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“シェアリングエコノミー”が世界的に進む背景と潮流

こんにちは、「デジタル決済の未来をツクル」ディーカレットDCPのハナエです。

皆さんは“シェアリングエコノミー”って聞いたことがありますか?
Uber Eats、メルカリ、タイムズカーシェア、クラウドワークス…
言葉は知らなくても、モノやスキルのシェアリングサービスはすっかりお馴染みになっていますよね。

でも、今なぜシェアリングエコノミーに注目が集まるのでしょうか?
そして世界のシェアリングエコノミー事情は一体どうなっているのでしょう?

そんな疑問に答えてくれるのは、デジタル庁シェアリングエコノミーの伝道師でシェアリングエコノミー協会代表理事でもある石山アンジュさん。
ディーカレットDCPの時田一広とともに、石山さんからシェアリングエコノミーについて学びながら、デジタル通貨の可能性を探っていきます。

なぜ、今、“シェアリングエコノミー”なのか?

ハナエ:そもそも「シェアリングエコノミー」って何なのでしょうか?

石山アンジュ(以下、石山):実はシェアリングエコノミー自体に確固たる定義は存在しないんですよ。何がシェアリングエコノミーで、何がそうでないかという線引きはとても難しい。日本でいう「お裾分け」も広義のシェアリングエコノミーだと言えます。ただ、インターネットを通じて「お裾分け的な個人間の取引」が現れはじめたのが2008年頃です。アメリカでAirbnbが生まれ、どんどん市場を拡大していったのもこの頃でした。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事でデジタル庁シェアリングエコノミー伝道師の石山アンジュさん

時田一広(以下、時田):なるほど。インターネットを介した「お裾分け」ですか。

ハナエ:なぜ今シェアリングエコノミーに注目が集まっているんでしょうか?

石山:シェアリングエコノミーへの注目には二つの背景があります。一つはインターネットの普及はもとより、位置情報の活用や決済システムの進化といったテクノロジーの発達によって、必要としている人と持っている人の情報を可視化し個人間や企業間、個人と企業の貸し借りや売買が簡単にできるようになったことです。

これまでのビジネスは、企業が仕入れ、生産、販売までを担う「BtoC(Business to Consumer)」のモデルが主流でした。そのためお金・情報・モノ・仕事などあらゆる物事は、国・銀行・企業といった中央集権的な組織を介して取引が行われており、自然とハブになる組織にお金や情報が集まっていく構造になっていました。しかし今は、テクノロジーで個人同士をつなぎ合わせた「CtoC(Consumer to Consumer)」のモデルが可能になっています。

石山:もう一つは社会のなかで“シェア”という価値観への共感が広がっていることです。インターネットは、情報やさまざまな物事の個人間やり取りを可能にしました。このような組織から個人への社会のパラダイムシフトは、物理的に所有する幸せから精神的な幸せへと「豊かさ」の概念が変化し、より「見えない価値」が大切になってきていることが関係しています。

ハナエ:ここ最近の社会的な変化とシェアリングエコノミーが見事にマッチしていたわけですね。

シェアリングエコノミーの世界的な潮流

時田:15年前に生まれたAirbnbも、いまでは全世界に普及しましたね。

ディーカレットDCPプロダクト開発責任者の時田一広(左)

石山:アメリカのほか中国などでも、時価総額が数十兆円を超える規模のスタートアップがシェアリングエコノミー市場を形成していきました。こうしたシェアリングエコノミーの形態を、私は「中国・米国型」「資本主義ドリブンなシェアリングエコノミー」と呼んでいます。

特徴としては、サービス事業者とユーザーどちらも成熟していてマッチングが起こりやすいことです。しかし、中国とアメリカを筆頭に成長したメガプラットフォームは、シェアリングエコノミー市場を席巻することで小さな会社が淘汰される側面がありました。

ハナエ:便利になった裏側でそんなことが起きていたわけですね。

石山:そこで、ヨーロッパでは「アメリカのグローバルテックプラットフォームを欧州市場に入れさせないぞ」といわゆるメガプラットフォームに対してアンチな風潮が強くなり、同じ頃からヨーロッパでは非営利型のシェアリングエコノミーが発達しました。

石山:NPOが運営するサービスに行政が補助金を出すことで、地域の人々がインターネットを介して物の貸し借りができるようになったり、「プラットフォーム・コープ」という組合型のプラットフォームが盛んに運営されていたりします。

代表例として、Airbnbならぬ「Fairbnb」というプラットフォームがあります。そこでは組合加入者がそれぞれ支払う1万円をプラットフォームの運営費に充てています。ですので、ここでの取引はほぼ非営利ということになります。個人間の取引を企業が仲介するAirbnbに対して、Fairbnbは個人間に企業は介在せず、コミュニティで運営されているのが特徴です。

Fairbnbのウェブサイト

石山:また、おとなりの韓国でもヨーロッパと似たような非営利型のシェアリングエコノミーが発達しています。例えば、市民の皆さんが寄贈したスーツをNPOが運用して他の人に貸し出すというサービスがあったりします。先ほどの中国・米国型に対して、こちらは「欧州・韓国型」「持続可能性主義ドリブンなシェアリングエコノミー」と言っていいでしょう。

ハナエ:日本はいかがでしょうか?

石山:日本では子育てシェアをマッチングできる「AsMama(アズママ)」が謝礼型のシェアリングエコノミーではもっとも成功しています。アズママは子どもを預けたいママと子守できるママをマッチングさせるサービスです。最大の特徴はお母さんからは手数料を1円も頂かないポリシーで、代わりにイベントで協業企業を募るなどで収益を得て運営しています

アズママのウェブサイト

時田:いろいろなシェアリングエコノミーがあるわけですね。

シェアリングエコノミーと分散型金融「DeFi」の共通点

時田:Fairbnbのような非営利プラットフォームはコミュニティで運営されていますよね。この「コミュニティ」は一体何をするんでしょうか?

石山:協同組合型になっていて例えば、家の貸主と借主のあいだで1000円の取引が成立した場合、その1000円のうちの20パーセントはコミュニティの資産としてプールされていきますその資産を何に使うかは、ユーザーが投票して決めています。例えば地域の社会事業や環境団体の支援などの寄付に投票ができたりします。

時田:あー、なるほど。「DeFi」みたいな感じですね。

ハナエ:DeFiって何ですか?

時田:暗号資産の一つで、中央管理者を必要としない分散型金融(Decentralized Finance)のことです。ブロックチェーン上に構築された金融サービスで、銀行や政府などの機関を通さずユーザー同士で取引や管理を行うというものです。

時田:要するに、これまで中央管理者が担っていた機能をブロックチェーンのプログラムに代替させているということですね。なおかつ、複数の個人が一つのファンドを運営していることになりますので、投資の方向性などはユーザー間の合意形成によって進められていきます

その際、中央管理者によるトップダウン型ではなく、「DAO」と呼ばれる分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)に参加しているメンバー同士で意思決定されます。意思決定に参加するには「ガバナンストークン」の保有が必要です。言わば、株式会社で言うところの株式のようなものですね。

石山:「みんなで決められる」というのは、「資本主義ドリブンなシェアリングエコノミー」にはない特徴ですし、優れている面も多いと思います。しかし、コミュニティのメンバー全員が平等かと言えば必ずしもそうではなく、実際はアジェンダを決めた人に権力が集中してしまいがちです。好む好まざるに関わらず、結局そういう不均衡が生じている現実もあります。

これはWeb3のクリエイターエコノミーなどにも起こり得る問題だと思います。要するに、成熟したメンバーによって良識ある運営がされなければ、せっかくのシェアリングエコノミーも資本主義的な不均衡に陥ってしまうということなんです。

時田:民主的な手法として始まったシェアリングエコノミーも、最終的には個々人の裁量に左右されるわけですね。

資金調達の手法が思想の違いを生む

石山:「持続可能性主義ドリブンなシェアリングエコノミー」は、現行の資本主義の仕組みとは違うかたちでインパクトのあるビジネスモデルを実現しようと出てきたものが多いです。ただ、このような組合型のものがすごく育っているかというとそうでもなく、そこには難しさもあります。やはり組合なので、意思決定をコミュニティの中でやらないといけません。ですから、なかなか合意形成ができないわけですね。

時田:ヨーロッパからメガテックが誕生していないのも、生まれにくい環境があるからなんですね。かたや中国のアリババやWeChatなどは「BATH」*1 と呼ばれるようにむしろGAFAM*2 に近いメガテックプラットフォームになっています。

*1 BATH:Baidu・Alibaba・Tencent・Huaweiといった中国の巨大プラットフォーマーの頭文字を取ったもの。

*2 GAFAM:Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoftといったアメリカのメガテック企業の頭文字を取ったもの。

ハナエ:何が決定的に違うのでしょうか?

石山:ヨーロッパのプラットフォーム運営者たちは、そもそも企業が上場して株式を公開するIPOを目指していません。つまり「どこまで拡大するか」という問いに対する答えに差がある。それがグローバル規模なのか、自国なのか、この街一帯なのか。

時田:その点、日本のプラットフォームはどうなんでしょうか?

石山:日本では、IPOを目指す企業以外の社会起業資金調達の選択肢が少ないですよね。ヨーロッパでは非営利スタートアップがソーシャルセクターとして盛り上がっていたり、財団がNPOに出資する流れがありますが、日本ではこうした出資形態はあまり広がっていない印象です。

ハナエ:シェアリングエコノミーにもさまざまな課題があるんですね。では、次回はシェアリングエコノミーが直面している課題についてさらに石山さんと深堀しながら、デジタル通貨をはじめとするデジタル技術による解決策を模索していきたいと思います。

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