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民間デジタル通貨と国内外の潮流について。「Japan Web3 Week」セミナーレポートPart.1

こんにちは。ディーカレットDCPの「DE BEYOND」編集部です。

2月20日(火)から2月22(木)までの3日間、東京ビッグサイトにて「Japan Web3 Week」が開催されました。当日はWeb3関連のサービスを提供する多くの企業が参加。ディーカレットDCPもブースを出展し、民間デジタル通貨やRWA(現実資産)トークンにまつわるセミナーとトークセッションを開催しました。

今回はそのなかから、山岡浩巳さん(フューチャー株式会社取締役/デジタル通貨フォーラム座長)によるセミナーの模様をお届けします。


山岡浩巳: 本日はよろしくお願いいたします。この会場の多くの出展者がWeb3上でのサービス提供を謳っているように、今や多くの企業がデジタルサービスを提供しています。そこでポイントとなるのが、「デジタルサービスやデジタル資産への対価をどうやって支払うのか」ということです。デジタルエコノミーを拡大させていくには、そのための支払決済手段もイノベートしていかなければなりません。

山岡浩巳さん(フューチャー株式会社取締役/デジタル通貨フォーラム座長)

私が座長を務めさせていただいている「デジタル通貨フォーラム」では、デジタルエコノミーにおける支払決済インフラのあり方について、日本を代表する100社以上の企業とともに2020年から議論・研究を重ねてきました。

その結晶が、今年7月にサービスインする民間デジタル通貨「DCJPY(仮称)」です。本日は民間デジタル通貨に関する国内外の潮流についてお話ししつつ、DCJPYについてご紹介します。

K-POPから不動産まで。さまざまな分野で加速する資産のデジタル化

まずはデジタル決済手段がなぜ注目を集めているのか、背景からお話しさせてください。

昨年12月、韓国で開催されたIMF(国際通貨基金)のカンファレンスで、韓国銀行総裁の李昌鏞さんによる興味深いスピーチがありました。李さんによれば、韓国では今、さまざまな分野で権利や資産のデジタル化が加速しています。

例えばK-POP。K-POPは今や世界的な産業ですが、韓国ではアイドルグループのメンバーへの投票権などがNFT(非代替性トークン)として販売されています。また不動産分野では、不動産のリターンを分配するトークンも発行されています。

このようなデジタル化された資産・権利の取引や決済をスムーズに行うためには、プログラマブルな(プログラムを組み込める)決済手段が必要です。サービスそのものがいかにデジタル化されていても、毎月請求書を送り、受け取った側がその都度銀行送金し帳簿につけるといったことを繰り返していると、デジタル化の果実をフルに享受することはできません。デジタルエコノミーを巡る議論では、こうした考え方が強く意識されるようになっています。

デジタルな経済取引の3つの特性とは?

次に、デジタル経済取引とは具体的にどういったものなのか考えてみましょう。新しいデジタル経済取引には、大きく3つの特性があります。

1つ目は「分散化」です。「ブロックチェーン」や「分散台帳」などの技術を活用することにより、中央集権的なプラットフォームや管理者、仲介者を介することなく取引を実行することが可能となっています。さらに、当事者自身が意思決定にも参加できるのが、デジタルエコノミーにおける取引の特徴です。

2つ目は「自動化」です。あらかじめ取引成立の条件をプログラムとして組み込んでおき、この条件が満たされると同時に自動的に取引や決済が行われ、帳簿の記帳なども自動的に行うことが可能となります。このような機能は「スマートコントラクト」と呼ばれています。

3つ目は「取引範囲の拡大」です。今日この会場にもWeb3やNFT関連の企業のブースが多くありますが、アートの持ち分やクリエイターの知的財産から得られるリターン、不動産のリターン、Web3上の価値など、これまで取引が難しかった権利や資産をデジタルトークン化し、NFTやST(セキュリティトークン)などとして小口化し取引することが可能となっています。

こうした新しいデジタル取引を拡大させていくために、これからの決済インフラには何が求められるのでしょうか?

デジタル決済インフラに求められるもの

まずは決済手段の価値が安定していること。これは大前提です。ビットコインをはじめとする暗号資産のように価値が大きく変動していたら、安心して決済に使うことはできません。

それからプログラマビリティ。新しいデジタル資産の取引をスムーズかつ公平に実行するには、人の手を介さず支払いや記帳が自動的に行われるプログラマビリティが重要です。

さらに言えば、どちらもデジタルデータであるという点では、デジタル決済手段と「デジタルトークン」のようなデジタル資産の間に大きな違いはありません。したがって、両者が同じネットワークサービスに乗っていたり、お互いのネットワークを連携させられれば、取引の安全性や利便性がより高まります。

3つ目はセキュリティとコンプライアンス。マネーロンダリングなどの不正行為を防ぎ、安心安全な取引が行えるようにするには、インフラ提供者はセキュリティとコンプライアンスにしっかり取り組まなければなりません。
 
この3つが、これからのデジタルエコノミーを支える決済インフラに求められる条件です。

デジタル決済インフラの本当のメリットとは?

山岡:こうした性質や機能を備えたデジタル決済インフラは、私たちの社会に多くのメリットをもたらすと考えられます。その1つが金融包摂*1 です。

*1 金融包摂:経済活動に必要な金融サービスをあらゆる人が利用できるようにするための取り組み

2007年のiPhoneの発売以降、スマートフォンの利用者が世界中で爆発的に増えました。以前は金融包摂というと、銀行の支店をどこにつくるか、ATMをどこに置くかといった点に主眼が置かれていたのですが、スマホの普及により、新興国や開発途上国の人々もスマホアプリを利用して金融サービスにアクセスできるようになりました。

実際、中国のWeChatPayやケニアのM-PESAは、非接触型のモバイル決済手段およびモバイル送金サービスとして多くの人に利用されています。

もっとも、日本を含めた先進国では、既にほとんどの人が銀行口座を持っていますし、クレジットカードなど従来からの決済手段も広く普及しているので、デジタル化による金融包摂というメリットは、少なくとも先進国にとってはそれほど大きなものではありません。

先進国などでそれよりも大きく注目されているのが、データの活用です。現金での買い物では、誰がいつどこで何にいくら使ったのかといったデータを収集することは容易ではありませんが、モバイル決済なら決済と同時にすべて記録に残し、データとして収集することができます。

今多くの企業がデジタル決済分野に参入している大きな理由は、データを集めて活用する手段として、デジタル決済手段を提供することが最も効率的だからだといえ。ます。

また、新しいサービスの中には、そもそも決済手段がデジタルでないと成り立たないサービスも少なくありません。例えばUberのようなライドシェアサービスに現金を介在させると、配車から支払いまでアプリで完結するという利便性が損なわれますし、ドライバーが現金の盗難に遭うリスクも生じます。同様に、「ラストワンマイル」に貸自転車などを活用するMaaS(Mobility as a Service)の現金払いを認めると、現金や自転車そのものが盗まれてしまう可能性が高まりますし、今、誰がどこまで自転車を利用しているのか、サービスを提供する側が把握できなくなってしまいます。

デジタル決済手段はデータの活用という大きなメリットをもたらすと同時に、デジタルエコノミーを成立させるうえでの必要条件でもあるわけです。

デジタル決済手段の種類と現状

続いて、主なデジタル決済手段とそれぞれの現状・課題についてご紹介します。

まずはCBDC(中央銀行デジタル通貨)。2020年から21年にかけて4つの地域がCBDCを発行しました。そのうち3つはバハマ、東カリブ、ジャマイカというカリブ海の島国です。カリブ海周辺ではハリケーンが多く、現金の輸送にコストと手間がかかるという事情もあり、この3ヵ国は他国に先駆けてデジタル法定通貨を発行しました。

ただし、CBDCは実際にはあまり使われていません。現在の発行残高は各国とも、現金に対して0.1%から0.3%ほどにとどまっています。中央銀行が直接一般向けにデジタル通貨を供給することには銀行預金との競合といった複雑な問題もあり、リテール(一般)向けのCBDCを発行する動きは、少し小休止に入った感があります。

次はステーブルコイン。ステーブルコインには「価値が下落すれば発行量を減らす」などのアルゴリズムを組み込むことで価値の安定を図る「アルゴリズム型」と、銀行預金や国債を担保とする「裏付け資産型」があります。ただし、アルゴリズム型のステーブルコインは実際には価値の変動が大きく、支払い決済にはなかなか使えません。

一方の裏付け資産型は、担保によって価格変動を抑える仕組みです。ただ、発行側からすると担保を減らすほどより大きな発行益を得られるというインセンティブ構造があるので、実際には十分な担保を持たない発行元が出てきます。

昨年夏に発表されたPayPalの「PYUSD」のように、民間事業者がステーブルコインを発行する動きは現在も続いていますが、各国の規制当局はステーブルコインへの監視を相当に強めているというのが実情です。

エコノミストや大銀行が有望視するトークン化預金

デジタル決済手段を取り巻くこのような現状のなか、現在とりわけ注目されているのがトークン化預金です。これは、ブロックチェーンを活用し、民間銀行の預金にプログラムを組み込めるようにしたデジタル通貨です。

有名なところではJPモルガンが試験的に発行したシンガポールドル建ての「SGDコイン」、シティバンクなどが主導する「RLN(Regulated Liabilities Network)」などがあります。トークン化預金は民間銀行の直接の債務であり、NFTやSTの取引もそのまま銀行預金で決済できますし、これを通じて集めた資金を貸し出しや証券投資に充てることも可能です。

さらにスマートコントラクトを活用し、特定エリアで買い物をした人に特典を進呈したり、環境に貢献した人にリワードを賦与するといった、地域通貨のような使い方もできるでしょう。

実際、デジタルエコノミーの決済インフラとしてトークン化預金を有望視するエコノミストは少なくありませんし、JPモルガンやシティバンクなど各国の大銀行が預金型トークンのプロジェクトに取り組み始めています。

二層構造の民間デジタル通貨DCJPYとユースケース

最後はDCJPYについてご紹介させてください。デジタル通貨フォーラムで2020年から検討を進めてきたDCJPYは、今お話ししたトークン化預金とほぼ同じ方式の円建てデジタル通貨です。

日本ではとりわけ銀行への信認が厚く、その日本のデジタルエコノミーを支えるには、銀行預金そのものをイノベートする必要があるのではないかという視点が根本にあります。

そこで考え出されたのが「ビジネスゾーン」、「フィナンシャルゾーン」という二層構造を持つ円建て・銀行発行のデジタル通貨です。ビジネスゾーンでは原材料や部品が仕入れられたら代金を払う、ゴミを減らした人に報酬を支払うといったさまざまなプログラムをデジタル通貨に書き込むことができる「プログラマビリティ」を備えており、その決済にともなう預金の移転はフィナンシャルゾーンで行われます。

デジタル通貨フォーラムでは多くの企業や自治体などにご協力をいただき、この二層構造を備えたDCJPYのさまざまな実証実験を行ってきました。

その一例が、このスライドでご紹介する宮城県気仙沼市での実証実験です。子育て給付金にDCJPYを活用し、おむつやミルクの購入など、給付金の用途を子育て目的に制限したうえでデジタルベースで給付すれば、地域経済を活性化し、同時に速やかな支給や使途の限定、得られたデータの活用などを通じて政策の効果も高められるのではないかという発見を得ました。

これからの金融インフラは、デジタルとリアル両方の社会や経済活動をつなぐ橋渡し役ができなければなりません。デジタル通貨フォーラムではそうしたインフラを実現できるよう、今後も取り組んでいきたいと考えています。
 
ご清聴ありがとうございました。

山岡浩巳(フューチャー株式会社取締役グループCSO/デジタル通貨フォーラム座長)|IMF日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員、日本銀行金融市場局長、同決済機構局長などを経て現職。現在、東京都チーフ国際金融フェローなども務める。

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