売スタッフとして働いていました。そこから異動になり、東京ドームの運営ノウハウを活かして公共施設のオペレーションを代行する事業の営業と運営企画を10年ほど担当しました。
東京オリンピックの開催を控えていた当時は、日本全国で公共施設の建設が進んでいて、運営代行のニーズが世の中的に高まっていたんです。
新型コロナウイルスが流行し、スポーツやエンタメ業界では、多くのお客様を集めてイベントを行うことが難しくなりました。そこで社内の提案制度を利用して、新規事業の提案をしたところ採択され、それ以降はイノベーション推進本部の新規事業を統括する立場で仕事をしています。
ハナエ:最初の新規事業には、どういった構想があったのですか?
赤木:当初は東京ドームとクラウドファンディングを掛け合わせた事業を考えていました。
イベントや展示会に東京ドームを利用したいというお客様のなかには、予算の問題に頭を悩ませている方が少なくありません。
例えば、イベントの予算として1億円は用意できたものの、あと500万円あればさらにやりたいことができるという時。予算の調達に向けてさらに動きたくなるのはクリエイターやアーティスト、プランナーの性のようなものなのだと思います。
でも、多くの場合は諦めざるをえないわけです。そこでイベントの開催を望むファンと開催を実現したいクリエイターやアーティストをつなぐかたちで、東京ドーム固有のクラウドファンディングを提供すればニーズに合うと思っていました。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で、クリエイターを応援する気運が高まり、クラウドファンディングが一気に市場に浸透しました。そうなると、後発となるため、タイミングを逸した感があったので検討をやめてしまいました。
話をしていて思いついたのですが、今だったらこのアイデアにブロックチェーンを絡めますね。トークンを買ってもらい、直接資金を集められるプラットフォームがあれば、ファンはビジネスとして支援ができますし、クリエイターもファンと対等の関係で頑張れます。その結果として1つの経済圏ができていく。そういうプラットフォームを構想していました。ただ、これはあくまでリアルのイベントありきのプロジェクトです。
ハナエ:Web3やDAOのようなプラットフォーム提供ですね?
赤木:おっしゃるとおりです。いったん企画をストップさせていましたが、今こうして話していると、改めて実現させたくなってきました(笑)。
場所×テクノロジーで生まれる新しい経済圏。「夢」を応援する仕組みとは?
ハナエ:今後ブロックチェーンをはじめとするWeb3テクノロジーを活用していくにあたって、どんな戦略や展望を描かれていますか?
赤木:ブロックチェーンの機能的な価値は新しい経済圏を生み出し、それを大きくしていけるというところにあると思っています。とはいえ東京ドームだけでは規模が小さいので、強い想いを持ったファンのコミュニティと連携していきたいですね。そこで今、個人的に考えているのが、スタートアップのエンタメ版のような仕組みです。
ハナエ:具体的にどういったものですか?
赤木:ベンチャーファンドからの資金調達や株式の発行など、世の中にはスタートアップが成長していくための仕組みがありますよね。ブロックチェーンとトークンを活用して、そのエンタメ版のようなものがつくれればと考えています。
赤木:東京ドームのような場所はクリエイター、アーティストが夢を追いかけるための触媒のようなものになると思っています。その場所を活用して夢を描きやすいようにし、さらにテクノロジーによってその夢をみんなで追いかけるため機能とプラットフォームをかたちにする。
資本主義社会のなかでスタートアップが事業を拡大していくのと同じように、エンタメ分野のクリエイターやアーティストが資本主義社会で夢を叶え、成長していけるような仕組み・コミュニティをつくるのが今の個人的な目標です。
結び付きを強くするブロックチェーン。そこで生まれた価値は誰のもの?
ハナエ:今、赤木さんがおっしゃったように、コミュニティを生み出すことができるのはブロックチェーンの特性の1つだと思います。さらにその記録も残せますし、自分がつながったこと、やってきたことをトレースして、レコードとして他者に共有できます。
現実世界では人脈がないと生まれない関係がデジタルで生み出され、きちんとつながることができるという点で、ブロックチェーンはインターネットに価値を存在させ、リアルとも融合しやすい技術なのかなと思うのですが、赤木さんはどのようにお考えですか?
赤木:そうですね。現実社会でのつながりはあくまで1対1。それによって生まれる価値もあくまで当事者それぞれにとっての価値ですが、ブロックチェーンはそれに加えてインターネット上にも価値を生み出せるテクノロジーだと思います。当事者それぞれにとっての価値とあわせて、トークン、アセットという3つ目の価値が加わることで人と人との結び付きがさらに強くなるのがブロックチェーンの利点かなと。
ハナエ:私はアミューズメントパークが好きで、アミューズメントパークとブロックチェーンを組み合わせたらどんなことができるのか。Web3テクノロジーの本質的な良さを活かし、お客様が喜ぶことをどのように描けるのか。よく考えることがあります。
その点、同じエンタメ分野に携わる赤木さんは東京ドームを利用されているお客様へ向けて、ブロックチェーンを使ってどんな体験を提供していきたいとお考えですか?
赤木:これまで東京ドームを応援してくれた方、利用してくださった方に価値を還元すべきだと考えています。そこはブロックチェーンでできることなので、今後のサービスの機能として実装していきたいですね。
ただ、そこで誤解してはいけないのは、本質はあくまでコンテンツとファンの関係、サービスとそれを受けとる人の関係のなかにあるということ。例えば野球なら、まず試合というコンテンツがあり、それを面白いと思う人が球場に足を運ぶというのがビジネスの根幹です。これはコンサートとそれを観に来るファンの関係においても変わりません。
まずコンテンツとファン、サービスとお客様の関係があり、そこで得られるUXと価値を増幅させるのがブロックチェーンをはじめとするテクノロジーなのかなと。ブロックチェーンはデジタル上に価値を生み出しますが、その価値の源泉はあくまでコンテンツホルダー、つまりファン、お客様のものだと考えています。
ですので、まずはビジネスモデルやUXをしっかり設計すること。そこで仕上がったものに対してブロックチェーンを組み合わせたらどんなプラスアルファの価値を加えられるのか、今後もきちんと考えながらプロジェクトを進めていきたいですね。
ハナエ:ありがとうございました!